センエース神話への道~黒歴史だらけの制作秘話~
長いので、ヒマな時に見てください。
なんだったら、見ないでください( ゜Д゜)
舞い散る閃光「これは、見ないでほしいだろうなぁ……てか、なんで投稿した? バカなの?」
センエース神話への道~黒歴史だらけの制作秘話~
『閃幽零が園児の頃から、すでに、『センエース神話の世界観構想』自体はあったのだが、しかし、ソレを具体的にイメージするだけの知性が足りなかった。
ただ、幼い時期の『幽零』の、『こんな感じの世界が欲しい』という漠然としたイメージが、センエース神話という世界観全体の『大きな器』になったことは間違いない。
――幼いころ、レイスが絵を描いたり、物語を描いたりすると、だいたい、周りの人間が褒めてくれた。
それも当然。
まともな親や大人なら、ガキが一生懸命やったことは、当然、あるていど褒めるもの。
ただ、周囲から褒められたことで、レイスは浮かれて、自分が『宇宙一の天才である』と認知するようになる。
そして、この絶対的な視点は、30歳を過ぎても、なお、わずかも陰ることがない。
舞い散る閃光「痛いなぁ。きついなぁ。しんどいなぁ」
レイスは、園児の頃から、友達がいなかった。
『自分は、一般の民衆とは根本から次元が異なる、猟奇的な天才である』という強い自負を心に抱いていたためである。
舞い散る閃光「……痛いとかのレベルじゃなかった。マジのヤバいヤツだった」
小学生にあがっても、レイスは、もちろん孤高だった。
孤独ではない。
孤高なのだ。
1人の時間をフルで使い、無数の漫画・映画・小説・ゲームに触れていく。
それぞれの良い部分を、自分の世界に落とし込んでいく作業がはじまる。
自分が好きな世界観を絵にして悦に浸る(既存のキャラに翼やツノをつけたすことからはじまる。他人に見せることを意識していなかったので、ゴミみたいな出来)。
自分がいずれ書く予定の小説のタイトルをズラっと、ノートに書き記して満足する(まだ、小説を紡げる能力はなかった。頭の中で映像は流れるが、それを形にできる能力がなかった)。
独自のキャラや魔法や武器の設定をノートに書き続ける(しょせんは、色々な作品のパクリ大全でしかなかった。まだ、完全なオリジナルを創ろうという気概がなかった)。
家にいるときだけではなく、学校にいる間も、ひたすら、そんなことをくりかえしていた。
『園児の頃から自分の中に存在していた世界』が、どんどん補強されていく。
次第に、ただのパクリツギハギワールドだったものに、ぽつぽつと、オリジナル要素が見え隠れしてくる。
幼いころ、アニメを山ほど見たが、その中でも、やはり、ク〇しんの影響が大きかった。
どれだけヤバい敵を前にしても、孤高にチョケていられる様を見て、レイスの中で、理想のヒーロー像がかたまっていく。
『強大な悪』に対し、当たり前のように『恐れ』を抱きながら、しかし、それでも、歯をむき出しにして、『命の真髄』を、説教臭さゼロのファニー全開で、世界に魅せつける。
レイスの中で、『ヒーローのあるべき姿』が研ぎ澄まされていく。
漫画でいうと、ドラ〇ンボール、ワ〇ピースの影響がかなり大きかった。
『孫〇空』と『モンキー・Ⅾ・〇フィ』の名前を合体させて、とことん最強に仕上げたキャラが、レイスの世界観の主役を務めるようになる。
とくに、レイスは、『スーパーサ〇ヤ人3』という概念に強くほれ込む。
その憧憬が、センエース神話の変身システムの大きな器になったことは言うまでもない。
特有の変身願望が無限に膨れ上がっていく。
ドラゴン〇ールAFという概念を知る前から、スー〇ーサイヤ人5以降の変身を頭の中で無数に構築していた。
ゲームで言えば、テリ〇ン・ポケ〇ンの影響が大きかった。
――テリ〇ンにドはまりしたことで、『大量の独自モンスターの配合表』みたいなものを作成するようになる。
その配合表の頂点にいたのが、『センエース』だった。
最初期のセンエースは『最強のドラゴン』であり、
その『最強のドラゴン』をどうにかしようとする主役としての役割を『ソンキー』が担当していた。
最強の主人公であるソンキーでも倒せない究極の裏ボス『センエース』。
この二人のキャラを軸にした世界観が加速していく。
――中学に上がり、ハンタ〇ハンターや、うえ〇の法則なんかを読んだことで、
『とことん体系化された特殊能力をもった中学生数千人が、最強の神になるための試験として、殺し合いをする』というシナリオが、レイスの中で、かなりのディティールを持ったうえで設計されはじめる。
小説という形にこそなっていないが、漫画100巻分ぐらいのプロットは、頭の中で出来上がっていた。
――その作品のラスボス的な存在が『アダム』だった。
無数のモンスターを吸収し、最強の存在になった化け物。
それを、ソンキーや、ロードや、超苺やしぐまの『原型』となったキャラが、必死になって倒す、というシナリオだった。
『好きな作品の世界観を、自分の世界におとしこんでいく作業』が、中学に上がったことで、より加速していく。
まだまだ『パクリの集合体』としての側面が強かったが、オリジナル要素もどんどん増えていく。
そんな中、生まれつき厨二だったレイスの中で、
本格的な『中学二年生』が大暴れを始める。
より造形的にかっこいいもの、
より精神的に美しいもの、
それを、とにかく、貪欲に求め始める。
――問題なく高校生になったレイスは、そこで完全なる孤高に至る。
何度でも言うが、孤独ではなく孤高である。
この二つは全然違うから間違えてはいけない。
レイスは、孤独ではなく――
舞い散る閃光「わかった、わかった、もういい。あんたのボッチが、どっちの属性かとか興味ない」
高校生になり、それなりに本気で『作家』になるための道を模索しはじめたレイスは、知人との交友を完璧に断ち切る。
『いつも一人でいるから、かわいそう』と、お情けで昼食に誘われることもあったが、それを丁重にお断りするところから、レイスの完全ボッチ生活はスタートを切る。
『親切で言ってやっているのに、なんだ、あいつ』と嫌われるところまでがワンセット。
『いつも一人で何をしているの?』と興味本位を向けられることもあるが、レイスはいつも、にこやかに『うん』と返事をして終わらせる。
まったく返事になっていない。
どこからどう見てもキ〇ガイです。
本当にありがとうございました。
舞い散る閃光「もうやめて! あなたのライフはとっくにゼロよ!」
――授業中は、常に、ノートに物語を描くようになった。
いっさい、授業は聞かず、ひたすら物語を描き進めていく。
『授業中に物語を描いていながら、テストは普通にクリアできる私かっこいい』という、自己陶酔にひたっていた。
そして、その自己陶酔は、30を超えて、なお続いている。
『仕事をしながら作品を投稿する私かっこいい』という、まともな視点でみると、吐くほどしんどいナルシズム。
レイスは、ヤバい変態であり、痛いキ〇ガイである。
救いはなかった。
舞い散る閃光「まあ、ヤバくて痛い変態のキ〇ガイじゃなければ、こんな暴露できんわな」
――高校三年生になったころ、本気で新人賞に投稿するための作品を描き始める。
『作家になる』と本気で決意したレイスは、受験勉強を放棄。
人間性はともかくとして、額面上の成績に大きな問題がなかったレイスは、指定校推薦の枠を獲得し、一ミリも受験勉強することなく大学に進学。
大学が決まったお祝いで、親からノートパソコンを買い与えられたレイスは、
『学校で、ひたすらノートに物語を描き、家では、パソコンに、ひたすら、その内容を打ち込んでいく』という生活に突入する。
まわりが必死に将来のための勉強している間、レイスは、ひたすらにモノを描き続ける。
そんな状況にも酔っていた。
『私は普通の一般民衆とは違う、選ばれた存在なのだ』
そんなことを本気で思っており、
そして、その思想は、30を超えてなお続いている。
舞い散る閃光「ねぇ、なんで、その『終わっている人格』を、いちいち、暴露するの? ケツの穴を見せているよりヒドいよ? 気づいてないの? バカなの? 死ぬの?」
そして、初めての投稿。
とある新人賞に、初めて『完全に仕上げた作品』を応募したレイス。
それまでも、ちょくちょく、20~50ページぐらいの短編を仕上げてはいたが、単行本にできる文量である原稿用紙300枚前後を描き上げたのははじめてだった。
応募前のレイスは、確信していた。
自分は宇宙一の天才だから、このまま新人賞を獲得し、華々しくデビュー。
そのまま、100兆部を突破して、史上最強の作家になる。
自分の作品が世界を導く光となる。
人類史は、レイス以前とレイス以降に分かれる。
舞い散る閃光「……ば、バカの世界チャンピオンだ……」
応募した新人賞は、とある雑誌に、座談会形式で、『選考を担当した編集者の寸評』がのるタイプだった。
その中で、レイスの作品に対する評価は、
――『ゴミ』の一言だった。
キャラクター、構成、文章力、とにかく全てがダメという、完璧な酷評だった。
ほかに、そこまでの酷評を受けている作品はなかった。
酷評というか、なんだか、鼻で笑われている感じだった。
『完璧にダメな作品』という評価を頂戴したレイスがどうしたか。
まあ、普通なら、己の過大評価を恥じ、落ち込み、才能を見限って、作家になる夢を諦めるだろう。
――だが、バカの世界チャンピオン『センレイスさん』はそうではなかった。
純粋にキレた。
『テキトーに読んでテキトーな評価しやがって。見る目ゼロのカス共に教えてやる。誰にナメた口をきいたのか。構成がダメ? アホが。命の意味について、これだけ綿密に描いたものの構成がダメって、どんだけ頭悪いんだ。人に指摘する暇があるなら、己の読解能力のなさを恥じろ』
と、バキバキの目で、すぐさま二作品目に着手。
ちなみに言っておくと、若い時代のレイスは、とにかく尖っていた。
なんの結果も出していないのに、とにかく自意識だけが暴走していた。
30を超えた今も、ぶっちゃけ、たいがいだが、当時は、本当にひどかった。
ゴリゴリに性格が悪く、しっかりと、周囲の人間から嫌われていた。
ボッチを貫いていながら鬼のように嫌われるという、なかなか難しい偉業を成し遂げていた。
一言で言えば、正式に終わっていた。
舞い散る閃光「ねぇ、もうやめよう? まだ治っていない古傷にナイフを突き刺すことに、いったいなんの意味があるの? 流石に、見ていられませんぜ」
――ここで、レイスの処女作を、冷静な目で評価しておく。
発想そのものや、流れは悪くないし、構成という点において、確かに、バカみたいに練られている。
すべてのセリフ・行動に意味をもたせ、それが、最後に収束するという展開。
伏線パズルとしてはうまくできていると言えなくもない。
……だが、あまりにも分かりづら過ぎる。
これを、『玉石混交の応募作を山ほど下読みしないといけない編集者』に一発で読みとらせようというのは酷な話。
あと、単純に、『小説を書く』という点において、壊滅的にスキルがたりていなかった。
センテンスが長すぎる。
テーマに凝りすぎるあまり、全体像がボヤけて見える。
『作家センスや感性を魅せたい』というのは分かるし、その行動じたいは悪くないが、いくらなんでも、前衛アーティスト感を出し過ぎている。
尖っただけの新人がやらかしそうなミスを、全て、キッチリと、やらかしている。
『内容そのもの』は決して悪くないのだが、『ド下手な落語家の古典』みたいな感じで、
内容がどれだけ面白かろうと、技量がクソすぎて、
面白さを理解することができない状態。
のちに、レイスは、手塚治虫の作品創りのスタンスである、
『テーマはさりげなく、シノプシスは丁寧に』という思想に辿り着くのだが、
レイスの処女作は、
『テーマだけを重武装して、シノプシスに目がいっていない』という悲惨な状態だった。
『酷評された怒り』に呑まれていた当時のレイスは、自分の作品の現状を正しく理解することが出来ていなかった。
しかし、それでも、『今のまま、同じことをしても、同じダメ出しをされるだけ』だということぐらいは理解できた。
レイスは、とことん痛い子だが、『頭が停止している』という訳ではなかった。
『ただの馬鹿にモノを描く資格はない』――そのぐらいは、ギリギリ理解できる知性と理性が残っていた。
かなり、ギリギリだったが。
レイスは、『応募した新人賞の受賞作や系列作品』を読みこみ、分析し、どうするべきかと考えた上で、二作品目と向き合った。
『なるほど。つまり、求められているのは、軽さと読みやすさか……くだらない。中身のない低俗で簡易な文章の羅列は、私の成したい表現をブレさせる。100%足りえないコンポジションに何の意味がある? 表現とは、己の奥に眠る豊潤な憂悶とアイロニーを服膺するための、滋味あふれる随筆であるべきだ。グロースハックやプロダクトドリブンはコアコンピタンスなパーパスを乱す』
舞い散る閃光「……うわぁ…………悲惨やな……」
若さゆえの尖りというのは、本当に厄介なもので、
解析・分析・推察を繰り返したことで、
うっすらとはいえ『どうするべきかの答え』は見えていたのに、
しかし、その、見えかけている答えを裸で追い求めることができない。
自分の中にある、重厚そうに見せているだけで『実は薄っぺらな見栄』を満足させることしか求めていない。
『本当に伝えたい想い』も、あるいは、あったのかもしれないが、伝えるための努力を徹底的に怠っていた。
思春期と厨二が合体して高二も発症してしまった結果。
自意識のモンスターは、独りよがりな『芸術性』というハリボテに固執する。
読者は、そんなものをまったく求めていない。
読者の中には、色々な視点を持つ者がいるから、もしかしたら、そういう自意識だけのハリボテを望む者もいるかもしれないが、しかし、少なくとも、『より多くの読者を満足させることを目的としている編集者』は、そんなものを求めていない。
――そして、まずは、その編集者を満足させなければ賞はとれない。
レイスは葛藤する。
自分の中の、作品創りに対する衝動をどうするべきなのか。
悩んでいる日々の中で、レイスは、一冊の本と出合う。
山〇礼司の『絶望〇効くクスリ』という漫画。
尖り散らかしていた作者が、とある知人から『信念のナイフは隠しておいて、読者が油断した時に後ろから刺せ』と言われたことで、それまでの、前衛芸術的な作品をいったんやめて、完全エンタメ作品を描くという流れ。
レイスは、その『エンタメ作品』が普通に好きだった。
普通に面白かった。
そして、その作品以前に、山〇礼司が描いていた前衛型の作品は、さほど面白いと思わなかった。
レイスは、悩んだ。
悩んで、悩んで、悩んだ末に、
『いいだろう……迎合してやるよ。その道に溺れるのも必須だというのであれば、その道からも逃げないという覚悟を見せてやる』
舞い散る閃光「……セリフまわしが、常時、ウザいっすねぇ……どうにかならんすか、センセー……ずっと、吐きそうなんすけど」
レイスは、自分の文章をいったん崩す。
センテンスの長さを調節し、分かりにくい表現を削った。
※ 今も、たいがい、分かりにくい表現が散見されるが、当時は、今の比ではなかった。
そして、シナリオも、テーマ性を殺してエンタメに寄せた。
『殺人事件の犯人の視点で描く倒叙もの。その上で、犯人にタイムリープをさせる』という発想で、とにかく『創作線上の哲学』を殺し『ただ、面白く読めること』だけを追及した。
『古畑〇三郎のような頭のキレる刑事に指摘された自分のミスを、タイムリープで戻って修正し、最後には完全犯罪を成功させる』というもので、面白いのは面白いが、読んだあとに、特に何も残らない作品。
その二作品目も普通に落選したが、座談会での寸評は、以前の『どうしようもないゴミ』から『発想は面白い、出来も悪くない。佳作ぐらいはあたえてもいいかしれない』という評価に変わった。
――発想やアイディアは悪くないが、まだまだ、スキルが足りていない。
そんな己の現実を前に、レイスは、自分を追い込む覚悟を決めた。
『ほとんど寝ずに数日で一本(原稿用紙300枚以上)を描き上げる』という頭おかしい暴挙を複数回かまし、『7本を同時に投稿する』というイカれたことをかます。
その結果、編集者から電話がかかってきて、
『まじめに一本かけ』
と普通に怒られる。
7本とも、大真面目だったわけだが、
『まあ、相手の言いたいことも一理ある』と理解できるぐらいの、最低限度の知性はあったようで、その日から、レイスは、『とことん、一本と向き合う』という作業に没頭。
一気に7本を描き上げたことは、決して無駄にはならなかった。
描くスピードが格段に上がり、
そして、『小説を書く・整える・仕上げる』というスキルそのものが大幅に向上した。
『面白い作品とは何か』ということを、とことん追求し、
かつ、その上で、スキルも同時に磨いていく。
――発想は優れているのだから、あとは、それを支える技能だけ。
向き合い方だけ。
――また、この頃『テーマ性を完全に無くすのは悪手』とも理解する。
編集者は『尖りすぎたもの』を嫌うが、『尖っていないもの』はそれ以上に嫌いなのだ。
『エンタメだけに特化させた作品』に対する編集者の評価は、『メッセージを何も感じないから無味無臭』というものだった。
作品はカルピスのようなもの。
テーマ性という原液がなければただの水。
そして原液は濃すぎても薄すぎてもいけない。
バランスを模索する日々が始まる。
――『作品としての最善』を追及している間に大学生活は始まっていた。
周りは、キャンパスライフを楽しんでいたが、
レイスは、一人、大学の図書館にこもって小説と向き合っていた。
大学時代に突入すると、友人どころか『知人』の一人も出来ていない。
同級生も教員も職員も関係なく、名前を覚えている者が一人もいないという完璧な状況。
レイスは、小説を書く以外のすべてを拒絶していた。
貪欲に、愚直に、無様に、
とにかく、ひたすらに、
『小説を書く』ということに没頭した結果、
――どうにかレイスは、新人賞の最優秀賞を獲得した。
『野球の神様から、絶対に打てない球を投げるようにしてもらった、野球嫌いの高校生が、個性豊かなチームメイトと一緒に、いやいや野球をする』というシナリオ。
1500キロ野球魔人の原型になっている作品。
最優秀賞をとった本は出版されることになり、全国の書店に並んだ。
地元の小さな本屋にも平積みでおかれ、公立図書館に、地元の若手作家の作品として、特別扱いで展示されたりした。
――出来は決して悪くない作品だった。
内容は非常に面白い。
――だが、さほど売れなかった。
理由は単純。
『売れる運』がなかった。
大々的に宣伝がうたれたわけでも、何か大きな話題性があったわけでもなかった。
そんな作品が売れるためには『たまたまブレイクする』という運以外はありえなかった。
『その新人賞の受賞作の中』では『二番目に売れたそう』だが、作家として生きていける下地ができるほどではなかった。
売れない本の中では、ギリマシな方――それが、最終結論だった。
……当時、『もしドラ』が、爆発的にブレイクしていた。
あの作品は『特別面白いから売れたわけではない』というのがレイスの分析だった。
『もしドラ』が悪いとか、面白くないとか言っているのではない。
ただ、あれと同じか、もしくはそれ以上に『面白い作品』が、他にも山ほどあるのは事実。
それだけの話。
面白い作品は山ほどあって、
その中で、なぜ、突出して売れる作品というのが出てくるのか、
そこに対して、レイスは『運である』と結論を出した。
ただの『ラッキー』という意味ではない。
時代の先取りであったり、背景の濃さであったり、『作品として新しい』と社会に認めてもらえたことであったり――そういった『時代との噛みあい』という『偶然』をつかみ取ることができるか否か。
そういう意味での『運』を掴むために、どういう努力をするべきなのか。
レイスの作品は、その点での下地が足りていなかった。
ただ、闇雲に、面白いものを描いて、その努力を、編集者が面白がっただけ。
だから、『運をつかめるか否か』というステージにすら立てなかった。
『売れなかった作家もどき』のレイスに、次のチャンスはなかった。
担当編集から見放されたレイスは、
『同じことをしていても、同じ結果になるだけ』と判断し、
悩んだ末に、『漫画の原作』という道を模索しだす。
とある週刊誌が『原作大賞』という新人賞を開催しているのを知ったレイスは、そこに、すべての経験値をぶつけた作品を投稿する。
『クリアしたら1億円のゲームが、実は、対宇宙人用兵器のパイロットを探すためのもので、偶然見つけたバグ技を使ってクリアしただけの主人公が、実力もないのに宇宙人と戦わなければいけなくなる』というシナリオ。
結果は、『佳作』だった。
賞金はもらえるが、作品として世に出ることはなかった。
担当編集者に聞いたところ、『漫画家の受けはよかったが、編集者の受けはよくなかった』らしい。
構成の斬新さを受け入れてくれた作家陣と、それを色物としか見ない編集陣という、分かりやすい明暗。
レイスの担当になった編集は、レイスのコトをまともに扱うことすらなかった。
何度か、ネームを送ったが、すべて無視されて終わった。
レイスは、また次の手を考える。
普通、ここまできたら折れそうなものだが、しかし、レイスには確信があった。
『どう考えても、私が描く作品は面白い』
レイスは、頻繁に自分の作品を読み返す。
自分の考えが間違っているか否かと向き合うために。
何度も、何度も、読み返し、
そのたびに、
『いや、面白いって。絶対に』
それを確信できたから、レイスは描き続けた。
描いて、描いて、描いて、
その中で、レイスは、ついに気づく。
『面白いが……器が足りない……』
細かいところで感じる『人生経験』の薄さ。
そこを『勢いでごまかせる才能』がなかった。
『面白いものを描ける才能』と『若さを武器にできる才能』は全くの別物。
二十代前半でデビューして売れる作家には、特有の華と運がある。
レイスにはなかった。
それに、レイスの発想や世界観を輝かせるためには、
明確な『下地』が必要不可欠だった。
『勢いだけのハッタリ』ではない本物の器。
『……しかたがない……積むか……どれだけかかるか分からないけれど……でも、絶対に折れてやらない……ナメんなよ……絶対、作家になったるんじゃぁあああああ!!』
いくつか、道を模索して、
その中で、医療従事者の道に進んだのは、
『人体を知ることは、大きな器になる』と思ったから。
人体の中に宇宙があり、宇宙の中に人体がある。
根本に、そんな思想が根付いていたのが決定打だった。
……あと、普通に潰しがきく。
医療業界がつぶれることはありえない。
手に職つける系なら、会社に使い潰されるのを待つだけではなく、独立して、自由に時間を使うことも可能となる。
『作家を目指す』という環境を保つことができる。
諸々の理由から医療専門学校に進むことを決意したレイス。
入学式の場で、『その学校でもっとも厳しいと噂の教師F』から、
『入学おめでとう。めでたい、めでたいが……おめでとうと言うのはここまでだ。医療専門学校を、普通の専門学校だと思うな。特にうちの学校は、入学した者の半分は一年目で脱落する。ナメている者は、半年後にいなくなっている』
と脅しを受けた。
国家試験の合格率99%の裏には、そういうカラクリがあった。
国家試験に受かる者以外は進級させない。
――脅しの内容は嘘ではなく、その前の年の一年生は半分がやめており、レイスの同級生も、ちょうど半分が2年生に上がることさえできなかった。
その医療専門学校は、3年で卒業なのだが、留年しまくって、5年~6年と通い続ける者もザラ。
――『そのぐらいでなければ器は作れない』と思っていたレイスは、
『どうせなら、そういう状況で主席になってやろう』と奮起した。
レイスは、それまでの人生で、勉強に対して本気を出したことはなかった。
つねに、一番大事なことは『作品創り』であって、勉強は『そこそこ』にとどめていた。
適切な時間で要領よく無難に、そこそこの点をとって『はい、クリア』とゲーム感覚にほくそえむ。
――だが今回の場合、そのスタンスで向かうワケにはいかなかった。
『器をつくるため』の勉強。
つまりは、作品創りのため。
ならば、手は抜けない。
ハンパは許されない。
レイスは、医療従事者にふさわしくない、『人格が終わっているクソ人間』だが、作品創りに対してだけは、それなりに真摯だった。
『しんどい環境で一位をとる、という結果は大きな器になるだろう』
『やってやる。絶対にトップになってやる』
『それが、作家として、本物の実力をつけるための第一歩だ』
そう決意して朝から晩まで、すべての時間を勉強に費やして挑んだ最初の全体テストで『余裕の2番』という結果をたたきつけられた時、レイスは帰りのエレベーターの中で鏡に額を叩きつけて吐いた。
『ふざけんな、どちくしょぉおおおお! 私は努力したぞぉお! 本気で努力したのにぃいいいい! 絶対に私の方が頑張ったはずなのにぃいいい! なんでだ、くそがぁああああああ! なんで、こんな、なんもかんも、うまくいかねぇんだよ、くそったれぇえええええええええ!! うぅうう……ぐふっ……くそ……もう嫌だ……』
惨めに無様に、周りに謝りながら、吐瀉物をトイレットペーパーで拭いた。
レイスは、いつも挫折している。
いつだって、レイスの上には誰かがいた。
高校の時、実は、一度だけ、こっそり、本気でテストに挑んだことがあったが、その時も2番だった。
努力して、努力して、けど、いつまで経っても何者にもなれない。
――自殺を考えたことも何度かあった。
死んだ方が楽になれるのではないか、と考えることもあった。
『明日死のう』と思って眠りについた夜もある。
それでも、次の日、5時までに起きて、その日の努力を開始する。
『なんでだ? 意味ないのに、なんで頑張る?』と自分に尋ねながら、答えが出ないまま、その日を積み上げる。
――本当はわかっていた。
これまでずっと、死にたいと願うたびに、大好きな作品に邪魔されてきた。
――あの作品の新刊発売日までは生きていよう。
『そうやって生かされた命』の使い方を間違えたくなかった。
『もしも、私が紡いだ物語が、誰かの生きる希望になれたら、人生の支えになれたら……あの日の私のように、救われる人が一人でもいるのであれば、もしかしたら、その勲章は、命の意味と呼べるかもしれない』
――そんなことを、考えて……
……なんて、もちろん嘘だ。
こんな話は脚色に過ぎない。
というか、全部脚色だ。
ここまでダサい人間がいるわけがない。
いないんだからねっ!
舞い散る閃光「……」
――アホみたいに、朝から晩まで、
移動時間も、休憩時間も、メシの時間も、風呂の時間も、
全部を勉強に費やして、『医学』を自分の中に叩き込んでいく。
そうやって積み上げて、必死に血肉化させた『医学の器』は、レイスの作品の質を、明らかに底上げしてくれた。
一つ一つの表現が、『勢いだけのハッタリ』ではなく『ガチンコの質量』へと昇華されていく。
『本気でやって1位になれなかった』という惨めさは、その後ずっと、レイスを苦しめるが、俯瞰でみると、その結果の方がよかった。
『1位をとって満足』という経験よりも、『血のゲロを吐き散らかした経験』の方が、器としては歪で、だからこそ美しい。
俯瞰の視点でみれば、間違いなくそうなのだが、
しかし、腹の底は、いつだって、悔しさで一杯。
人間は、いつだって、根源的感情論には勝てない。
舞い散る閃光「情けないな。たかが、テストで負けたぐらいで。もっと、大きな視点で世界を見ろよ」
……
……
……そんなこんなで、這いずるようにして卒業。
血反吐にまみれながら国家資格をとって、人の体に関わる仕事を始める。
仕事を開始すると、学校にいた時よりも『必要な勉強量』は増えた。
作品につかえる時間を、どうにか確保しないと、このまま、仕事に潰されるとあせりはじめる。
やり方を考える中で、効率化とサボり方をマスターしはじめる。
もちろん治療中は手を抜かない。
というか、全身全霊で治療し結果を出すことで、治療以外の部分でサボることに文句を言わせないようにした。
あらゆる手段を試し、どうにか、自分の時間を最低限確保することに成功したレイスは、
作品創りと並行して、無数の作品に目を通していく。
学校にいっている間は封印していたのだが、仕事をはじめてからは、とにかく時間をつくって、山ほど漫画や小説やアニメや映画を見続けた。
人生経験だけを軸にしてしまうと、作品の方向性が凝り固まってしまう。
人生経験という下地の上に、多くの作品を乗せていこうと考えた。
レイスは原点に還る。
――速読というほどではないが、とにかく速度を意識して漫画や小説を消化していく。
アニメや映画は1・5倍速にして、とにかく、数を流し込む。
楽しむことよりも、より多くを血肉化させることを考えていた。
そんな中、
たまたま、『ゲ〇ト』のアニメを見たことで、
なろう系異世界モノという概念に触れることになる。
※ ゲ〇トはなろうではないが。
ゲ〇ト、幼〇戦記、オ〇バーロード、この〇ば、
優れた異世界モノを読み漁った結果、
この概念は『自分の世界観』と適合させることができると思ったレイス。
と、同時に、なろうにおける特殊な書籍化システムを理解したことで、
『新人賞をとって本にしても、運がなければ売れはしない。それは、身をもって経験した。だが、なろうのシステムなら、ファンを獲得してから本をつくれる。……こっちの道でも、運は必要だが、確率は宝くじじゃなくなる。より多くのファンを魅了して、その上で、本にする……売れる確率は、どう考えても、こっちの方が高い』
レイスが異世界モノに傾倒し始めたころ、すでに、『転生してチートで大活躍というシナリオ』は飽和状態にあった。
――事故って、神様から力をもらって、転生して、冒険者になって、薬草をとって、ゴブリンを倒して、その結果、ギルドに驚かれる。
……何一つ悪くはないのだが、さすがに、同じシステムの作品に触れすぎて、食傷気味ではあった。
だが、この感情は、『自分だけではなく、自分以外も感じているものでは?』と想い、ちょっとだけ調べてみる。
結果は酷いものだった。
ゴミみたいな誹謗中傷ばかりが散見された。
『異世界転生もの』というものを小バカにする風潮だけが、あちこちで蔓延していた。
ネットの海だけではなく、テレビに出ている声優なんかも異世界モノをバカにしていたりして。
『……異世界モノを、過剰にバカにしたらカッコがつくとでも思っているのか?』
と、レイスの中で、反骨精神がむくむくと沸いてでる。
だが、それと同時に、
『……逆手にとれるか……この状況。そういう感情論を、そのまま、【ぶち壊すべき壁】という形でシナリオ化すれば、新しいジャンルにまで昇華できるか……』
レイスは自分の発想力を信じていた。
『飽和したシナリオの劣化版』ではなく、異世界モノの新しいジャンルを生み出すパワーがあるはずだと、自分の可能性を盲信した。
「転生する側ではなく、転生させる側を主役にするのはどうだ」
「それをするなら、いつかやろうと思っていた、ドラゴ〇ボールAFのさらに向こう側の世界観にしたい」
「ついにソンキーを主役にする時がきたんじゃないか?」
「スーパーサ〇ヤ人7になって、戦闘力10兆になった主人公が、もっと強い最強の邪神を倒す!」
「最強の邪神以外にも、ソンキーのコピー体が山ほど出てくるってのもありだな」
「ソンキーに、デスゲームの主催をやらせるのも面白い」
「ガチで世界征服させるのもあり。とんでもない連中ばかりの組織が完璧に世界を牛耳っている。そしてその組織の頂点が主人公。主人公はあまりにも高みにありすぎて、存在を疑われているレベル!」
「その組織は具体的であればあるほどカタルシスが増す! 徹底的に詰めていこう! どういう組織だ? 誰が所属している? 信念はどこにある? 反発する組織は?」
アイディアが無限に湧いて出る。
これまでに積み上げてきた全部が高速で繋がっていく。
どうせならもっと深くしよう。
世界の規模をもっと深く、もっともっと深く。
――こうして、ずっと温めていた最強キャラ『ソンキー』を主役にした物語が出来上がっていく。
コンセプトは『完璧な主人公』。
テーマは『完璧な主人公が織りなす、究極の物語。完全な存在となったソンキーが、命の真理をつかみ取る』!!
これまでの、すべての技術と知識を詰め込み、その上で、それまでに描いてきた世界観の全てをつなげて、ソンキーを立てる物語を作成する。
テーマ性は7%。
エンタメ性は93%。
30年かけて到達した黄金律。
『とにかく、読者を楽しませること。ワクワクさせて、続きが気になる展開にする。その上で、【本気のメッセージ】を、読者の心臓に、ド正面からつき刺してやる』
『ソンキー神話は30年の集大成。30年分という、だいぶ大きな下地があるが、もっと、特化した土台があった方がいい』と考えたレイスは、さらに、追加で『下地となる物語』を紡ぎあげていく。
まずは、エチュード(チクタクダンス)。
・世界の下地を構成。
次に、エレジー(傷つくのは俺だけでいい)。
・『献身』をテーマに、キャラ造形の下地を構成。
次に、ロンド(残念、そいつは、タスさんだ)。
・ヒーローという概念の原型をつくる。
次に、ノクターン(俺の家族、ラスボスばっかり)
・世界の『広がり』をテーマに構成。
次に、メヌエット(平熱マンを待ちながら)
・最強とは何かを追及し、ギャグの本質とも向き合う。
次に、カンタービレ(コードゲート)
・原作大賞で佳作をとった作品をソンキー神話におとしこむ。
あらかた、下地になる世界――『プライマルメモリ』を紡ぎあげてから、
レイスは、より深く、ソンキー神話を掘り下げていく。
まずは、プレリュード(クズニートの成り上がり)
そして、ラプソディ(厨二迷宮)
それから、セレナーデ(月光の携帯ドラゴン)
「これら、『すべての物語の主人公』から『タスキ』を託されたヒーローが、すべての壁をぶち壊す!」
ここらで、大方の下地は完成。
次に、ソンキーのCPUとなる存在を創り上げる。
ここは非常に大事なところなので、初の出版作品である商業処女作を下地にした。
悪魔に改造された天才の物語。
『時速1500キロの野球魔人』。
物語の器が出来上がっていく。
最後に、レイスは、
『ゴスペルゲート(無崎くんは怖すぎる)』を描き上げた。
トゥルーエンドにたどりついた後の物語でもあり、
トゥルーエンドに辿り着くために必要な物語でもある作品。
――この辺は、シュタイ〇ズゲートが、思想の原本にある。
オ〇リンは、一度、ク〇スを見殺しにしてしまう。
けれど、その経験があったから、執念がうまれ、
はるか遠い時空の果てで、たった一つのトゥルーエンドにたどりつく。
土台を完成させてから、レイスは、ようやく、本編であるソンキー神話のプロット創りに着手する。
――究極超邪神アポロギスに姉シューリを奪われた闘神ソンキーが、『究極の天才田中トウシ』と合体して、アポロギスを倒す物語。
その物語を構築していく中で、おかしなことが起こる。
最初の負けイベント『アポロギスとの闘い』で、『シューリの弟子』が、急に暴れ始める。
本来、ここでは、ソンキーが負けて、殺されて、異世界に転生する予定だった。
そして、同じく転生していた田中と色々あって――みたいな流れを想定していたのだが、しかし、シューリの弟子である『センエース』が、レイスの想定から外れて、ガンガンにあばれはじめる。
『ちょっと待て、センエース。お前は、裏ボスの予定なんだが……邪神とか諸々を倒したあとで、最後に登場する、最大の敵のはずで……お前は、ずっと昔から、そういう、エクストラボスの立ち位置で……え、ちょっと待って……』
――プロットを創る時、レイスの頭の中では、映像が高速で流れている。
レイスは、高速で流れていくソレらを、必死になって、ノートにつなぎとめる。
『こういう感じ』という漠然としたイメージを具体的に追及していく中で、
最初に『こうなるだろう』と思っていた展開から外れることはよくあるのだが、
センエースの場合は、それが、あまりにも顕著で……
『え、ちょっと待って……ここでは、邪神に負けるはずじゃないの? これ、センエース、勝っちゃうよ……いや、これは、そういう話じゃなくて……』
レイスの想定では、
『邪神に敗北したソンキーが転生して、いつか邪神を殺す』というシナリオだったのだが、センエースが暴れたせいで、物語の主軸が、全然違うものになっていった。
センエースの暴走は止まらない。
ソンキーと合体してセンキーになったり、ソウルゲートに入ってみたり、
しまいには、究極超神化6に覚醒してアポロギスを倒してしまった。
『……うわ、どうしよう……ソンキーの物語じゃなくなった……』
『こうしよう』と思って書き始めたプロットが、
たまに、バグって、わけのわからない方向にいく、
というのは、稀によくあることだったが、
こんなにも異次元レベルで想定外になったのは初めてだった。
――仕方なく、レイスは、センエースを深掘りしていく。
シューリの弟子センエースは、もともと、日本人で、異世界に転生しまくっていた。
こいつは、シューリを救うために、何度も、何度も、無自覚・記憶無しのタイムリープをしていて、『無限転生という呪い』以外は、ほぼ才能無しだったくせに、元第一アルファ人としての唯一の恩恵である『経験値1.2倍(成長ちょっと早い)』という、第一アルファ人にしてはショボすぎる『カスみたいなブルースペシャル』に、タイムリープボーナスをすべてぶっこんで、『経験値12000倍』というチートに育て上げていた。
主役の座をソンキーから奪い取ったセンエースは、
そのまま、プロットの海を暴れ散らかして、
ついには、最終章で、
『??????・?????』にまでなってしまった。
『……な、なんだか、ものすごい長い物語になってしまったな……このプロット量だと……10000話ぐらいはありそうだけど……10000をこえなかったときに恥ずかしいから、1000話ぐらいって言っておくか……』
センエースが主役になったとたん、物語の異常性が膨らんだ。
なんだか、本当に、わけのわからない物語になってしまった。
かっこいいソンキーが、とんでもなくかっこよくなっていく物語はサブエピソードに墜ち、変態のセンエースが、より変態になっていく物語が動き出す。
――すぎやま○ういちは、ドラ○エのオープニングを5分で作り上げたという。
それは、何もない上での5分ではなく、
それまでに積み上げてきた55年と5分で完成したという。
センエース神話も、それに似たところがあった。
軽くトランス状態になったレイスはほんの数日でセンエース神話10000話分のプロットを叩き上げた。
だがそれはただの数日ではなく、無限に挫折し続けた30数年と数日で仕上げた、血だらけのプロット。
派手に尖り散らかした、エゲつなく痛々しい、とても大事な黒歴史の結晶。
『……最初の想定から、ずいぶんと外れてしまったな。ここまでくると、もう、私の作品とは言えないな。だって、こんなものを描くつもりなかったもん。……まあ、別にいいけど……もう、好きなように暴れてくれ。私はもう知らん』
こうして、紆余曲折あって、
センエースの親、センレイスは、
無数の想いを込めた作品『異世界転生はもう飽きた』を、なろうに投稿する。
そこから先のセンエース神話の歴史に関しては、
このまま、リアルタイムで体験してもらえればなぁ、と思っております。
全部脚色です。
なにもかも全部嘘です。
全部ただの妄想なんだからねっ!
勘違いしないでよねっ!




