4話 優しい時間。
4話 優しい時間。
「誰よりも辛い道を、誰よりも苦しみながら……ずっと、ずっと、ずっと、けど、折れることなく、前を向き続けてくれた……そのおかげで、私は、あんたの側におれる……ありがとう……ホンマに、ありがとう」
それは、ただの言葉ではない。
数万年、数百万年、
あるいは、数百億、数兆、数百兆年分の想い。
――だから、疑う要素はなかった。
徹底的に『本気の想い』をぶつけられたことで、
違和感が霧散していく。
さらに、畳みかけるように、
「あれ、起きたんでちゅか? ずっと寝てればよかったのに。そうすれば、もう二度と、その偏差値2の顔を見なくてすんだのに」
わが物顔で部屋に入ってきたシューリ。
開幕と同時にかましてくる彼女に、センは、
一ミリも違和感を覚えることなく、
「俺の顔面偏差値は48だ。平均より下であることは認めるにやぶさかじゃないが、あくまでも、『平均より、やや下回っている』という程度で、極端に崩れているわけではない。決して、偏差値2などという、崩壊状態ではない。俺の顔面を、丁寧に表現すると『まあ、別に、どのパーツが悪いってわけでもないけど……でも、なんか、パっとしないよねぇ』という状況だ。つまり、48だ! それ以上でもそれ以下でもない! 即時の訂正を要求する」
「オイちゃんの顔面偏差値を70とした場合の判定でちゅけど、それでも訂正した方がいいでちゅか?」
「ぐ……ぐぬぬ……卑怯だぞ、貴様……俺を貶めるために、自分の数値を、無意味に暴落させるとは……」
と、センが、ヘシ折れるほどの勢いで奥歯をかみしめていると、
そこで、アダムが、
「シューリ、貴様は、どうして、そう、素直になれないんだ? いい加減にしろ。ちゃんと、この凛々しい顔をみろ。どこが偏差値2だ。100を余裕で超えているだろう」
アバタをダイヤモンドにしていく、異次元の『ひいき目』。
その、とんでもない盲目に対して、センはため息交じりに、
「いや、さすがに凛々しくはないな。正直、自分でも、のっぺりした顔だとは思っている。……シューリが70なら、2は適正だ……なんだったら、もっと低いまである……」
続けて、ミシャが、
「センは世界で一番美しいヒーローや。その真なる輝きの前では、マテリアル造形の精度なんて、なんの価値もないっちゅうねん」
そんなミシャの言葉に対し、
シューリが鼻で笑いながら、
「何言ってんでちゅか。お兄の中身なんて、最悪のきわみじゃないでちゅか。陰キャで、根暗で、陰鬱で、辛気臭くて」
「間違っていないが、全部一緒だな……どうせなら、一個に統合してくれない? 分割されても、ただただ哀しくなるばかりだから」
「なんの才能もなくて、不器用で、頑固で、応用がきかなくて、おまけに、ファントムトークの使い手でちゅよ?」
「もう、全部がただの真実だから、ぐうの音も出ないよね。てか、俺、酷いね」
「無意味にテンプレを乱用して場の空気を乱すことに性的な快楽を覚える変態で、100億年以上も同じことを繰り返し続ける病的なキ〇ガイで、世界の根底が自分の思い通りじゃないと気がすまないという異常精神の潔癖症かつ、サイコテロリスト型の独裁者でちゅよ?」
「悪口10個言われても一緒にいられるのが本当の友情――みたいなことを、どこかの伝説の教師が言っていたが、俺とお前の間に、本物の友情はないな。今、俺の心は、お前との決裂を考えているから」
「おまけに、目つきが悪くて、髪質が最悪で――」
「もういい、もういい。お前が俺を嫌っていることは十分わかった。その辺にしておけ。あまりにも俺が不憫だ。見ろ、今にも泣きそうじゃないか。かわいそうに」
優しい時間が、ゆったりと流れていく。




