73話 がんばれ、ウムル! 負けるな、ウムル! お前が積み重ねてきたものは、そんなものじゃないはずだ!
73話 がんばれ、ウムル! 負けるな、ウムル! お前が積み重ねてきたものは、そんなものじゃないはずだ!
(この私が……ウムル=ラトが……GOOの最果てに至った神格が……こんな、ヒョロガリ一匹に、なんで、こんな屈辱を……)
一瞬だけ、逃げ出そうかとも考えたのだが、しかし『無駄に高い誇り』が、ウムルをこの場にとどめさせた。それに、
(まだギリギリ脆弱な今のうちに殺しておかないと、手が付けられなくなるやも……っ)
いくつかの思考が重なって、
ウムルは、田中との殺し合いを続行することになった。
ウムルは、とにかく、全力で田中を殺すことに没頭した。
一度、『逃走』が頭をよぎったことで、
ウムルの中で、意識の変革が起きた。
屈辱による怒りと同時進行で、
田中に対する危機感を育んでいく。
怒りによる暴走に身を任せるのはいったんやめて、
冷静に確実に、田中を殺そうと考えはじめる。
だから、動きが丁寧になった。
内面の怒りは、まだ、グツグツと燃えているので、
それをパワーにかえることもできた。
とぎすまされたウムルの攻撃は見事の一言につきた。
永い時間をかけて磨き上げてきたウムルの武は美しかった。
――しかし、その全てが、結局のところ、
田中を成長させるためのエサにすぎなかった。
「強いな、ウムル。お前はちゃんと強い。だからこそ、ワシは、もっと高く飛べる」
綺麗に整ったウムルの武をパクっていく田中。
お手本にして、型をパクって、洗練させた上で、自分の中へと落とし込んでいく。
研磨する時間が足りないので、ディティールがかなり甘いが、しかし、下地としては、かなりの出来栄えになった。
『完璧に仕上げる』という段階に到るまでには、相当な時間がかかりそうだが、しかし、今、この段階で、すでに、『どうにか象にはなっている』ので、ウムルレベルが相手なら、通すことぐらいはできた。
「ぶげはぁあっ!」
田中の絶妙なカウンターがウムルの鼻を砕いた。
流水のように、ひらりひらりと、たゆたって、
田中は、ウムルを鮮やかに翻弄していく。
――その様を、ずっと、背景として見ていたセンが、
たまらなくなって、
「がんばれ! ウムル! 負けるな! そこだ! ああっ! 違う! そうじゃない! それじゃあ、田中の思うつぼだ! ああ、どうして、お前は、昔から、ずっとそうなんだ! そうじゃないだろ! もっと、こう、アレだろ! 何がどうとは言えんけどぉおお!」
手に汗握って、必死になってウムルを応援する『舞い散る閃光センエース』さん。
――ここまで、どうにか我慢していたセンだったが、しかし、流石に限界だった。
『努力しか取り柄がない無能の狂人』であるセンエースにとって、
『永い時間をかけて武を磨き続けてきたウムル』が、
『天才すぎるだけの田中』にボコられている姿は、
胸にこみあげてくるものがあった。
なんだか、もう、いたたまれなくなってしまった。
田中の天才性を魅せつけられている時間は、本当に、しんどくてしかたない。
『ウムルを殺さないと世界が危うい』だとか、『田中は人類サイドで、ウムルは敵サイド』だとか、そんなヌルい前提は、いったんどうでもよくなって、とにかく、今、『田中がウムルを圧倒している』という状態に辛抱たまらなくなった。




