24話 男自慢をするノコ。
24話 男自慢をするノコ。
センのことを話すときのノコはイキイキしていた。
ノコは、とろけたような顔で、続けて、
「ウチのセンは、間違いなく、世界一の男よ。今のように『強大な強さ』を得る前から、センは、誰よりも勇敢で気高い男だった。努力家で、清廉で、根性の塊で、この世の誰よりも優しい、最高のナイト……」
全力で、男自慢をしていく。
「ちょっと、あなたたちに聞きたいんだけど、あたしが駆逐した『流行り病』には『レベル』があるの、知ってた?」
二人が首を横に振ったのを見て、
ノコは、続けて、
「レベル10まで段階があって、レベル2ぐらいだと自力でも治せるんだけど、レベル5以上の疫病にかかると、体を動かすことすらできなくなるの」
それを聞いて、ヒキーレは、
「では、私はレベル5以上だったということでしょうか? まったく動けなくなって、呼吸すらロクにできませんでした」
「そのとおり。あなたはレベル6だった。疫病レベルは、一つあがるごとに、どんどん辛くなっていくの」
「あれでもレベル6ですか……正直、10だと思っていました。そのぐらい……本当につらかった……」
「レベル10は、そんなものじゃないわ。――これは、あの病気を治すとき限定の話なのだけれど、『対象がかかっている病気』を、あたしは、ちょっとだけ『体験しないといけない』の。その特性があるから、あたしは、レベル1~10まですべて体験しているのだけれど、レベル10は、本当に、とんでもない苦しみだった。『1秒たりとも生きていたくない』とすら思ってしまったほどの地獄。実際、レベル10に感染した人の大半は、苦しさのあまり、自殺してしまっていた」
その話を聞いたヒキーレは、
(ノコ様は、数千・数万という単位で、病気を治してきた……つまり、今の話が本当なのであれば、ノコ様は、数千・数万という単位で『重たい病気を体験してきた』ということ……この人は、『老い』という苦しみだけではなく、『病気を味わう』という苦痛を伴うことで、人々の病気を治してきたのか……)
あらためて、ノコの偉大さを理解したヒキーレは、
そこで、深く頭を下げて、
「私と妻、そして、多くの民衆の病気を治していただき、本当に、ありがたく思っております。そのご恩を忘れ、ガルムとともに、ここまでせめてきたこと、心からお詫び申し上げ――」
「あ、ちがう、ちがう。そんなことはどうでもいいのよ」
「え?」
てっきり、そういう話の流れだと思っていたが、
ノコは、まったく違う角度で話を切り出す。
「あなたが『家族を守るために動いた』ということは知っているわ。大事な人を守るために全力を尽くす。当たり前のことね。……もちろん、あたしは、殺されたいとは思っていないし、殺しにこられて普通に不愉快だけれど、『あたしの討伐に向かわざるをえなかった』という『あなたの事情』は理解できる。だから、そのことについて、とやかく言う気はないわ」
「感謝します」
「そんなことはどうでもよくて、あたしが、『あなた達に知っておいてもらいたいこと』は、センのことなの。……あなた達は、センが、『自分も病気にかかっていたのに、それでも、周りの人たちの看病をしていた』という事実を知っている?」
「いえ、もうしわけありませんが、そういう細かい事情はまったく存じ上げておりません。……正直、私が知っているのは、ノコ様が、魔法の力で、人々を救ったこと、その結果、老いてしまったこと。そして、バルディ殿下にその老いを押し付けて逃亡したこと……このぐらいのことしか知りません……というか、聞かされておりません。勉強不足の無知で申し訳ありません」
「別にいいわ。でも、これからは知っておいて」
そう前を置いてから、
ノコは、コホンとセキをはさみ、
「あの時、センは、レベル10の疫病にかかっていたの」




