20話 つかみとってきた力。
20話 つかみとってきた力。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
1000億年を超える、弛まぬ努力の結晶。その全てを、完璧に奪い去ることなど、出来るはずがない。
『与えられた力』だと、『奪われた時』に終わってしまう。しかし、『つかみ取った力』ならば、何が起ころうと、たとえ、『理不尽に奪われた』としても、必ず、また、つかみかえすことができる。
『与えられたチートを振り回すだけでは永遠に到達できない領域』で、
センエースの奥底にある『命の華』が萌ゆる。
「……私の体に……傷を? 口に剣を加えて首を振り回しているだけのクソガキが……私に……傷……そんな、バカな……」
ロイガーは呆然としていた。
浜辺でパチャパチャ遊んでいた赤ちゃんが、急に海を飲み干したりしたら、当然、驚いて目をひん剥くだろう。
今のロイガーの心境はそんなところ。
――所詮は、まだまだ困惑の領域。
だが、次第に、恐怖も芽生えてくる。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
気付いた時、ダメージ量は700ほどになっていた。
ほんの短期間で、1000倍以上にふくれあがったダメージ。
ここまでくれば、さすがに、『すり傷』レベルにはなっている。
『画鋲で、ちょっと皮膚を刺した』ぐらいのもの。
ピリっと、感覚器が、痛みを感じ取るレベル。
『痛い』と口にするほどではないが、『痛み』を認知できる範囲。
「なぜ、そんなことができる……?」
不思議で仕方なかった。
目の前にいるガキが、異形のバケモノに見えてきた。
普通に気持ちが悪くなってくる。
この、何か、得体のしれない奇妙さには、おそらく、まだ名前がない。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
まだ、舞い続ける。
センエースは『答え』を求め続ける。
『完全なるトゥルーエンド』を求め続ける覚悟。
まるで、その重さの意味と向き合うかのように、
センエースは、
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
ブシュッ!
研ぎ澄まし続ける。
集中力が、加速度的に増加していく。
膨らみ続ける。
スロースターターであり、しり上がりでもある。
エンジンがあたたまるまで、だいぶ時間がかかった。
サビついていたため、なかなか始動してくれなかった。
しかし、一度動き出すと、信じられないほどの爆音を上げて魂魄のすべてを躍動させてくれる。
「ついには、私に、血を流させたか……おそれいったよ、すばらしい」
ロイガーは、拍手をする。
心からの称賛。
まだまだ余裕があるロイガー。
それも、当然の話。
まだ、ダメージ的には5000程度。
確かに、信じられない成長率だが、
しかし、しょせんは――
「――ぐぅがげっげん(龍牙一閃)――」
グンッと、のびやかに、かろやかに、
センの龍牙一閃が煌めく。
センの頭の中で、カチリと、何かがかみ合った音が聞こえた。
ふいに、訪れるブレイクスルーの瞬間。
言語取得なんかでは、稀によくある光景。
地道に基礎を積み上げてきたものだけがたどり着く領域。
ある日、あるタイミングで、突然に、コツをつかむ。
才能どうこうの話ではない。
むしろ、才能がない者だからこそ見える風景。
異常なほどノンビリとしたベイビーステップ。
永久にも思えるほどの時間を積み重ねた果て。
そうやって、積み重ねた果てに辿り着く世界は、とても美しい。
スパ……ッ
と、何かが、確実に切れる音が世界に響き渡った。
気づいた時、
ロイガーの足首は、綺麗に切断されていた。




