29話 最低の盗賊。
29話 最低の盗賊。
「まいったな……あんたから5000万もらって、バルディからも5000万……それで1億という計算だったんだが……やれやれ。まさか、ノコ・ドローグがバカなお人よしってだけじゃなく、貧乏だったとは……いや、よくよく考えてみれば、バカなお人よしなんだから、貧乏で当然か」
「あら、その言い草だと、あたしから5000万をせしめたあとは、あたしを殺して、バルディから金をもらう予定だったと聞こえるんだけど?」
「まさに、そのとおりさ」
「あたしに感謝していると言ったのは嘘だったの?」
「感謝はしているさ。だが、だからって、大金を得るチャンスを見逃す理由にはならない。5000万もらえるなら、親だろうが、命の恩人だろうが、関係なく殺すさ。あんたが生きていた方が、リブレイの国や民のためにとっては良いんだろうが、そういうところも俺にとってはどうでもいい部分。リブレイがつぶれたら、大帝国に拠点をかえるだけ。国が滅びようが、一般民衆が苦しもうが、そんなことはどうでもいい」
そう言いながら、レンドは剣を抜いて、
「さてと……つい、ゴチャゴチャ言ってしまったが、貧乏人が相手だと、交渉するだけ時間の無駄。さっさと殺して、バルディから報酬をもらうとしよう」
「……一つ聞いていい?」
「なんだ? 言っておくが、命乞いは無駄だぜ。金もってねぇんだろ? 2億くらい持っているってんなら、話は別だが、スカンピン相手とは話をする気も――」
「最初から思っていたんだけど、あなたたち、もしかして、こっちの戦力を聞かされていないんじゃない?」
「そっちの戦力? お前と、あとナイトが一人と聞いていたが……どうやら、ほかにも、従者が二人いるっぽいな」
エキドナと、ヒキーレを見ながらそう言って、
「侯爵令嬢様ともあろう御方が、数人の従者しか連れていないとは、わびしい話じゃねぇか」
「彼女は、クダラのトップのエキドナ。そっちの彼は、魔導師団の隊長ヒキーレ。一応、周囲に、彼女たちの部下合計20名ほどが不可視化状態で待機しているわ」
「……あ? クダラと魔導師団だと……その二つは、リブレイが誇る精鋭中の精鋭じゃねぇか……ははっ、ふざけんな。バカみたいなハッタリかましやがって。リブレイのトップ部隊が、『何も持たないお前』に寝返るはずがないだろう」
「信じなくても別にいいけど、あなたの部下は、すでに、全滅しているわよ?」
「……は?」
そこで、レンドは周囲を見渡す。
すると、彼の配下たちは、全員、クダラと魔導師団の面々の手によって気絶させられていた。
「……なぁっ……?!」
「あとはあなた一人ね。言っておくけど、あたしも、一応、貴族だから、それなりに強いわよ。医療系特化のサポートタイプだから、殴り合いの闘いは得意じゃないけれど、毒系の強力な魔法が使えるから、『殺し合い』が苦手というわけでもないわ」
そこで、ノコは、右手に魔力をこめていく。
「ちなみに、あたし、盗賊とかマフィアとか快楽殺人者とかレイプ魔とか、そういう、善良な一般人に迷惑をかける犯罪者が、死ぬほど大嫌いなのよ。本当なら、あんたなんか治したくなかった。けど、あの病気は、人から人へ感染するタイプの病気だったから、相手が誰であろうと、治さないわけにはいかなかっただけ」




