29話 ザンクーマンはフェーズ2へ移行する。
29話 ザンクーマンはフェーズ2へ移行する。
黙って、ワンダーマンの剣を、その身で受け止めたヘルズ覇鬼。
ギンッ!
と、まるで、鋼鉄にはじかれたみたいに、ワンダーマンの剣が吹っ飛ぶ。
腕が痺れてしまったのか、その場でうずくまって、痛そうにしているワンダーマン。
もはや、哀れでしかなかった。
「がんばれ、ワンダーマン! 効いているぞ!」
と、叫ぶモナルッポを二度見するカバノン。
(どこを見て、そう思った?!)
すでに底値に達していると思っていたが、
しかし、モナルッポに対する評価の下落はとどまることを知らない。
モナルッポがバカをやっている視線の先、
ワンダーマンは、心の中で、
(鬼の体って、めちゃめちゃ硬いんやな……こら、あかんわ……ザンクさんの『素の腕力』では、攻撃した分だけ、こっちが『反動分のダメージ』を受けるだけや……)
ヘルズ覇鬼の防御力に驚愕していた。
モナルッポの魔法で『ワンダーマンに擬態しているザンク』は、
腕の痺れと戦いながら、心の中で、
(――こんだけ攻撃が通らんのは、相手が『バイタリティ高めの鬼やから』ってのも大きな理由やろうけど、一番は、やっぱり『王級モンスターやから』やな……今のザンクさんでは、王級の処理は無理。把握した)
ザンクは、世界を体感していく。
本やコードの知識だけで、自分を埋め尽くしたりはしない。
彼は、経験を重視する。
『頭でっかち』に陥らないように、
慎重に、気をつけながら、自分の人生を生きている。
だから、ザンクは、他者とのおしゃべりも重視する。
相手のリアクションを重要視する。
別に、他人に興味があるわけではない。
ただ、命を理解しようとしているだけ。
世界における『もっとも複雑な概念』である『命』を正しく理解することでしか『未来をたぐりよせる手段はない』と理解できるだけの知性があるから、ザンクは、対話とリアクションを重んじる。
(さて……ほな、ちょっとだけ、実験してみよか)
フェーズ2へ移行するザンク。
一瞬で、ザンバグとの融合を果たし、
そのままの流れの中、
右腕に魔力を集中させる。
そして、ヘルズ覇鬼の腹部に思いっきりブチ込んでみた。
先ほどと比べれば、間違いなく、火力は上がっているのだが、
しかし、明らかに数値が足りておらず、ヘルズ覇鬼は、
先ほどと何ら変わらない涼しい顔をしていた。
(……王級モンスターが相手やと、この程度の攻撃では話にならんか……)
そこから、ザンクは、
『今の自分に可能なすべて』を、じっくりと投入していく。
(――遊術ランク15――)
『バフ寄りの魔法』に遊ばせた遊術を使って、
肉体を底上げしていく。
(――『イマジナリィ・マリオネットゲイザー』――)
特殊な魔法に変化させて、
昨日の内に見せてもらった、『モナルッポの攻撃の動き』を自分に投影させる。
筋肉の連携が上がり、魔力で底上げも出来た。
さらに、
(仕上げに――機動人形ランク12。――星屑、出撃準備開始)
丁寧に無詠唱で機動魔法を発動させる。
事前に、機動魔法の全挙動に対してフェイクオーラを仕込んでいたので、周囲の人間には、機動魔法を使ったことは一切バレていない。




