74話 そこにいたのか。
74話 そこにいたのか。
「……教えてほしい……死んだ人をよみがえらせることは……あなたには……可能なのか?」
「いけると思うよ。相手の存在値にもよるけど。存在値500以下なら、どうにかなる……と思う。やったことないから知らんけど」
「……私の……」
「ん?」
「私の全部を奉げる……」
私は、全生命力を振り絞って、
カミノの呪縛に対抗する。
「私は、必ず、役にたつ……」
私が使える存在であると示すために、
「だから……」
私は、生涯で一番の力を振り絞り、
必死で、土下座をして、
「妻を……生き返らせてほしい……」
子供が出来なくごめんと泣いていた。
謝らなくていい、多分、私のせいだ。
実際、どっちの責任か分からないが、
――そんなことはどうでもよかった。
とにかく、泣いているのが鬱陶しかった。
書斎で本を読みながら寝てしまった時、いつも、起きたら、毛布がかけられている。
暑くて起きることも多々あった。
時期や状況を考えられない、その配慮の足りなさにイラついた。
私の靴が雨で濡れてしまった日の夜、
バカみたいに、ずっと、乾かそうと頑張っている後ろ姿を見るのがしんどかった。
別に、多少、濡れていてもいいんだ。
そういう不器用さが、本当にダルかった。
……ああ……
……そうだ……
ずっと、死んでほしかった。
ずっと、ずっと、ずっと……
だから、
「お願いします……」
必死に懇願した。
人生で一番必死に。
一生で一度の想いを全てぶつけた。
――けれど、
「手ゴマはすでにあるから、別に、お前はいらない」
人生は無情。
必死になろうが、どうしようが、そんなものは関係ない。
カミノは、背中から、私の心臓に刃を突き立てた。
自分の心臓が切り裂かれたのをシッカリと感じた。
死ぬと理解した時、
私は、世界の全てと繋がっているかのような錯覚に陥った。
「……セレス……ああ……そこにいたのか……」
彼女の笑顔を見るのがつらかった。
彼女を幸せに出来ている自信がなかった。
何もかもがハンパで不誠実な私に、
人生を奉げてくれた彼女の不器用さが怖かった。
小心者で、臆病で、そのくせ、愛に飢えている歪な私に、
彼女の眩しさは、強すぎる光で……
「何もできなかった……ごめんよ……」
ただの言葉になんの意味があるのか……
謝罪など意味はない。
私の弱さだけがハッキリとした輪郭をのこす。
……ああ……
セレスじゃない。
不器用だったのは、私だ……
私は……
「メンバーが増えると、管理する面倒くささが増えるけど……ちゃんとした手ゴマの数は、多ければ多いほど、1日に狩れる数も増えるかな……蘇生の実験にも付き合ってもらったことだし」
命が溶けかけている私の耳に、
カミノの声が届いた。
私の体に、熱が入り込んできた。
深い熱だった。
この深みを、どう表現するのが正しいのか、
私の語彙力ではイマイチ分からないが、
とにかく……とても深い熱だった。
「俺の手ゴマになるなら、上級国民を殺してもらうけど、それでもいい? もし、必死に働くなら……そうだな……さっき回収した、この……えっと……セレス? このオバハンを、蘇生させてやるよ。ただし、ニコトピアを復活させたあとだけど」




