65話 主人公からは逃げられない。
65話 主人公からは逃げられない。
「痛ぇよぉ……ちくしょう……痛ぇよぉ……俺、紙装甲すぎるんだよぉ……てか、ふつうに弱すぎるんだよぉ……どちくしょう……」
その場で、バタバタともだえ苦しむだけで済んでいる紙野。
ズタボロになってはいるものの、体の損傷はみられない。
その異質な光景を目の当たりにしたラベンチャは、眉間にグっとしわをよせた。
紙野の異常な『豪の動き』に対し、『遊んでいるとまずいかもしれない』と生存本能が刺激されたラベンチャは、後先考えず、『とりあえず、殺す』の精神でナイフを投げた。
ナイフが直撃した段階では、『はい、死んだ』とミッション達成を喜んでいたが、
しかし、今は、普通に『青い顔』をして、
「……な、なんで……死なない……」
その疑問に対し、紙野は応えることなく、
頭の中では、
(合体するときは、『信念の強い方』が、『人格の優先権を得る可能性』が高い……俺の我が子に対する想いが負けるとは思いたくないが……キメラも、家族に対する愛が原動力……根底が同じである以上……どっちが上になるか、正直、分からないというのが本音……)
などと考えている間に、
紙野は、ケロっとした顔になって、
普通にファイティングポーズをとる。
そんな紙野の異常性に困惑するラベンチャ。
生存本能が大音量で警告してくる。
(……こいつ……なにか異常……生命力が高いとか、そんな次元じゃない……な、何が何だか分からんが……相手にすべきじゃない気がする)
自分が負けるとは到底思えない。
だが、ここで、あの異常種を相手に頑張るメリットも見つからないので、
ラベンチャは、ウィーンに視線を送り、
「一時、撤退する! しんがりは任せたぞ! 払った金額分は働いてもらう!」
そう言い捨ててから、この場を後にしようと脱兎。
だが、その途中で、
ガンッ!
と、見えない壁にぶつかった。
「……っ! 結界か?!」
空間魔法で閉じ込めるのではなく、
この空間そのものを、結界で覆ってしまう――という手法で、
紙野は、事前に、獲物の逃走を予防していた。
ラベンチャは、
「あんなカスの結界ごときでぇ!」
プライドに身を任せて、
まっすぐな暴力を、結界にあびせかける。
だが、どれだけ全力で殴り掛かろうと、
「はぁ……はぁ……はぁぁ? どうなっている……なんだ、この抵抗力……」
逃げられない。
逃走は不可能。
――その事実を、シッカリと受け止めたラベンチャは、
混乱に溺れることなく、すぐさま、紙野に対する殺気を高める。
「アレを殺さないと逃げられない……というのであれば、殺すしかないか……」
『ここで紙野を殺しきる』という覚悟をかためると、
ラベンチャは、
「ウィーン! ここで、あのガキを確実に殺す! 援護しろぉ!」
取り繕った態度を見せる余裕はない。
ワケの分からない異常種と死闘を演じなければいけない状況で、外聞的な自分を整えられるほどの胆力など、ラベンチャにはない。
ここから先は獣の時間。
ただ、必死になって、互いの命を喰らい合う時間。
「異次元砲ぉおおおおっ!」
かなりの魔力とオーラをぶち込んだ異次元砲を放ち、
紙野を、跡形も残らず消滅させようとしたラベンチャ。




