63話 おまえじゃねぇ、すわってろ。
63話 おまえじゃねぇ、すわってろ。
「ふっ。この光……まるでスポットライトだな。大いなる主役が、世界の中心で背負う後光。そう、つまり、ここからは、俺の時間ってこと。センエース神話が……ここから、ようやく始まる――」
「当然のように適正なしだな。引っ込んでろ、セン」
かっこつけているセンに対し、ダリィは、無慈悲にそう言い切った。
現実をつきつけられたセンは、
一度、天を仰いで、
「ああ、なるほど……なるほどね。はいはい……そのパターンのアレね……」
と、穏やかな顔で、ボソっとつぶやく事しか出来なかった。
そして、また、彼は、空気に戻る。
存在感を消しているセンの向こう側で、田中が、
「……ちっ……」
その『不快な舌打ち音』に対して、
センが、くわっと目をひんむいて、
「今、お前、舌打ちしたな?! 舌打ちしたなぁああ! それは、どういう意味の舌打ちだ?! 『カンツがやられそうな現状』の『しんどさ』に対する舌打ちか?! それとも、俺がゴミすぎて呆れた感じの舌打ちか?! 後者だったら許さないかんな! 絶対ゆるさないかんな!」
「なんで適正ないねん、ボケが……おどれも、ちったぁ働けや」
「ずーっと、働いてきたわ、ボケがぁあ! この世の誰よりも、必死になって、長時間、全宇宙一の鬼ブラックな環境に文句ひとつ言わず、黙って、黙々と、健気に、可哀そうに、ずっと、ずっと、ずぅうっと、世界の中心で働いてきましたぁああ! だから、神の王になったんですぅ! つまりは、俺こそが命の頂点! だから! だから、貴様は、オレに殺されるべきなんだぁああ!」
「前提に関しては、もしかしたら、そうかもしれんけど、結論だけ、意味わからん」
吐き捨てるように、そう言ってから、
田中は、自分の奥に集中する。
そして、
「……こいよ、エルメス……このクソったれな現状を変えるために、ワシの剣となれ」
命令を遵守する輝き。
田中の魂魄の奥が萌ゆる。
深い輝きが結集して、
そして、形になる。
「きゅいぃぃいい!」
現れたのは、面構えが違う携帯ドラゴン。
格の違いを感じさせる怒涛の覇気。
エルメスの輝きを前にして、
ダリィが、目を見開き、
「な、なんだ、そのオーラ量……契約したばかりの初期ステの携帯ドラゴンが……なんで、そんな……」
ダリィの困惑をシカトして、田中は、
自分の携帯ドラゴンをジっと見つめながら、
「トランスフォーム」
そう宣言すると、
田中の携帯ドラゴン『エルメス』は、
田中の全身を包み込む鎧へと変化した。
『日曜日の朝』を彷彿とさせる、華麗なる変身。
携帯ドラゴンエルメスを着込んだ田中は、
「……さて、ほな、はじめようか。ここからは……ワシの時間や」
バッチリと決め台詞を宣言してから、
ウムルのもとへと、威風堂々に歩を進める。
★
圧倒的な力を持つウムルに、ほとんど抵抗できず、ボッコボコにされていたカンツ。
カンツの目はまったく死んでいないが、しかし、実力差・数値差のせいで、『カンツのすべて』が根こそぎ削られていく。
いくらカンツが『無敵にも思える鋼の精神』をもっているといっても、すべてを完璧に削り取られてしまえば、さすがに、どうしようもない。
ウムルは、『そこ』を最終目標として、無慈悲に、カンツを削り続けている。
ウムルからすれば、たいして難しい作業ではない。




