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【コミカライズ】センエース~舞い散る閃光の無限神生~  作者: 閃幽零×祝百万部@センエースの漫画版をBOOTHで販売中
究極超神C章 天。

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3636/6055

紅蓮のネス~華麗なる慟哭~

究極超神化3ソンキー

挿絵(By みてみん)

宇宙センエース

挿絵(By みてみん)


――大型イベントの第一弾!

文量的に、いつもの20話分以上あるので、

時間のある時に読んでいただければと思います(*´▽`*)



『特別読み切り』

紅蓮のネス~華麗なる慟哭~




 ここは、裏ダンジョン・ゼノリカの塔最下層内部にあるコントロールルーム。

 巨大なマルチモニターによるタイムラグのない情報共有。

 エマージェンシーに対し即座の対応が可能となる集中指令システム。

 休むことが許されない監視業務のストレスを緩和するパーフェクトオーダーメイドデスク。


 第二~第九アルファで何か問題が起こった際、すぐに動けるよう、常に、ゼノリカの天上に属する超人たちが、監視の目を光らせている。

 すべては、世界の安寧のため。

 ゼノリカは今日も、世界に対する献身を惜しまない。


「……龍種の天才型だったか。想定していたよりも、だいぶ強個体だったようだ」


 天下からの報告を受けたドナは、鬱陶しそうに溜息をついてから、


「天下だけでも……無理ではなさそうだが、ターゲットのタフネスとバイタリティを考えると、無駄に時間がかかりそうか……んー……仕方ない……天上も出すか……」


 そう判断を下すと、

 ドナは、近くで待機している『百済くだら』の一人『インディゴ005』に命令を出す。

 ちなみに彼は、ドナ直属の部隊『八闇』のメンバーの一人。

 ドナは『直属の部隊』を三つもっている。


 百済メンバーが所属している『八闇』、

 楽連メンバーが所属している『八光』、

 特殊な召喚獣の集まりである『八輪』。


「今空いているのは‥クウリュートとミネディとバンプティか…バンプティは待機で他2人を、討伐に向かわせなさい」


「かしこまりました」


 インディゴ005は、丁寧に返事をすると、トプンと影に潜んだ。


 ドナは、イスの背もたれに体重を預け、

 『ふぅぅぅ』と、少し長めのタメ息をついてから、


「……壊れたモンスターの暴走ぐらい、いい加減、天下だけで楽に処理できるようになってもらいたいのだが……」


 不満を口にする。

 ゼノリカの天下に属する者は、みな優秀で、かつ、努力を惜しまない『休みかたを忘れたウサギ』たち。

 しかし、それだけでは、ドナの理想には届いていない。


 精神的潔癖症のドナは、常に、『より完璧な世界』を求めている。

 だから、仮に、天下が壊れたモンスターを楽に処理できるようになったとしても、その時は、また、より上位の不満を口にするだろう。

 将来の彼女の不満を予想するとしたら『いいかげん、存在値10兆程度のザコ神ぐらい、天下単騎で処理できるようになってもらいたいのだが……』といったところだろうか。



「……『この上なく尊き命の王』を頂点とする組織の末端ともあろう者が、壊れたモンスター程度を鼻歌交じりに処理できないなど、話にならない」



 狂信者の中でも特に濃度がエグいドナにとって、

 今のゼノリカは、あまりにヌルすぎる。


 どいつもこいつもザコすぎる。

 覚悟も狂気も足りていない。

 決定的に自覚が足りない。

 己が『あまねくすべての命の頂点に立つ神の配下である』という自覚が。


「最近のゼノリカは停滞している……たるみきっている……」


 これは、あくまでも、ドナ個人の見解でしかない。

 実際のところは、別に停滞しているわけではない。

 みな、必死に努力して、輝く明日に向かって邁進している。

 少しずつ、ゼノリカの質は底上げされている。



 だが、ドナにとっては、その程度のゆるやかな成長は、もはや停滞と同じ。

 『尊き神の輝き』が心の深部に刻み込まれているドナにとって、

 『完璧以上』以外は全てゴミ。


「これではいけない……『果て無く尊き主』が統べる組織として、ふさわしくない……」


 ドナはいつもピリピリしている。

 眉間によったシワが固定化されている。



 ★



 ――その日、ゼノリカの天下、愚連のA級武士である『ネス』は、

 ゼノリカの天上、九華十傑の第十席序列25位の『エバ・マイマイン・ツンデレラ』と共に買い物をしていた。


 この日は、彼女と一緒に過ごすという約束をしていたネス。

 ネスは、中肉中背で、顔面偏差値48前後という凡庸な面構えの、どこからどう見ても凡人な男。


 目の下に謎の傷があって、へちゃむくれで、目つきが悪い…

 そのぐらいしか特徴らしい特徴がない凡夫。


 しかし、そんな彼には大きな秘密がある。

 彼の『意外過ぎる正体』を知る者は極めて少ない。


 彼に拾われ、彼に育てられ、彼を父と慕うエバも、

 『彼が本当は何者なのか』、

 その答えは持ち合わせていない。


「パパ、もっとかっこよく歩いて。それじゃあ、パパの魅力が世界に伝わらない。もっと、一歩一歩で、コスモゾーンの目をくらませるぐらいに輝いて」


「ムズいてぇ。お前の要求は、常にエグいてぇ」


「パパは世界一かっこいいヒーローなんだよ? それなのに、そんな、ほぼ精神的猫背みたいなスタイルで歩いていたら、ただのザコだと間違われちゃう。そんなのダメ。パパは常に、すべてを包み込む光でなきゃダメなの。一分一秒、気をぬかないで。常に何よりも尊くあって」


「……『ほぼ精神的猫背』って何? 概念からして難しすぎない?」


「あえてゴミみたいなオーラを出す必要はないってこと。本来の輝きを世界に魅せつけて」


「義理の娘が、俺に、もっと輝けとささやいている……」


 しんどそうにそうつぶやいてから、


「このゴミみたいなオーラは、あえて出してんじゃなく、ただのデフォルトなんだよ。あと、『世界一かっこいいヒーロー』という肩書は、愚連のA級武士には重すぎる。その領域は、『平熱マン聖剣至天帝』陛下とかの次元に到って、ようやく背負えるものだろ」 


「聖剣陛下は、確かに、そこそこスゴいと思うけど、パパと比べたら、やっぱりゴミだよ」


「そんなこと、よそで、絶対に言っちゃダメだからね。へたしたら、首飛ばされるからね」


「真実を口にしているのに首を飛ばしてくる組織なんて終わってしまえばいいんだよ、パパ」


「……『ラリっているおバカさんの咎』を『正式に非難しているだけの真っ当な組織』は終わらなくていいんだよ、エバ」


 などと、和やかな会話をしていた、

 その時、ネスが、



「……ん?」



 何かの気配を感じ取った模様。


「どうしたの、パパ」


(なかなか出来のいい結界だ……ただの反社じゃないな……)




 ★




 アラミナ・シュナイドは、近々結婚を控えている23歳の美女だった。

 見た目も中身も、非常にハイスペックな女性。

 幼いころから、ずっと、輝く明日のために努力を続けてきた勤勉な努力家。

 その生き様が認められて、高位の貴族に見初められた。

 『沙良想衆の現ライラを当主とする、古くから、ゼノリカに仕えてきた名家の跡取り』と結婚することになった。


 そんな幸せの絶頂にいるアラミナだったが、

 今、彼女は、『ヤバい目をした男』に襲われていた。


 人気(ひとけ)のない路地裏に引きずり込まれ、逃げ場を潰されている状態。


「こ、こんなマネをしたら、ゼノリカが黙っていないわよ。この周辺は、愚連の武士が、常に、巡回しているんだから、すぐに見つかって地獄を見るから。それに、私は――」


 と、自分の結婚相手の名前を出そうとした彼女の言葉を遮るようにして、

 ヤバい目をした男は、

 ニタァっと黒い笑みを浮かべ、


「俺の家はヘルファイア・ファミリアだ」


「……ぇ……」



 ヘルファイア・ファミリアは、十席17位であるカーミライム・ヘルファイアを当主とする大貴族。

 パンピーでは影すら踏めない最高位の神族。


 アラミナの結婚相手も、なかなかの名家なのだが、

 流石に、『十席が当主を務めているヘルファイア・ファミリア』とは比べ物にならない。


「バーミット・ヘルファイア。ヘルファイア家のなかでも異質の才能を持つ超人。つまり、俺は、いつか最高位の神になる男。だから、この程度の火遊びでミスるようなヘマはおかさねぇ。愚連のバカどもの監視体制を欺くフェイクオーラぐらいお手の物。ここに誰も近寄らせねぇように結界をはるのも楽勝。神族の血族をナメちゃいけねぇ。それに……仮にバレたとしても、てめぇを犯す程度の罪は余裕で許されるんだよ。世界最高クラスの貴族は伊達じゃねぇ。もっと言えば、誰も、パンピーのお前の訴えに耳を貸さない。俺が白と言えば黒も白になる。なぜなら、俺は神族の末裔だから」


「……」


「つぅかよぉ……天上人に相手してもらって光栄だろう? お前ら下等種族は、天上の家畜にすぎない。そんな家畜が、天上人に相手してもらえるんだぞ。喜べよ。ほら、笑え」


 ゼノリカの天上は、文字通り雲の上の存在。

 決して逆らうことは許されない上級国民の中の上級国民。


 本来、ゼノリカの天上に属する者や、その親族は、『絶対的な高潔さ』を求められているため、このようなゲスな行動をとることはない。

 だが、ごくまれに、バカがハシャぐこともある。

 本物の馬鹿は教育で矯正できない。

 この手の問題を、完全に防ぐということは難しい。


 そのぐらいの社会的常識が理解できているアラミナは、

 『厄介な相手に捕まってしまった』

 と、自分の不運を嘆く。


 ちなみに、『神族』をかたることは、かなりヤバい罪なので、

 相手が、そこまでの愚者である可能性は想定から外してしまった。


 常識の中で生きていると、非常識が意識の枠外に消えてしまう。



「……こ、婚約者がいます……もうすぐ結婚するんです……だから……やめてください」



 相手が神族の家系であるならば、

 下手なことは出来ない。

 今の彼女にとって、自分だけの問題ではないから。

 下手なことをすると、相手の家にも迷惑をかけてしまう。


 だから、アラミナは、慎重な対処をこころがけた。 

 そんな彼女に、バーミットは、


「下級のゴミ同士、結婚でもなんでも、好きにすればいいさ。ただ、お前らゴミどもを守るために、天上の神々が何をしてきたか。それをちゃんと考えねぇとな。それとも、お前はヘルファイア・ファミリアを敵にまわすのか? あん?」


「ゼノリカの大貴族が……こんな真似をして……除籍されますよ」


 『不運にも名家からクソが産まれる』……それそのものは仕方がない。

 サイコが産まれるかいなかは、100%運しだいだから、防ぎようがない。

 だから、『クソを産んだ』というだけで家の名前に傷がつくことはない。


 ――だが、『クソをかばった』となったら話は別。

 汚物はキチンと消毒すること。

 それが、貴族の義務の一つ。


 除籍された者は、二度と、神族の末裔を名乗れない。

 かつ、社会から『完全に終わったサイコパス』として扱われる。


 だからこそ、まともな神族の関係者は、上から叱責を受けないよう、慎重に生きている。

 自分が神族の関係者だからといって、愚かな傲慢さをふりかざしたりしない。


「俺は、いずれ、十席に届く逸材だ。いや、十席どころか、もっと上に行ける可能性もある、そんな俺を除籍することなど出来ない。俺は格が違うんだ」


 などと、そんなことをのたまうバーミットに対し、

 アラミナは、


(やばい……こいつ、頭おかしい……)


 アラミナも、それなりに高い存在値を誇っている。

 だから、相手のスペックがなんとなくわかった。


 バーミットは、確かに、ヘルファイア・ファミリアを名乗るに値するだけの資質がある。

 その辺は、身のこなし一つからでも理解できた。


 しかし、十席に上がれるほどの才能があるようには思えなかった。

 だから、アラミナは、バーミットのことを、

 『十席以上になれるほどの逸材』だとは認識せず、

 『やばい妄想をかたっている変態』だと正式に認識した。


(どうにかして、逃げないとヤバい……)


 この状況においては、『十席以上になれるほどの逸材』よりも『やばい妄想を騙っている変態』の方がよっぽど怖い。


 残虐なだけの冷静な支配者よりも、

 完全に頭おかしいサイコの方が、

 危うさという点では上。



「誰かぁあああああ! 助けてぇえええええ!」


 どうにかして逃げなくてはまずいと判断したアラミナは、


 自身の魔力とオーラを全開にまで引き上げた上で、

 喉がはちきれるほどの勢いで叫んだ。


 周辺一帯に響き渡るほどの声量。


 けれど、

 その様を、バーミットは、ニタニタと笑ってみている。


「だからぁ……結界を張っているって言っただろ? バカか、お前」


 心底から小ばかにしている表情。

 バーミットは、アラミナの髪の毛を乱暴につかんで、


「低能だねぇ……ほんと、下民ってやつは、これだから、いただけない……お前らみたいな、質の低い家畜が、そこらを我が物顔で歩いているのを見るとヘドが出る。もっと、悲壮感だしながら、隅っこを歩けよ、カスが」


「や、やめて……助けて、誰か……」


「だから、助けなんてこな――」


 と、そこで、





「お兄さん、そこでなにしてるのかなぁ? ちょっと話聞かせてもらえる?」 





 バーミットの背後から、そんな声が響いた。


「っ? ……ちっ」


 バーミットは、ギリっと奥歯をかみしめて、

 声のした方に視線を向ける。


「……どうやって入った……俺の結界を……どうやって――」


 などと、疑問符を口にする彼に、

 華麗なる『警察見参』をかました『ネス』は、


「ダメじゃない、こんな場所で勝手に結界なんて張って。行政の許可とか得てる? たぶん、得てないよね? もしあるなら、許可書みせてくれる? ないなら、ちょっと、屯所まできてもらうことになるけど」


「……てめぇ、愚連か……階級は?」


「ん? A級武士だけど?」


「……A級か……」


 と、反芻はんすうしつつ、バーミットは、心の中で、


(A級の目ぐらいなら、余裕で欺けるはずなんだが……こいつ、看破系スキル特化型か? ちっ……鬱陶しい……)


 しんどそうに溜息を交えつつ、


(まあいい。不運なんざなれっこ。それに、A級なら、普通に処理できる……そこまでするつもりはなかったが……もういいか……こうなったら、いっそ、とことん……)


 ネスを殺してしまおうか、

 と、考えたバーミット。


 しかし、そこで、彼は、ネスの背後から、こっちに近づいてくる存在に気づく。

 静かな覇気を纏ってる女だった。

 研ぎ澄まされたオーラ。

 朝の水面のようにシンと張り詰めた魔力。


 彼女の顔を見て、バーミットは両目をひんむいた。



「……でぇっっ?!!!」



 『鬱陶しい看破特化型A級武士の背後』から現れたのは、

 武の女神エバ・マイマイン・ツンデレラ猊下。


 第二~第九アルファに所属する知的生命体で、

 彼女の顔と名前を知らない者は、そうそういないだろう。


 情報を完全に遮断して、山奥にこもって霞を食いながら生活しているような仙人でもない限り、彼女の存在を知らずに生きることは難しい。

 いや、下手をしたら、そういう仙人でも、彼女のことは知っているかもしれない。


 『彼女を知らない第二~第九アルファ人』は、

 『織田信長を知らない日本人』ぐらい希少。


「くそっ! なんで、こんなところに十席が! 最悪っ! くそがぁ!」


 すぐさま、転移の魔法で逃げようとする。

 当然。

 さすがに、十席が相手だと何もできない。


 愚連が相手なら、たとえ、最上位のS級が相手でも、

 どうにか出来る自信があった。


 楽連が相手でも、ギリ、どうにかなる。

 ――だが、十席、てめぇはダメだ。


「っっ?! 結界?! お、俺の結界を包み込むように……っ」


 逃げようとしたが不可能な状態であると、ようやく気づいたバーミット。

 そんな彼に、ネスは、


「結界を張れるのが自分だけだといつから錯覚していた?」


「ぐっ……こ、こうなったらぁああああ!!」


 そこで、バーミットは、魔力とオーラを全開にして、


「この場にいる全員殺して雲隠れしてやらぁ!」


「また、ずいぶんと難しい未来を夢想するやつだなぁ……諦めないことに定評がある俺だが、さすがに、その夢は見れねぇぞ」


「だまれ、死ね、ごらぁあああ!」


 叫びながら、殴り掛かってきたバーミット。

 実際のところ、なかなか質の高い一撃。


 けれど、まあ、流石に、ネスには届かない。


 ヒョイっとかるく避けて、

 バーミットの足をひっかけて転がすネス。


「ぐっ! くそっ!」


「やめとけよ。さっきも言った通り、俺は、愚連のA級武士だ。愚連のA級。つまり、宇宙最強ってことだ。この世に俺以上の達人はいねぇ。今の俺に……勝てるやつは一人もいねぇ」


「たかが愚連のA級ごときが、どんだけ調子にのってんだ! 愚連のAはゼノリカ全体の中じゃ微妙な方だろうが!」


 愚連のA級は、一般人視点では神のように強いのだが、

 ゼノリカの内部から見る限りにおいては、確かに、

 ちょうど、『微妙』と言わざるをえない領域。


 ――だからこそ、ネスは、『自分ネス』の主戦場に、『愚連のA級』を選んだ。


「俺は、才能だけなら楽連クラスだぞ! ナメんじゃねぇ!」


「楽連クラスの才能をもっていながら、なんで、そんなゴミになるかねぇ」


「うっせぇ、ぼけぇ! まっとうに生きたって、どうせ、上にはいけねぇんだ! 上には上がいる! そして、おいしい目にあえるのは、最上位の超越者だけだ! 『最上位にいけるだけの資質』がないやつは、永遠に泥臭い鍛錬を積むだけのクソみたいな人生になるだけ! 死ぬまで死ぬほど努力して死ぬだけ! 俺はそんなもん御免だ! 俺は自由に生きると決めたんだ!」


「お前の、『弱さ』に関してはどうでもいいが、とりあえず、一つだけ反論しようか」


 ネスは、スルリと、バーミットのふところに近づくと、

 そのまま、


「どわぁああっ!」


 グルンっと半回転させて、

 その場にたたきつける。

 非常に丁寧な大外刈り。


 ネスのソレは、ありえないほど練度の高い武術なのだが、

 その精度が理解できる位置に、バーミットはいない。


 もっと言えば、

 十席のエバですら、ネスの高みは理解できていない。


「――最上位にいるやつは、お前ごときじゃ想像もできない次元の泥臭い鍛錬をずっと続けているよ。俺は詳しいんだ。ずっと見てきたからな。どいつもこいつもキチ〇イみたいに頑張り続けている変態ばかり」


 そこで、ネスは、バーミットの体をまさぐって、


「筋肉の磨き方がぬるすぎる。下地の段階でこれでは話にならない。お前、泥臭い鍛錬なんかやったことないだろ。才能だけで、ある程度のところまでいって、その『長くなった鼻』を、休まないウサギどもにへし折られた典型」


 ――本名『バーミット・ドードリー』は、愚連のB級武士までとんとん拍子で上がったが、そこで、最初の壁を感じてしまった。


 彼に才能があるのは事実なので、『最初の壁』を、天性の素質だけで超えることはできた。

 だが、『その次の壁』を超えることはできなかった。

 『第二の壁』を超えるためには、『泥臭い努力』が必須だった。


 壁が『第二』で終わってくれるのであれば、バーミットは、おそらく、努力をしていただろう。

 しかし、勘のいいバーミットは、『第二の壁』を越えた先で、もっと大きな、『第三の壁』に直面するだろうという嫌な予想をたててしまった。


 そして、どうにか『第三の壁』を越えても、まだその先には、いくつもの『大きな壁』があるであろうことまで予測できてしまった。

 バーミットの予想は正確であり、『無数の壁を永遠に越え続ける』という『とんでもない苦行』をこなさないと、『楽連』までは上がれない。


 ――楽連には、『壁を越え続けた天才』しかいない。


『決死の努力をし続ければ……俺は、おそらく、楽連までは上がれる……だが、それより上は……たぶん、無理だ……』


 愚連のB級としてミッションをこなしている日々の中で、

 彼は、自分の限界が『楽連の下位』であることを理解した。


 A級・S級の壁は、問題なく超えられるだろうけれど、

 どうあがいても、自分では、『天上(十席以上の神族)』には上がれない。


 自分の限界を勝手に決めて、勝手に落ち込むバーミット。


 ――鬱々とした日々を過ごしている中で、

 決定打となるターニングポイントがあった。


 とあるミッションで、5歳のガキと組まされた。

 そいつは、恐ろしく生意気で、鼻につくクソガキだったが、


『よろしく、三下さん。僕は、ラピッド・ヘルファイア。天上の神族になることが確定している天才さ。あ、あなたは名乗らなくていいよ。覚える気ないから。価値のないゴミとなれ合う気はない』


 その狂ったような傲慢さは、決して勘違いじゃなかった。

 彼は、間違いなく次元違いの天才だった。

 ラピッドの底知れない才能を前にしたバーミットは、


『あれが神族の末裔……ヘルファイア・ファミリアの天才児…………所詮は血統が全てか……』


 ヘルファイア・ファミリアの人間は、愚連にも何名か在籍している。

 全員、なかなかの天才肌ぞろい。


 ラピッド以外のヘルファイア・ファミリアが相手なら、ギリギリ、どうにか勝つことも出来るバーミットだが、しかし、ラピッドが相手だと絶対に無理。


 『天才一族の中の天才』。

 それが、天上に上がるための条件。

 バーミットは天才だが、ただの天才。

 だから、天上には上がれない。

 一生、地べたを這いずりまわるしかない。


『……やめた……バカバカしい』


 世界の摂理を正式に理解した気になったバーミットは、愚連のB級武士から、ただの無職になった。


 彼の才能は本物だし、実際のところ、スペックも高い。

 それに、『元・愚連のB級武士』という肩書きは、

 彼のエントリーシートをプラチナチケットにしてくれる宝物。


 その気になれば、いくらでも割りのいい仕事をすることはできた。

 しかし、どの企業にも『神族の末裔』や『その関係者』が絡んでいる。


 たまたま、気になっていた企業に面接にいったとき、そこのトップがヘルファイア・ファミリアだと知って、彼は自分のエントリーシートを破り捨てた。


 すべては感情論。

 無意味な感傷に過ぎない。

 そんなことは分かっていたが、

 しかし、彼は、自分の『弱さ』と向き合う強さを持ち合わせていなかった。


 そんな折、彼は、『現ライラを当主とする高位貴族の御曹司と結婚する予定だと自慢気に話す女性』を見つけた。

 ヘルファイア・ファミリアほどではないが、彼女の結婚相手も中々の貴族様。


 玉の輿。

 人生の勝ち組。


 そんな自慢話を、聞きたくもないのに、物理的距離が近すぎたせいで、耳に入れてしまったバーミットは、


『くそが……』


 何かが壊れて、そして、自暴自棄になった。

 自分だけではなく、自分以外もぶっ壊してやりたい、と『自分の奥にいる弱い自分』が叫んでしまった。

 自制心のある者なら、その叫びに背を向けるのだが、

 『何かが壊れてしまった彼』は、手前の弱さに身を任せた。

 その結果が、今。




「くそが、くそが、くそがぁあああああああ!!」




 ネスに転がされ、小バカにされたバーミットは、

 血走った目で、


「もういいぃぃ!! こんな人生、もういい! 終わっていい! だからぁあああああ! ありったけをぉおおおおおお!」


 喉がちぎれるほどに叫ぶバーミット。


 人生経験豊富なネスは、

 彼が何をしようとしているか一瞬で理解する。


 ――絶死のアリア・ギアス。

 命を圧縮させて、命の限界を求める最後の手段。


 本来であれば、

 絶死を積んだ者は、赤いオーラに包まれる。

 まるで噴き出る鮮血のような、紅蓮の炎のような、

 あるいは、消える直前のロウソクのような、

 『命』の輝きを圧縮させたような輝きを放つのだが、


 バーミットのオーラに変化はなかった。


 ゆらゆらと、いつもどおりにたゆたっているだけ。



「なんで……え? 絶死……あれ?」



 絶死のアリア・ギアスを積んだはずなのに、何も起こっていない自分に困惑するバーミット。


 そんな彼に、ネスは、


「序盤の壁を超える努力すらできない堕落者が、覚悟の最終地点である絶死を積めるわけないだろう。まさか、叫べば積めるものだとでも思っていたのか? そんなわけないだろう」


 『努力をしなければ、絶死を積む事はできない』、というわけではない。

 ただ、『ここで死ぬ覚悟』が足りていないと無理というだけの簡単な話。

 絶死のアリア・ギアスは、決して、お手軽ブースト機能なんかじゃない。


「とりあえず、逮捕する。罪状は、余裕の公務執行妨害。あと、普通に暴行罪」


 そう言いながら、ネスは、魔法で、バーミットを拘束する。

 動けなくされて、転がされたバーミットは、


「離せ、ごらぁあああ! 俺はヘルファイア・ファミリアだぞぉお! 上位貴族にこんなまねして、てめぇ、首になるぞ! わかってのか、ごらぁああ!」


「お前の家名はドードリーだろ」


 さきほど、肉体を調べるさいにスっておいた身分証明書を見せながら、ネスはそう言った。


「……っ」


 もはや何も言えなくなるバーミットの向こうで、

 彼に暴行されかけていた女性『アラミナ』が、


「え、こいつ、ヘルファイア・ファミリアじゃないんですか?」


 その問いかけに対し、

 それまで黙って趨勢を見守っていたエバが、


「ヘルファイア・ファミリアは最高位貴族。さすがに、ここまでのクズは排出しない。……まあ、絶対ではないけれど。パパ以外の人間なんて、どれだけの大貴族だろうと、所詮は、どこかに穢れを持つものだから」


 ボソっとそう言ってから、エバは、えぐいゴミを見る目でバーミットを睨み、


「神族を騙るというのは、詐欺行為の中でも最上位に位置する罪。斬首は免れない」


 冷たい声でそう言い放つエバ。

 そんな彼女を尻目に、ネスが、


「斬首まではいかんだろう。こいつがまだ愚連だったら、ヤバかったと思うけど、今のこいつはただの一般人だ。流石に、だいぶ重い罪になると思うが、こいつを殺すのは、いくらなんでもやりすぎ」


 その発言に、エバが、


「こいつ、元愚連なの?」


「ああ。身分証明書の名前を見て思い出した。つい最近やめたやつだ。ラピッドが愚連になってから、心折れて愚連をやめた奴が何人かいたんだけど、その中の一人だな。そこそこ才能があるやつってのは、ガチで才能があるやつを間近で見ると心が折れる。それも、また、人間のあるあるってやつだね。テンプレと言ってもいい」


「知ったような口きくんじゃねぇ、くそがぁあああ!」


 喚き散らすバーミットに、

 ネスは、


「知っているんだから、知った口をきいたって、別にいいだろ。俺だって、一度、本物の天才を間近で見て折れたことがある」


「……っ」


「誰だってそうさ。『一等賞の才能を持つただ一人』以外は、みんな、『自分を遥かに超える才能』を前に、長くなった鼻をへし折られる。そこからどうするかってのが、人間の質を決めるわけなんだが、人間ってのは、なかなか、茨の道を選べねぇ。楽な方に流れて腐ってしまう。別に、楽な方に流れることを悪いとは言わない。てめぇの人生だ。好きにすればいい。しかし、他人に迷惑をかけたら逮捕される。反社会的な行動には制裁が伴う。普通のことだ。なにもおかしな話じゃねぇ。まっとうな社会倫理さ。というわけで、反省しなさい」


「……説教すんな……鬱陶しい……」 


「警察が犯罪者に説教して何が悪い。俺が一般人で、てめぇが犯罪者じゃなかったら、俺は『お前の生きざま』がどんだけ堕落していようと、絶対に何も言わんけど、この状況下で、何も言わなかったら、職務怠慢で、俺が上から説教くらうわ、ボケが。警察の義務をナメんなよ。つぅか、その程度のこと、てめぇも知ってるはずだろ。やめたとはいえ、元B級愚連なんだからよぉ」


「……」




 ★




 その後、ネスは、アラミナとバーミットを屯所に連れていき、あとのことを、他の愚連に任せて、エバとの買い物を再開した。


 一緒に歩いている中で、

 エバが、


「あんなクズは絶対に反省なんかしない。生きていたら、また同じことを繰り返すだけ。処刑した方が確実」


「それはそれで真理だけどな。けど、真理だけ追究し続けるのもしんどいからなぁ。ある程度の余白というか……情状酌量的な概念は必要だろう」


「あのカスに同情すべき事情なんてないよ」


「エバ。お前は、結構な天才だから、天才じゃないやつの気持ちが分かっていない。俺はあいつの痛みが、いやになるほど分かる。俺も無能だからな。天才を前に歪んでしまう天才以下の気持ちが狂おしいほどに理解できる。だからって犯罪を容認する気はないが、問答無用で殺してしまえ、とはなかなか思えねぇ……あいつが、世界を終わらせる級の脅威だったら、ゴチャゴチャ考えずに、ぶっ殺すが、あいつ程度なら、ゼノリカは止められる」


「パパがいなかったら、あのアラミナって女は、たぶん、犯されて殺されていたよ。ゼノリカは完全じゃない。だから、目についた悪は、徹底的に掃除していくべきだと、私は思うよ」


「その意見も、間違ってねぇ……間違ってねぇけど、その意見だって完全じゃねぇ」


 ネスは、そこで天を仰いで、


「修正不可能な極悪人ってのは普通に存在する。そいつらに反省なんて促しても無意味。けど、道を踏み外したやつの中には、自らを省みて、正しい道に進み直すやつもいる。その可能性があるのだって普通に事実なんだ。悪人が更生する確率が低いのは理解しているが、ゼロじゃない以上、向き合う義務が、俺にはある。異世界大戦の時に宣言しちまったからな。全部と向きあうって。大声で叫んだ覚悟から目をそむけるほどのカスにはなりたくねぇ。生まれた時から、がけっぷちの俺だから、どうしても、墜ちたくねぇってって、魂が叫んでしまうんだ」


 天に向けていた目を、己の両手に移して、


「ダルいよなぁ、人生ってのは。完全な正解なんて存在しねぇ。何を選択しても、誰かの視点では間違いになる。勘弁してほしいぜ……ん?」


 しゃべっている途中で、

 気配を感じて立ち止まるネス。

 そこに、


 ヒュンっと、

 軽やかに、しなやかに瞬間移動してきた美女が一人。


 龍のタトゥーが妖艶な、すさまじいオーラを纏った美女。


 その美女は、ネスの目をジっと見つめて、



「ネス、上から、壊れたモンスターの処理を依頼されたから、手伝って」



 と、開口一番、そう言い放った。

 余計な装飾は使わない。

 単刀直入。

 竹を割ったような快活さ。


 それが彼女の特質の一つ。


 ネスはしんどそうな顔で、


「……えぇ……いや、今日は休みなんすけど……つい、さっきも仕事させられて、もうほんと、勘弁してほしいっていうか……」


「ははは。十席のバディに休みなんてないよ」


「そんな、さわやかな笑顔で、ブラック企業宣言されても、挨拶に困るなぁ」


 などと、つぶやいていると、

 ネスの隣にいるエバが、

 目だけで鬼を殺しそうな顔で、


「消えろ、クウリュート。3秒以内に消えなければ殺す」


「きみが? ぼくを? どうやって? 永遠を積んでも無理でしょ?」


「2……1……ゼロ……さようなら、クウリュート」


 別れの挨拶をすませてから、

 エバは、


永遠人形化エターナルマリオ・デスサイズ


 最強の変身モードを容赦なく行使していく。


 その様を隣で見ていたネスが、


「ちょぉっ! もちつけ! てか、なんで、今、そのモードが使える?! それって、ピンチの時限定の変身じゃなかった?!」


「パパとの時間を邪魔されることは、命の危機に匹敵する」


「しないよ?! 絶対に匹敵しないよ?! 命の危機をナメないで!」


「さっきのクズに、二人の時間を邪魔されたことにもイラついていたのに、その上、まだ邪魔されるとか、もう無理。邪魔するやつは殺す。情状酌量の余地なし。クウリュートは、さっきのクズ以上の犯罪者だと判定する。文句は言わせない」


「文句しか思いつかないサイコパス発言! やめなー。マジで、その危ない思想、すてなー」


 そんなネスの慟哭などお構いなしに、

 エバは、クウリュートを排除しようと飛び出した。


 クウリュートは、逃げも隠れもしない。

 真っ向から受け止める姿勢を見せている。


 両者の武がぶつかり合いそうになった、

 そのギリギリのところで、


 その両者の間に、

 もう一人、美女が割って入ってきた。


 エバの拳を右手で止めて、

 『異次元砲を撃とうとしていたクウリュート』を左手で牽制する美女。


 彼女はジョー・ミネディ。

 九華十傑の第十席の一人。


 彼女に対し、エバは、


「邪魔するなよ……ミネディ」


「………………今は正式なミッション中。じゃれあうのはダメ。そういうダメなことをしている人は、殺してでも止めるべきだって、そう考えてしまうから。衝動的な殺意ではなく、正当な殺意を我慢するのは、本当に辛いから……だから、やめて」


「あんたが辛いとか、そんなこと知るか。こっちだって休暇を邪魔されて、死ぬほどムカついて――」


 と、殺意をガンガンに膨らませていくエバに、

 そこで、ネスが、


「エバ、そこまで。そこまでは許すけど、それ以上、暴れるなら、ちゃんと怒るよ」


 と、発する声に、特有の威圧感と静けさを足して、そう言った。


 そうなると、さすがにエバも自由は貫けない。

 奥歯をかみしめて、


「けど、パパ……休暇なのに……邪魔ばっかり」


「もう一度、休暇をとるよ。今日、全然、休めていないのは事実だからね。それに、『十席が出動するレベル』の『壊れたモンスターの討伐ミッション』は、かなりの重要案件だ。短時間で終わらせたとしても、一日勤務扱いにできる。もし、出来なかったら、壊れたモンスターに代わって、俺が、この世界を消滅させてやる。約束だ」


「……約束だからね」


 約束をかわしたことで、

 エバは殺気をおさめて、

 ネスの後ろに戻っていった。


 その様子をじっくりと見ていたクウリュートは、


「相変わらず、情緒不安定な女だね、エバは。よく、それで、十席に上がれたと思うよ。ボクが監査の立場にいたら、絶対に十席まで上げないけどなぁ」


「ぁん?」


 またケンカをはじめようとする二人の間に割って入るネス。

 ネスは、クウリュートに視線を向けて、


「エバは確かに、不安定なところもあるけれど、能力はピカイチだ。十席レベルであることは間違いない。『生命体として完全でなければ十席には上がれない』というのがルールだとしたら、誰も上には上がれない」


「……言いたいことはわかるけど、納得はできないかな。完璧である必要はないけれど、最低限の基準は満たしている必要性があると、ぼくは思うから」


 そう言ってから、クウリュートは、

 アテムボックスから一枚の紙をとりだして、


「はい、正式な要請書。断れないよ、ネス」


 天上からの直接の要請書を断れる愚連など存在しない。

 エマージェンシーミッションにおける『天上の命令』を愚連がシカトするというのは、先ほどのバーミットが犯した罪なんか比べ物にならないぐらいの大罪。


 正式な要請書を前に、ネスは、


「別に断る気はないよ。ただ、どこかのタイミングで、もう一度休暇はもらう。それが果たされなあかった時、この世界は終末の日を迎えるだろう。俺の、まっとうな『コンプライアンスと労働基準法』に基づいた正式な怒りをナメない方がいい」


「心配しなくても、ぼくの方から上に言っておくよ。なんだったら、少し長めの休暇をもらって、一緒に旅行にでも行こうか」


 そんなことを口にしたクウリュートに、

 エバが、キレるのを通り越したような、

 ある種の悟りの境地に届いた顔で、


「悪鬼羅刹は表裏一体……私は一人、無限地獄に立ち尽くす……」


 と、ぶつぶつ言いだしたのを見て、

 ネスが、あわてて、


「コールはやめようか、エバ。その殺気、さすがにシャレにならん」


 エバの殺意が有頂天に達したのを理解したネスは、

 暴れ馬を前にした調教師のように丁寧な対応をこころがける。


「クウリュート、エバの前で、その手の冗談はやめてくれ。いや、ほんとマジで」


「冗談? 休暇を取ってパートナーと旅行にいくことのどこが冗談?」


 自信満々にそんなことを言うクウリュートに対し、

 エバは自分のリミッターを解除した。


 瞬間移動に花を咲かせて、

 クウリュートの延髄を奪い取ろうとする。


 そのあまりの速度に、仲裁役のミネディは反応できなかった。

 クウリュートも一歩反応が遅れる。


 戦闘力も存在値も、現時点ではクウリュートの方がエバよりも上なのだが、

 しかし、パパ絡みで沸騰した時限定で、エバは、カンツ以外の十席連中を置き去りにする。


 それだけの絶対的資質があったから、エバは、『性格に難あり』の判定を受けながらも、十席に昇格した。


 エバのデスサイズが、クウリュートの首裏に届く直前、

 ネスが、その刃を、ソっとつまんだ。


 しんどそうな顔でタメ息をついているネスに、

 エバは、沸騰した顔のまま、


「パパどいて、そいつ殺せない」


 と、ヤンデレパワーをマシマシにしてつぶやく。


 だから、仕方なく、ネスは、



「エバ……」



 怒気を込めて、


「最後の質問だ。……俺を本気で怒らせたいか?」


「……っ」


「俺がファントムトークを使っている間に殺気を殺せ、と何度も教えてきたはずだ。まだ、感情だけの暴走を続けるなら……」


「わかった! わかったから……パパ……ごめん」


 そこで、ネスは、クウリュートに視線を向けて、


「クウリュートも……エバを煽るのやめてくれ。これは本気のお願いだ。本気のお願いを無視するのであれば……俺は二度と、お前のバディとしては働かない。愚連を首になることも、斬首されることもいとわない。俺の覚悟をナメないでくれ」


「君の覚悟をナメるほど愚かではないよ。そして、ぼくは、君の本気のお願いを絶対に無視しない」


 そう言うと、

 クウリュートは、視線をエバに向けて、


「ネスが君の『正式な親代わり』という立場上、君の方が、ネスと一緒にいる時間は多い。だから、少し嫉妬して、無意味に煽ってしまった。醜い嫉妬を笑って許してもらえるとありがたいかな」


 大人な対応を見せてくるクウリュート。

 その軟化した態度を見せられてしまうと、

 流石に、それ以上の怒りを見せることはできない。


「……」


 ふいっと、顔をそらすエバ。


 ネスが絡まない時のエバは、それなりに理知的で、正しい選択を取れる大人の女なのだが、

 しかし、ネスが絡んでしまうと、とたんに、ただのバカガキになってしまう。


 実のところ、その精神性は、『ガキのままでいれば、ずっとネスが保護者として、側にいてくれるはず』という打算からきている。

 『意識してバカガキを演じている』とか、そういう話ではない。

 精神の奥に根付く計算高さが、デフォルトでにじみ出ているだけ。



 エバが落ち着いたことで、

 ネスは、ホっと一息つき、

 クウリュートから、要請書を受け取ろうとする。


 しかし、そこで、今度は、

 ミネディが、二人の間に割って入ってきて、


「………………だめ。こっちを受け取って」


 と、要請書を差し出してくる。


 『要請書を受け取った相手』と正式なバディとなる。

 実質的な命令系統で上位になるし、後の書面で記録にも残る。


 そのことを重々理解しているネスは、


(ミネディの、あの目……今回のミッションで、俺のことを殺すつもりだな。事故にみせかけて殺すか、それとも、まっすぐに殺しにくるか……どっちにしても、現場における命令系統最上位である方が、殺戮を完遂しやすい、と。ふむ……なかなか、下地がシッカリした殺意じゃないか)


 ミネディは、まっすぐに、射貫くように、

 ネスを見つめている。

 彼女からすれば、それは、敬愛の視線。


 しかし、その強すぎる眼力は、

 ネスに、『深淵を覗く瞳』だと疑わせる。


 深い殺意の証明。

 そう理解したネスは、心の中でつぶやく。


(己の殺意を抑え込むことに関して世界一の女が、唯一選んだターゲット。それが世界最強の俺であるという事実。……ふむ……エモい状況だ。感動的だな。だが無意味だ。いや、まあ、無意味でもないが)


 などと、心の中でファントムトークを決め込む変態が一人。

 変態は、続けて、心の中で、


(いつでもこい、ミネディ。こっちはもう、何年も前から覚悟が出来ている。てめぇの殺意、うけとめてやるよ。それもまた、命の王としての責務の一つ)


 などと、心の中で、普通にちゃんとカッコをつけているネス。

 しかし、その覚悟こそ、マジで無意味。

 どこまでも滑稽なピエロっぷり。


 ミネディは、ネスを愛しているだけ。

 たったそれだけのシンプルな話。

 それに気づけないアホな男が一人で疑心疑心暗鬼のタップダンスを踊っているだけ。


 勘違いの沼にはまっているネスの向こうで、

 ミネディの自己主張に対し、

 クウリュートが、渋い顔で、ミネディを睨み、


「そういうの、どうかと思うなぁ。先に出したのはぼくなんだから、ぼくの要請書を受け取ってもらうのが筋じゃない?」


「………………ほかのことなら、別に譲る。けど、これだけは譲らない」


 普段、自分の殺気を抑えることだけに全集中しているため、特に、妙な『』を見せることは少ないミネディ。

 『殺意を抑え込むため』に、『ケンカを始めた同僚たちの仲裁役を買って出ること』はあっても、『我が我が』と自分の欲望をむき出しにすることは滅多にない。

 あるとすれば、こういう場面だけ。

 ネスが絡んだ時だけ、彼女は、獰猛な獣になる。


「……」


「……」


 無言で睨みあっている二人の前で、

 ネスは、



(クウリュートもミネディも、十席の中では、比較的おとなしい方で、ミッション中の自己主張は少ない方だが……しかし、クウリュートは、筋が通らないことを嫌い、ミネディは俺への殺意を止められない……本来であれば起こらなかった衝突が、俺のせいで起きている……まったく……『かゆいところに手が届く潤滑油』になれればと思って、ネスだのカドヒトだの、色々とやっているってのに……俺のせいで、無駄な軋轢を生んでどうするんだって話だ……本末転倒もいいところ)


 などと、そんな、ハッキリとした勘違いに溺れつつ、



「はぁ」



 と、タメ息をついてから、

 二人の要請書を同時に受け取って、

 そして、その場で破り捨てる。


 その行動に対して、クウリュートとミネディは、当然、文句を言おうとしてきたが、しかし、ネスは、相手が口を開くよりも先に、


「今、大事なことは、誰の要請書を受け取るかいなかではなく、壊れたモンスターを迅速に処理すことだろう。十席が三人も集まっていながら、本質を見失うなよ」


 クウリュートも、ミネディも、エバも、

 ネスが絡んでいないときは、

 冷静に、迅速に、丁寧に、真摯にミッションをこなす優秀な十席である。


 ――しかし、ネスが絡むと歪んでしまう。

 こうも歪んでしまう理由は、ネスが、彼女たちの愛を理解しないから。


 つまり、ネスの愚かさのせいで、こうなっている。

 ネスが、広い度量で、彼女たちの愛を、まるっと受け入れていれば、少なくとも、こんなことにはなっていない。

 だが、いつだって、ネスだけは、そのことに気づけない。


 愚か!

 どこまでも愚鈍!




 ★




「異次元砲」


「グギャガヤオオオォオオ!」


 目的の場所まで瞬間移動したのち、

 クウリュートが、強大なF魔法でサクっと、壊れたモンスターの心臓を貫いた。


 秒で死んでしまった『壊れたモンスター』。

 元は『老龍』の天才型。

 そもそもが『かなり高性能』だったため、壊れたことによって、なかなかとんでもない実力を手に入れた。


 とはいえ、所詮は、『上級』のモンスター。

 壊れたことにより存在値が爆上がりした……といっても、せいぜい400程度。

 『天下の面々だけでも、どうにか対応することが出来る』という程度の脅威なので、

 十席上位の実力を誇るクウリュートにとっては大した敵じゃない。


 ――ネスは、


「5秒で終わったな……まずい……ここまでヌルい仕事だと、一日勤務扱いにしてもらえないかもしれない……」


 などとつぶやきながら、倒れている壊れたモンスターをにらみつける。


「天下の猛攻で、多少ダメージを受けていたとはいえ……しかし、『出会いがしらの一発』で死んでくれるなよ……どうせ、壊れたんなら、もっと粘れ。燃え尽きる前のロウソクの輝きを魅せつけてくれよ。……せめて『大変な仕事だった』と言わせてくれよ……」


 などと、不謹慎なことを口にする。


 ちなみに、周囲では、

 『ネス達がくるまで、壊れたモンスターの対応をしていた天下の面々』が、

 クウリュートのエグさに沸いている。


 龍種の生命力はエグいため、

 天下の面々がいくら攻撃しても、

 壊れた龍種は、なかなかダメージを負ってくれなかった。


 ネスたちがくるまでの間、天下の面々は、壊れた龍種相手に、

 何度も、何度も、強大な魔法やグリムアーツを叩き込んだのだが、

 ターゲットは、いつまでもずっと元気いっぱいのまま暴れ続けた。


 そんな、バイタリティ溢れる化け物を、一撃で葬ってしまったクウリュート。


 ――『クウリュート・ヤマティ・A・ノーロッチ』という女神が、破格の力を持つことは、当然知っていたわけだが、しかし、教科書で教わるのと、実感するのとでは、やはり、わけが違う。


 天下の面々からの憧れの眼差しを一身に受けているクウリュートは、

 ミネディに、


「手柄を全部奪ってしまって、ごめんなさい。そんなつもりはなかったんだけど、まさか、一撃で死ぬほど弱っているとは思ってなくて」


 と、特に嫌味ではない、素直な言葉でそう言った。


 ミネディは、特になんとも思っていない顔で、


「………………手柄とか、別にいらないから。殺してくれた方が、むしろ助かる」


 などと会話している二人の後方で、

 エバが、


「ばかばかしい……パパがくる意味、まったくない」


 イライラした顔で、クウリュートとミネディをにらみつける。

 大声で怒鳴りつけてやりたいという感情に襲われる。

 なんだったら、顔面に拳を叩き込んでやりたいとすら思う。


 ネスが絡んでいる時のエバの怒りは常識をわきまえない。


「クソボケ、クソカス、ゴミッカス……邪魔ばっかりしやがって……なんで邪魔するんだよ、私は何も悪いことをしていないのに、どうして、次から次へと、どうでもいい面倒事が湧いて出るんだ……クソボケ、クソボケ、クソボケ……」


 片足貧乏ゆすりで怒りをあらわにする。

 そんな彼女を尻目に、

 ネスは、


(……エバ、荒れてんなぁ……こうなると、是が非でも、追加の休暇を獲得しなければいけないんだが……さて、どうする……何かしら仕事をしているフリをするなりして、報告書の厚みをかさまししないと……)


 などと、窓際の社内ニートみたいなことを考えていると、

 そこで、ネスは、


(……おっ)


 気づく。

 壊れたモンスターから、

 奇妙な生命反応を探知。


(さっき完全に死んだのに、復活してきやがった……やるねぇ……なかなかの根性だ……まあ、根性とかではないと思うけど。ただ、『生命機能もバグった』ってだけの話だと思うけど)


 などと、心の中でつぶやきつつ、

 ネスは、


「クウリュート、ミネディ……おかわりが来るぞ」


 十席の女神たちは、ネスの言葉を受けてすぐ、

 ババっと、壊れたモンスターの方に視線を向けた。


「え? ……完全に殺したのに……復活してる?」


 と、クウリュートが険しい表情でそう言った。

 そのセリフに対し、ネスは、


「おや? クウリュートさんったら、このタイプ、はじめて? 俺は何度か経験しているぞ。完全に死んだのに復活する壊れたモンスター。ほら、俺って経験豊富だから。もう色々と詳しいから。博識と書いてネスと読むことが出来なくもないぐらいには頭の中が、人生経験でつまっているから」


 などと、ネスがごちゃごちゃと、どうでもいいことを口にしている間に、

 壊れたモンスターは、スクっと立ち上がって、


「ぶはぁああああ……」


 と、深く、深く、息を吐き出す。


 そのまま、誰にも届かない小さな声で、ボソっと、



「……『オリジン(原初の頂点)』の要請を承諾……命を燃やし、限界を超えて舞う……」



 そう呟いた直後、壊れたモンスターの全身が、真っ赤なオーラで包まれた。


 絶死を積んだモンスターを前にして、

 ネスは、


「おっと、壊れたモンスターが復活した上、絶死を積んだか……まあ、ありえないってわけでもないが……なかなか珍しい場面に出くわしたな」


 未経験ではないが、明確な珍事ではある。

 壊れたモンスターは、基本、雑に暴れて殺されるだけの存在。

 本来、『覚悟』とは無縁の存在。


 けれど、根本バグっているので、アリア・ギアス関連でバグることも無いことはない。


(存在値950……なかなかエグい数字だ……ここにいるメンツでは対処できねぇな……)


 と思ったと、ほぼ同時のタイミングで、



「ぐぎぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」



 と、大声で叫び、体表に放出させている魔力とオーラを、ごうごうと膨らませていく壊れたモンスター。


 その様子を漏れなく観察していたネスは、


(あ、まずい……あいつ、全体攻撃系の技を放とうとしてんな……)


 これまでの膨大な経験から、そう予測すると、

 即座に、


(フルドーム・ドリームオーラ)


 無詠唱かつ不可視化状態で、味方全員を覆うほど範囲拡大化させたバリアをはる。


 そのコンマ数秒後に、

 壊れたモンスターが、


「――ドラゴンボイス――」


 全方位に届く『音系』のスキルを放った。

 龍種のガチ勢なら基本的に使える固有技。

 龍属性の音系衝撃波。


 えげつないオーラがこめられており、

 もし、ネスが張っておいたバリアがなかったら、

 この場にいる全員が即死していただろう。


 今は、神代のバリアが張られていたため、

 どうにか、



「ぎゃあああ!」


「うらぁああ!」


「きゃあああ!」




 天下の面々も、吹っ飛んで気絶ぐらいはしたが、

 しかし、その程度で済んで、死ぬことはなかった。


 十席の女神たちは、というと、

 彼女たちは、天下の面々のように無様に吹っ飛んだりはしていない。


 それどころか、

 ドラゴンボイスが放たれる直前、

 その予兆を感じ取った三人の女神は、

 ほぼ反射的に、自身の体を盾にして、

 ネスを守ろうとした。


 正直無意味な行動なのだが、

 しかし、意味があるかどうかなど、ネスには関係ない。


 彼女たちの反射的な献身に、

 ネスは、つい微笑み、

 あえて、その献身を受け入れた。


 吹っ飛びこそしなかったものの、

 存在値950級の音波に脳を揺らされて、三人とも気絶してしまっている。

 ただ、それでも、三人の女神は、その場で立ち尽くし、ネスの盾で在り続けていた。


「気絶してなお、雑魚の俺を守ろうって? えぐい根性だぜ。さすが十席は格が違った」


 ネスは、彼女たちの献身を『弱者を守る盾としての覚悟』だと認識していた。

 決して、『自分がケタ違いに愛されているから』などとは思わない。


 彼の自意識は、そんなステージにない。

 モグラも驚くほど地中深くにもぐりこんでいる。



「さて……ちょうど、観客の目もなくなったことだし……ここからは……俺のオンステージといこうか」



 そう言いながら、

 ネスは、ゆったりとした歩調で、

 壊れたモンスターの元へと近づいていく。


「俺の今の存在値は100に届かないくらいだ。てめぇの10分の1程度。だが、その程度はハンデにもならない。教えてやるぜ。神の王を自称する変態のシャウトを。てめぇのカスレ声とは比べ物にならないから、腹の下に、パンクするほど気合いをぶちこめ。そうじゃないと、秒で気絶するぜ」


 そう宣言してから、

 ネスは、グンっと足に力を込めた。


「――神速閃拳」


 一瞬で間をつめて叩き込む、鍛えあげられた拳。


 正直、速度は大したことがない。

 パワーも大したことがない。


 ネスのステータスは正直低い――はずなのに、

 しかし、壊れたモンスターは、

 ネスの動きに、まったく対応できなかった。



「ぎぎぃっ! ぎゃぎゃぁあっ!」


 と、叫びながら、

 必死になって、ネスに攻撃をあてようとするが、

 しかし、全く届かない。


「逆気閃拳」


 大したパワーじゃないはずなのに、

 しかし、ズンッと重く、魂魄の奥にのしかかってくるような拳。


「げばはぁっ!」


 腹部をぶん殴られて吐血する、壊れたモンスター。


 セン……あ、いや、ネスの猛攻は止まらない。


 多種多様な閃拳で、

 全方位から、あらゆる尺度で、

 壊れたモンスターのすべてをけずっていく。


 そして、ついには……



「……がっ……はっ……」


 崩れ落ちる壊れたモンスター。


 まだ意識はあるし、HPも残っているのだが、

 急所を的確に揺さぶられつづけたせいで、

 『顎をさらわれたボクサー』のように、

 立ち上がることができずにいる。


「まだ覚醒できるなら、今のうちにしておけよ。そろそろトドメを刺すつもりだから」


 などと声をかけられるものの、

 しかし、壊れたモンスターは、ピクピクしているだけで、

 抵抗の意志はないように見える。


「どうした? 頑張って覚醒してみろよ。神種を芽吹かせて、かつ、バーチャみたいに、現世で神の力が使えるバグを発症させて、究極超神化7に覚醒して、俺を殺してみろよ」


 そう煽ってみるが、しかし、相手は何も答えてくれない。

 当然の話。


「……」


 もう相手は終わっている――と理解できたネスは、

 つまらなそうに、一度、タメ息をついてから、


「……お前に悪意がなかったことは理解できている。お前はただ壊れてしまっただけ。それはわかっている。……だが、俺の大事な家族に、気絶するほどの攻撃をしかけやがったことは、とりま、極刑に値する。というわけで……」


 そこで、センは、一度、両手を合わせてから、


「一瞬で完全に消してやるよ。……その方が楽だろう」


 深淵を覗き込むようにして、





「――【弧虚炉こころ 天螺あまら 終焉加速】――」





 圧縮の魔法を放った。

 壊れたモンスターは、コンマ一秒たりとも抵抗できず、

 一瞬のうちに、微生物よりも小さくなって、最後にはこの世から完全に消失した。


 命の最後を見届けたネスは、

 天を仰ぎ、



「ふぁぁ~あ」



 と、アクビを一つかましてから、


「さて……壊れたモンスターの死因をどう報告しようか……んー……新しく考えるのも面倒だし、ここは、まあ、定番の『たまたまシューリが通りかかった』の言い訳でいこうか。あいつがゼノリカにいてくれて、ほんと助かるわぁ。面倒事を全部おしつけられる優秀なパートナーがいるってのは、ほんと楽」


 などと言いながら、ネスは、その場に座り込んで、


「シューリやソンキーやトウシに任すための引継ぎ処理を終わらせるまで、あと数年ってところか……引継ぎ作業、案外、多かったなぁ……まあ、べつに、その辺の作業を丁寧にやらなくても、あいつらなら、完璧以上にこなしてくれるだろうけど……ま、最後だしな。立つ鳥跡を濁さず。『泥臭さに溢れたみっともない神生』だったからこそ、せめて最後ぐらいは綺麗にしないとな」


 そうつぶやきつつ、

 いまだ気絶したままの、十席の女神たちを見つめ、


「……俺が死んだら、ちょっとぐらいは、さみしがってくれるかな? それとも清々するかな? んー……まあ、変なのがいなくなってスッキリする可能性の方が高そうかなぁ……こいつら、面倒見が良すぎるから、俺みたいなゴミの相手をしてくれているけど、厨二の擬人化と言っても過言ではない変態の相手をするのは、たぶん、相当な労力だろうからなぁ……いやぁ、申し訳ないねぇ、変態で。悪いとは思っているんだよ? 自殺しようと計画をたてるぐらいには、悪いとは思っているんだよ、マジに」


 ちなみに、もしネスが死ねば、三人とも自殺する。

 ほかにも、ゼノリカ上層部の重役がたくさん自殺する。


 そして、ゼノリカは、ゆっくりと、しかし確実に衰退し、最後にはバラバラになる。


 ――その絶対的な事実に、いつだって、ネスだけが気づいていない。


 愚か!

 圧倒的愚鈍!


「今まで、こんな無能がずっとトップに居座って悪かったな。たくさん迷惑かけたが、この老害も、そろそろ引退するから勘弁してくれ」


 と、最後にそう言うと、

 そのまま、この場にいる全員が目覚めるまで、

 周囲の警戒をし続けましたとさ。



 めでたし、めでたし

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― 新着の感想 ―
「別に断る気はないよ。ただ、どこかのタイミングで、もう一度休暇はもらう。それが果たされなあかった時、この世界は終末の日を迎えるだろう。俺の、まっとうな『コンプライアンスと労働基準法』に基づいた正式な怒…
2025/03/10 04:01 久留崎恭介
[良い点] なろう小説結構読んできたけど、何度も読み返しちゃうのはこの作品だけ!! [気になる点] カルマさんちの坊っちゃんの話から読み返してたら 「……『オリジン(原初の頂点)』の要請を承諾……命を…
[良い点] ゼノリカなかなかヤバい組織ですね、 特に十席が一番不安定でまだまだ課題多い組織、 ニャルの夢で出てきたラピッドもほんとに十席で大丈夫か?って感じだったけど、ヤバい奴を世界の剣にできるのがゼ…
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