21話 カドヒト・イッツガイは、カドヒト・イッツガイ以外の何者でもない。それ以上でもそれ以下でもない。
21話 カドヒト・イッツガイは、カドヒト・イッツガイ以外の何者でもない。それ以上でもそれ以下でもない。
「カンツ猊下は、リーダーとの一対一での対話を望まれております。どうしますか?」
「受けよう。俺は逃げない。『どこにでもいるただのアホでしかないセンエースを過剰に美化して布教し、その美化された虚像を信じないと罰則』などという反社極まりない暴挙……この俺が、必ず止めてみせる。吉報を待て」
そう言うと、
カドヒトは、覚悟の証ともとれる、厳格な軍用コートに身を包み、
カンツとの話し合いの席へと向かった。
対策本部として活用している高級ホテルの最上階にあるラウンジ。
入念に人払いを済ませた、その空間で、
カンツは、
――片膝をついて待っていた。
「……」
『神に仇なすイカれた組織のリーダー』として、
『ゼノリカの方針に逆らうための話し合いにきたカドヒト』に対し、
当然のように、片膝をついているカンツ。
カンツは、
カドヒトが、3メートル以内の距離まで近づいてきた気配を察知すると、
片膝をつき、頭を下げたまま、
「それで、陛下。お話とは、なんでしょう?」
と、カドヒトがセンエースであることを一ミリも疑っていない声音でそう言った。
そんなカンツに対し、カドヒトは、
「陛下? 意味がわからん。そんなヤツはここにはいない。ここにいるのは、『センエース布教対策委員会委員長』兼『反聖典組織リフレクションのリーダー』……カドヒト・イッツガイだ。九華の特攻隊長ともあろう者が、俺ごときに頭を下げるなよ。ゼノリカの品位が下がるだろ」
「……陛下が、ゼノリカの取りこぼし――『ゼノリカが処理しきれなかった闇の裏側』を処理するための組織として、リフレクションを運営していたことは、ウムルからも聞いておりますし、陛下から命を分け与えていただいた際に、その軌跡を心にシッカリと刻んでおりまする。陛下の、その、『自らが泥をかぶることすら厭わない、世界に対する大いなる献身』には、いつも、感服させられるばかり」
「俺はカドヒト・イッツガイだと言っている。立て。俺ごときに頭を下げるな。その行動は、ゼノリカに対する冒涜だ。栄えあるゼノリカの天上、九華十傑の第十席という地位を穢すな」
「命令とあれば、仰せのままに」
そう言うと、カンツは立ち上がり、臣下としての礼儀を保ったまま、まっすぐ背筋を伸ばす。
そんなカンツに、
カドヒトは、席に腰かけながら、
「座れよ。話し合いをする。上から見おろすんじゃねぇ」
「はっ」
敬愛する上位者に対し、とことん従順なカンツ。
『センエースを称えるな』という命令以外ならば、その全てを、徹底的に、命を賭して遵守する構えのカンツ。
そんなカンツに、カドヒトは、
「お前が俺をどう誤解していようが、そんなことは知ったこっちゃない。しかし、事実として、俺は、センエース布教対策委員会の代表としてここにいる。その前提をないがしろにして、テキトーな対応をすることは許さない」
「分かっておりますとも。――ワシも、この上なく偉大な王の権勢を世界にとどろかせる仕事を抱えておりまして、大変忙しいのです。休む間もない労働時間の中の隙間時間を、むりやり捻出して、這いずるように、何とかここにきた、ということをご理解いただきたく」
「……」




