107話 ヒーロー見参?
107話 ヒーロー見参?
「さっさと死ねぇ!」
グールは、問答無用で、センに襲い掛かってくる。
鋭いツメがギラリと殺意の輝きを放つ。
「ひぃい! ひぃい!」
情けなく、悲鳴をあげながら、ゴロン、ゴロン、と、のたうちまわるようにして、どうにか必死ににげまわるセン。
グールのスペックが全体的に低いため、
なかなか、センを殺しきれない。
とはいえ、
「ぎゃあああああああああっ!」
鋭利なツメで、背中をザックリと斬られるセン。
血を流しすぎて朦朧としてきた。
ただ、そのまま、組み伏せられて、何度も刺されると、そのまま死んでしまうので、センは、どうにか、必死に、火事場のバカ力をフル動員させて、
「ひぃい! ひぃい!」
と、言葉になっていない声を漏らしながら、
どうにか、グールから逃げようとする。
その様を見たグールは、ダルそうな表情で、
「貴様、どんだけ、しぶといんだ、雑魚のくせにぃ!」
センエースのしぶとさに辟易している。
普通に疲れが見えてきている模様。
体力の点でも、グールは、人間と、さほど変わらない。
それでも圧倒されてしまうのが、今のセンエースクオリティ。
グールは、
「これで、終わりだぁああああ!」
大きく腕を振り上げて、
センの頭を切り裂こうとした。
(――あ、終わった……マジでか……)
流れる走馬灯。
命の終わりが明確に見えた。
――と、その時、
「……だらぁあああ!」
グールの背後から、
『でかいゴミ袋に砲丸を入れた武器』を握りしめた『田中シャインピース』が突撃してきた。
その粗雑極まりない武器を、思いっきり振り回し、そのまま、
「どらぁああ!」
グールの脳天に、加速した砲丸をたたきつける、
「ぶげへぇえ!」
耐久力が人間とそこまで変わらないグール。
脳天に、思いっきり、加速した砲丸をたたきつけられたことで、普通に、頭が砕けて、白目をむき、その場に倒れこんだ。
グールを一撃で華麗にしとめた田中シャインピースは、
「はぁ……はぁ」
息を整えてから、
センの方に視線を向けて、
「生きとるか?」
と、声をかけた。
センは、軽く涙を浮かべつつ、
「……ほぼ死んでる……」
と、己の現状を、正式に伝えた。
★
「セン、お前、なんで、こんな時間に学校におんの?」
少し落ち着いてから、
安い疑問を投げかける田中。
その問いに対し、センは、
「い、いや、あの……そんな呑気に質問とかする前に……ちょっと、病院に連れていってくれる? これ、俺、たぶん、そろそろ死ぬぞ……いいのか、俺が死んで……主役の俺が死んだら、全部が終わるぞ……」
「この物語の主役はワシやから、モブのおどれが死んでも別に何も終わらん」
「……あ、そう……ま、別に、お前が主役でも、何でもいいんだけど……むしろ、そっちの方がありがたいんだけど……とりあえず、どうか助けろください。とにかく、全力で、ボスケテ」
「まだ、だいぶ余裕はありそうやな」
「いや、違うから。テンプレが飛び出るのは、たんなる俺の病気だから。余裕は一切ないから。だから、マジで助けて……意識が……」
そこで、田中は、
懐から、RPGのポーション的な何かの瓶を取り出して、
その蓋をあけると、センに向かって、中身を振りかけた。
すると、センの傷が、スゥっと治っていく。
「……っ……ぉ、おお、マジでか」
体の痛みがなくなったセンは、
ちょっとだけ残っている傷跡を確認しつつ、
「回復のポーションとか。そんないいものをもっているなら、登場と同時に使わんかい。まったく、使えないやつだ。そういうところだぞ。反省しろ」
と、大胆なカス発言を決め込んでいく。




