25話 笑えよ、カンツ。
25話 笑えよ、カンツ。
「カンツ。お前が、今、言った言葉は、そのまま、お前自身に跳ね返る。ゼノリカは、もっと、ドンと構えておくべきだ。ゼノリカという、世界を背負って働き続けている組織こそが、最も尊く偉大であると胸を張る覚悟が足りない。その狭量さを、民衆は嘆いていると、なぜ気づけない?」
「……」
まっすぐな言葉を前にして、
カンツは、少々、息をのむ。
敵を前にすれば豪快に笑い、
王を前にすれば信念に狂う。
そんな、ゆるぎない男が、少しだけ揺れた瞬間。
多少とはいえ、カンツを揺るがせることができる王など、『彼』ぐらいのもの。
「――『センエースがどうこう』とか、そんなしょうもないことに固執して、大事なものから目を背けている。お前がやっているのは、ただの拙い依存で、もっと言えば、投げやりの責任放棄だ」
「……」
「笑えよ、カンツ。それがお前の誇りだろうが。どんな絶望を前にしても豪快に笑う背中を世界に魅せつけて、すべての命に『あきらめることを諦めさせる』と誓った覚悟。その美しさに、民衆は、『絶対の頼もしさ』を感じていたんだ。民衆が『ついていきたい』と思っているのは、お前の、その『でかい背中』であって、『センエースがどう』とか、そんなカスみたいなファントムじゃねぇだろうが!」
遥かなる高みから、カンツに、『カンツの生きるべき道』を説くカドヒト。
「もし、『センエース(諦めずに絶望と向き合う英雄)』の『概念が大事』だと、心から、本気で、『本質的な意味』で思うのであれば……お前がセンエースになれよ。自分こそが、この世の全てを守る偉大な盾であり矛だと、力の限り叫んでみせろよ。その壮大な覚悟を、ゼノリカに属するすべての神々が、力いっぱい腹の底から叫ぶことで、民衆は、『ああ、これなら世界は大丈夫だ』と心の底から安心して、それぞれの仕事に没頭し、それが、また世界を、よりよく回すんだろうがよぉ!」
鋭い熱を帯びてくる。
カドヒトの叫びは止まらない。
「センエースの詳細を勉強して尊敬しろだぁ? そんなクソくだらねぇことを叫んでいるほどの余裕が、今のてめぇにあるのかよ! 民衆を混乱させることしか出来ねぇボンクラがぁ! どうでもいい横道にそれてんじゃねぇ! 遊んでるヒマなんかねぇだろぉ! ゼノリカは、ごっこ遊びじゃねぇんだぞぉおお! どれだけの命を預かっていると思ってんだ! 猛省しやがれぇええええ!」
「……なんという荘厳な天啓……」
「わかってくれたか」
ここではないどこか遠くを、男前な顔で見つめながら、
カドヒトは、しとやかに、
「じゃあ、とりあえず、センエース布教などという『終わっている酩酊行為』は完全凍結し、二度と、同じ過ちが起こらぬよう――」
「陛下の激励を、すべての命に伝えます」
そう言いながら、アイテムボックスから取り出したメモ帳に、
先ほどの荘厳な天啓を、一字一句間違わないように、豪速で刻み込んでから、
「陛下の言葉は、その全てが輝いておられる。陛下に一つだけ文句を言わせていただけるのであれば、なぜ、もっと、はやく、その尊さを、我々に魅せつけてくれなかったのかという、その一点のみ。おなじ過ちを二度と繰り返さぬよう。ワシと同じ痛みを背負う後進が産まれぬように、やはり、陛下の尊さを、世界中に広める必要がありまするなぁ」
恍惚の表情かつ満面の笑みで、
そんなことを言い切るカンツ。
まったく人の話を聞かないカンツの前で、カドヒトは、
「……うそぉーん……」
膝から崩れ落ちるしかありませんでしたとさ。
めでたし、めでたし。




