9913話 禁忌の麒麟児。
9913話 禁忌の麒麟児。
「センエースが破格の英雄だってことは知っている。真・神帝陛下よりは下だ。それは、すでに証明されている。無様に全てを奪われて、そのまま終わっておけば楽になれるものを、無駄なあがきで延命しているだけ。――というか、そもそもにして、センエースは、実力で、陛下から逃げたわけではない。利用価値があったから放置されているだけ。陛下がその気になれば、センエースを完全に消滅させることなどたやすかった」
「……」
(どっちの可能性もありえる……そして、正直なところ、どっちでもええ。ヌルの思惑がどうであれ、センエースは、今、生きとって、『より強くなるため』の鍛錬を積んどる状態……仮に、ほんまに、『何らかの目的のために、泳がしとる状態』なんやとしたら、その思惑を、センエースにひっくり返されて困惑したらエエだけの話。センエースには、その可能性がある。……情けない話やけど、ワシに、その可能性はない。ウラスケにも、ソンキーにも、ゾメガにも、平熱マンにもない。この世でただ一人、センエースだけに残された可能性)
センエースという希望にすがりつくT。
それが正しいのか愚かしいのか、
その辺の判断は、センエースが最終的に何を成すか、
それが確定するまでは落ち着かない。
Tはセンエースにベッドした。
『こいつなら何とかしてくれる』と信じた。
すでに、心の判定は下っている。
だから、Tは迷わない。
「……」
心を統一して、
「悪鬼羅刹は表裏一体。ワシは独り、無間地獄に立ち尽くす。どこまでも光を求めてさまよう旅人。ここは幾億の夜を越えて辿り着いた場所。さあ、詠おう。詠おうやないか。喝采はいらない。賛美も不要。ワシは、ただ、絶望を裂く一振りの剣であればええ」
厨二力全開のポエムを詠唱しはじめた。
「――それでは、独善的な正義を執行するとしよう。たゆたう『血で穢れた杯』を献じながら。――ワシは……禁忌の麒麟児、田中東志!」
覚悟のコールを積んでから、
『T・104』――『田中トウシ』は、次元を駆ける。
初手に全てを込める勢い。
全力の特攻で、どうにか、風穴を開けようとする。
狙いは、超苺。
クロートの方は、正直、どうとでもなる。
ほかの『配下の面々』も、その気になれば処理できる自信がある。
――だが、数多くいるヌルの配下の中で、
『超苺だけ』は、完璧に対処しきれる自信がない。
だから、
「ワシの全部を賭してぇえええ! おどれだけは、ここで消すぅううう!」
ほかの面々は、センエースに任せ、
ここで、超苺だけは、絶対に落としておく。
そういう覚悟を決めたトウシ。
そんなトウシの猛攻に対し、
超苺は、
「……」
あくまでも、無表情のまま、特に、何か感情を見せることなく、
冷静に、カウンターを合わせていく。
とてつもなく美しいムーブ。
『投げキャラ』としての極致。
「ぐっ!」
踏み込み足に合わせられて、
腕をからめとられるトウシ。
どうにか抜け出そうともがくが、
完璧に極められてしまい、動くこともままならない。
本日は、ちょっと遅くなるので、
朝に2話投稿します。
本日の1話目です。




