76話 情報開示。
76話 情報開示。
みすぼらしい老人――『パッサム』は、
ニっと笑って、
「……十つ星冒険者チーム、英雄の影牢に会えるとは光栄だな」
と、歓迎ムードでそう言った。
「まあ、座ってくれ。ボロ小屋に見えるだろうが、防音系の魔法でシッカリと対策はしてある」
「ゆっくりする気はない。できれば、日中に、間者全員から話を聞いて、夜には城に潜入したいんだ。とっとと、ゾメガとかいう魔人を殺して、大帝国に帰還したい」
「いや、それはやめておいた方がいい」
「……はぁ?」
「相手は強大だ。焦って動かず、じっくりと、丁寧に調査を進めてからにした方がいい」
「……ゾメガとかいう魔人は、警戒に値する相手ということか?」
「……ワシは弱いが、他者を見る目だけはある。あんたらのような英雄とは違い、相手を殺す能力は持っていないが、相手の本質を見通す目はある……つもりだった」
「だった、か。その過去形には、どういう意味がこめられている?」
「ゾメガの姿は、一度だけ見た。王城が占拠された翌日、ゾメガは、民衆の前で、簡単な演説を行ったからな。魔王を名乗るだけあって、頭から二本の角が生えていたが、それ以外は、まあ普通の人間と、見た目だけはさほど変わらなかった」
魔人の中には、元のモンスターの身体的特徴を受け継ぐ者もいないことはないので、ツノ・キバ・長い舌・尖った耳ぐらいであれば、そこまで奇異なものとしては感じていないのが一般的。
感覚的には、江戸時代の日本人が、西洋人を目撃する程度のもの。
「ワシはゾメガをくまなく観察した。しかし、強大であるということぐらいしかわからなかった。貴族や王族特有の威圧感は確かにある……しかし、それ以上は何も分からない」
「フェイクオーラの質が高い……そういう意味でとらえていいのか?」
「そんな『程度の低いこと』を言っているのではない。……私は、ゾメガの姿に、真の『王』の姿を見た気がした」
「……?」
「王を名乗る者は、この世界に数多く存在する。我らが皇帝陛下もそのおひとり。……だが……そう……真に王を名乗っていいのは、ゾメガだけなのではないか……と、そんなことを想ってしまうほどに……ゾメガは、まさに、王者の風格につつまれていた。何も分からないというのに、それだけは分かったのだ」
「とんでもなく不敬なことを言っているな。皇帝陛下の親衛隊に聞かれたら粛清されるぞ」
大帝国は権威を重んじる。
表向きは、秩序を一番と言っているが、腹の中では、そんなものはクソ以下だと思っている。
外交カードの一枚として便利に利用することはあっても、秩序の維持という面倒事に、本気で縛られる気は毛頭ない。
『世界の支配者であること』――それが大帝国の存在意義。
リブレイは独立した気になっているが、大帝国の視点では、
リブレイなど、西大陸の駐屯所・中継地点でしかない。
「ワシはもう長くない。いいかげん、寿命が見えてきている。だから、別に粛清されてもかまわんよ」
そう言いながら、ほがらかに笑う。
その目には、『死を受け入れた者』特有の神秘な輝きが灯っていた。




