23話 原初の道化師。
23話 原初の道化師。
「……どんなスペシャルが顕現したか知らんけど……もし、その、目覚めた力を俺に向ける気なら、普通に殺すからな」
紙野に対し、『ほとばしる殺気』を向けるキムロ。
ここまで紙野を警戒するのは、『プラチナスペシャルのエグさ』を知っているから。
『国の中枢、上層部に属する知人』の中に、何人か『プラチナスペシャル』をもっている者がいるのだが、そのどれもが、狂ったような『破格の性能』を有していて、『敵対すると厄介だ』と心底から思った。
それに、『紙野が日本人である』というのも警戒心を上げた原因の一つ。
なんとなくだが、キムロは、『日本人』が、優秀な種族ではないかと感じていた。
実際に、そういう話や文献を目にしたわけではないが、
本当に、なんとなく――彼は、そう感じていた。
――だから、キムロは、紙野に、本気の警戒心をむける。
紙野が何をしてこようと対応できるよう、
全力でセンサーを張り巡らせる。
そんなキムロの視線の先で、
紙野は、
「……トコ……大丈夫だよ」
優しくトコを抱きしめて、
「……状態異常の中でも、『死』には、特に、無数のパターンが用意されている……」
彼女の背中にある『ツボ』を丁寧に押していく。
「――『完全なる死』を迎えてしまうと、さすがに厳しいけれど……『たいていの死』は、『コレ』で、どうにかなるんだ……」
17か所ほど、特定の順番でツボを押したことにより、
トコは、
「かはっ!」
息を吹き返した。
喉につまっていた血を吐き出して、呼吸を再開する。
まだ気絶したままだが、心臓はトクトクと動き出す。
その光景を目の当たりにしたキムロは、目を丸くして、
「……え……何した? なんで、生きていた? ……いや、ありえない……確実に殺した……ま、まさか、『反魂の神聖式』? ……いや、無理だろ……存在値5の人間にできるわけがない……そんな低レベルの儀式じゃない……」
死者の蘇生は、とてつもなく難易度の高い手法。
才能のある者が、数百年単位での鍛錬を積んで、ようやく可能に出来るか否かというもの。
(まさか、あいつに顕現したのは、他者を蘇生させるプラチナ? そんなイカれたスペシャルが存在するのか? いや、まあ、プラチナなら、どんな奇跡をおこしても不思議ではないが……)
などと考えていると、
そこで、紙野は、
「……魂が足りない……」
そうつぶやいてから、
ゾっとする目で、キムロをにらみつける。
「キムロ……お前は最後だ……」
宣告してから、
紙野は、
「悪鬼羅刹は表裏一体。俺は独り、無間地獄に立ち尽くす。ここは幾億の夜を超えてたどり着いた場所――」
ぶつぶつと、何かをポエムっていく。
無意味な言葉を羅列して、
痛々しさを魅せつける。
そして、最後に、
「――俺は、原初の道化師、かみのそうぞう」
――自分の名前で、ポエムを〆ると、
天を仰いで、
「……もともと、俺が用意したキーコードは、もっと単純なものだったんだけれど……セイバーリッチに、だいぶゆがめられてしまった……ほんと、勘弁してほしいぜ……」
まったく理解できない言葉を口にしながら、
紙野は、抱きしめていたトコを、ソっと地面に置いて、
ゆっくりと立ち上がる。
「俺が創造した世界をベースにして、奇怪に改造されまくった世界……それが、のちの世界……俺が『主役』だった時の歴史は、『プライマルメモリ』なんて言葉でひとくくりにされて、過去の遺物になってしまった……」




