72話 バキバキの人間関係。
72話 バキバキの人間関係。
「カンツやバンプティが、いつも、あれだけ、必死に、体を張って、前衛を守ってくれているというのに、その姿を見て、『自分も、ちょっとは輝こう』と、なぜ思えない! 怠慢もいい加減にしろ!」
「あ? 怠慢? お前なんか、カンツやバンプティの半歩後ろに隠れて、ぬくぬくと暴れているだけだろ。私からすれば、お前の方がよっぽど怠慢だ」
残飯マンは、本気で、ズシオーのことを怠慢だと思っているわけではない。
この発言は、あくまでも売り言葉に買い言葉。
『キレると感情的になる』のは、ズシオーだけの特権ではなく、残飯マンも同じ。
誰だって、ある程度は、そういうもの。
性別がどうだとか、特待生がどうだとか、
そんな区別で制御できるものでも整地されるものでもない。
そして、感情論に感情論をぶつけると、もちろん戦争になる。
ズシオーは、バカではないのだが、しかし、感情に振り回されると、賢者も愚者になるのが世の常。
「……この私が怠慢だと? 残飯マン、そのふざけた名前ごと消してやろうか?」
バチギレ顔でそういうズシオーに、
残飯マンは、
「――死ね、ズシオー」
それまでの『ぬるいキレ』を捨て去って、
一瞬で『極限まで沸騰』した残飯マンは、
理性の仮面を叩き割って、
ズシオーの顔面にアイアンクローをかましていく。
本気で、顔面を砕く勢い。
ぎゅうぎゅうと、握力に魂をこめる。
「ぐ、ぐぅ……離せぇ」
自分の顔面に食いついてくる残飯マンの腕を、ズシオーは、引きはがそうとするが、しかし、極まった『火事場の馬鹿力』を発揮している残飯マンの力が強すぎて、
「ぐぅうう……ぎぃいい」
「何度も言ったよなぁ……私の名前を侮蔑するのは自由だが……どうなっても知らんぞ、と」
「ぐぅうう……」
前衛組と、後衛組は、いつだって、相容れないことが支配的。
それに加えて、特待生の面々は、みな、極端なほど『我が強い』ので、こうして、ばちばちのケンカになることも多々ある。
ただ、現状の特待生は、25人もいるので、こういう時に、潤滑油になってくれる存在も何名かは存在している。
このチームで、現在、エースを担当しているアストロギア・ハザードが、その一人。
「はい、そこまでぇ」
そう言いながら、
何やら『呪符』のようなものを、残飯マンの腕に張り付けるアストロギア。
その瞬間、残飯マンの全身から力が抜けていく。
「っ……ぐっ……くそ……邪魔すんな……アストロギアぁ……」
まったく力が入らず、その場にへたりこむ残飯マンの前で、
アストロギアは、
「ズシオーも、ペナルティなぁ」
そう言いながら、
優し気な微笑みを絶やさないまま、
裏拳で、
「ぶげはぁあっ!」
ズシオーの顔面に重たい一撃をブチ入れる。
普通に吹っ飛ぶズシオーに流し目を送りながら、
アストロギアは、
「……残飯マンと『本気の対話』を望むのは別にいいんだけど、その手段として、名前を侮蔑するのは、あまりにも美的意識にかける。次、同じことをしたら、両腕をもらうよ。感情的になることを否定はしないけど、できるだけ、スマートにいこうよ。その方が美しい」




