35話 王族級の力を持つ狂人。
35話 王族級の力を持つ狂人。
センが『ただ強いだけのヤツ』だったら、まだ、プライドに寄りかかって、粘ったかもしれない。
だが、センは、『完全に頭おかしい狂人』なので、ここは素直に降参していくチンピラ。
チンピラの懇願を聞いたセンは、
チンピラの頭に右手をあてて、
「条件爆裂ランク18」
魔法を使ってから、底冷えするような声で、
「お前の頭の中に、ランク18の爆裂魔法をうめこんだ。ランク18が、どれだけ高位の魔法かくらい、教養のないチンピラでも理解できているよな?」
「お、王族級の……魔法……っ」
これまで、チンピラは、センのことを『頭おかしいナイト』としか思っていなかった。
しかし、ここで、どうやらセンが『ただならぬ力を持つ狂人』であると理解に到る。
(……な、なんなんだよ、こいつ……ランク18の魔法? ……そんなもん、ボスでも使えねぇぞ……)
『アブライ・ファミリー』のボスである『アブライ』は、上位貴族に匹敵する力の持ち主だが、そんなアブライでも、使える魔法のランクは『15』が精々。
「そのとおり。ランク18は王族級の魔法。存在値400前後のやつが使う魔法だ。存在値100前後しかないお前じゃ、絶対に耐えられない。間違いなく頭が吹っ飛ぶ。その爆裂魔法は、お前が俺を『不快にさせた瞬間』に発動する。これからは、言動に注意しろ。特に、ノコの悪口だけは、絶対に言わない方がいい」
コクコクと、何度も、何度も、力強くうなずくチンピラ。
そんな彼に、センは、
「治癒ランク17」
またもや超上位の回復魔法を使い、
チンピラの肉体を、ほぼ全快させてから、感情のない声で、
「お前を許す道理はないが、使えるうちは生かしておいてやる。せいぜい、俺の役に立て」
「は、はい! はいぃい!」
センに対する強い恐怖心から、素直に返事をするチンピラ。
『頭がおかしい王族級の強者』など怖すぎる。
まともに相手はしていられない。
「じゃあ、とりあえず、アブライのところに案内してもらおうか。あいつ、隠れ家が、山ほどあるから、どこにいるかを自力で探すのはダルすぎるんだよ。――ああ、最初にハッキリと言っておくけど、イヤなら別に案内しなくてもいいぞ。その時は、お前の頭を吹っ飛ばして、『案内してくれそうな他のバカ』を探すだけだから」
チンピラは首を横に何度も振って、
「さ、逆らいません! 絶対に! だから、魔法を発動させないで! お願いします!」
高位の回復魔法で体が全快したことで、
より、いっそう、センの魔法力が本物であると理解したチンピラは、
(や、やばい……こいつ、やばいぃ……何者か知らんけど、とにかく、やばすぎる……頭が、完全におかしい……)
センの『底が見えない、圧倒的な力』と『完全にブチギレている頭』の前に、ブルブルと震える事しか出来ない。
(……俺ごときでは、どうしようもない……し、しかし、『ブロール』なら、この化け物にも勝てるはず)
ブロールは、アブライ・ファミリーの用心棒筆頭。
ボスであるアブライの護衛を担当している王族級の力を持つ超人。
ブロールは、地位も権力も望まず、ただひたすらに『強さ』のみを追い求めている探究者。
アブライは、ブロールに『強さを追及できる環境』を提供することで、『用心棒になってもらう』という契約を交わしている。
(ブロールに勝てるヤツなんかいるわけがない……頼むぞ、ブロール。こいつを殺してくれ……こいつが死ねば、魔法も解除されるはず……)
などと、そんなことを考えつつ、
チンピラは、センを、アブライのいる元へと連れていく。




