16話 お互い、何もかも、全部、理解した上での滑稽なショータイム。
16話 お互い、何もかも、全部、理解した上での滑稽なショータイム。
「どうです? 絶対に、何もできないカスの滑稽な失態は、面白いものでしょう? 言うまでもないことですが、当然、ロイガー様にダメージを負わせようだなんて、そんな不遜なことは、一ミリたりとも考えていませんでしたとも。ええ、当然。だって無理ですもん。最初に聞いていましたしね。あなたに剣を向けても無意味だって。つまり、さっきのは、私のイタリアンジョークにすぎません。というわけで、剣を返していただけます? あの剣がないと、全人類を殺しにいけませんゆえ。あなた様の命令を遂行できない――それは、私にとって一番の苦悶。というわけで、はい、はやく」
そう言いながら、ニッコニコの表情で、ロイガーに右手をさしだす。
そんな『さっさと剣をよこせ』という意志表示に対し、ロイガーは、
数秒だけ、何かを考えていたが、
最終的には、ニっと微笑んで、
「ほら、さっさと全人類を殺してこい」
と、そう命令しながら、センに剣をわたす。
刃先をもって、柄をセンに向けるロイガー。
お互い、何もかも、全部、理解した上での滑稽なショータイム。
そんな、薄氷の上でタップダンスをするような危うい状況の中で、
センは、
「あざーす」
と、軽快なお礼を口にしつつ、
センは、この一瞬に全てを込めるように、
全身全霊の極限をつきつめるように、
差し出された柄を両手で力強くつかみ、
そのまま、ロイガーに向かって、全力で押し込もうとした。
心臓に風穴をあけてやろうという明確な殺意。
その殺意が実ることは勿論ない。
なんの意味もない。
(……ぐっ……こ、こんな動かんもんかね? ピクリともしやがらねぇ……俺は、今、山でも押してんのかね? くそがぁ)
センは、必死になって、全力で、
ロイガーソードを押し込んでいるのだが、
しかし、本当に、いっさい、ピクリとも動かなかった。
ロイガーは、剣を二本の指でつかんでいるだけ。
対して、センは腰をいれて、両手で握りしめて押し込んでいる。
だが、動かない。
ほんのちょっとも足りとも。
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
「どうした、さっさと受け取れ。そんな、変に力まなくとも、この剣があれば、全人類を死滅させることぐらい、造作もない」
「はぁ……はぁ……ああ、そうっすか……はぁ……はぁ……」
この手法は無理と考えたセンは、
すぐさまプラン変更。
『さて次はどうしたものか』と考えながら、
剣を受け取るセンに、
ロイガーは、
「……無駄だということが、そんなにも、どうしても分からないものなのか?」
と、真剣な疑問を投げかけてくる。
ロイガーはギャグマンガ世界の住人ではないので、
『センが何をしようとしているのか』……そのぐらいは、もちろん理解している。
この期に及んで、まだ、自分に抵抗しようとしてくるセンに、
ロイガーは、
「無駄だろう? ちょっとは、彼我の差を考えろ。どうあがいたところで、貴様が私をどうこうすることは不可能だろう? 貴様は海をのみほせるのか? 無理だろう? それなのに、なぜ――」
と、当たり前の疑問符をぶつけてくるロイガーに、
センは、
「必要だったら、山を押して動かすし、海だってのみほしてやるよ」
壊れた目で、ロイガーを睨みつけ、
「それしか、救いの道がないというのであれば……『神でも持ち上がらない石』ですら持ち上げてみせる」




