後日談(13) 宵(よい)の鴉(からす)と虚数堕(きょすうお)とし。
後日談(13) 宵の鴉と虚数堕とし。
脳天が割れて、血があふれる。
そのイメージで、脳内がいっぱいになる。
しかし、実際のところは違う。
『宵の鴉と虚数堕とし』は、
『殺神遊戯』と同列の『解除系グリムアーツ』。
――『センエースの高潔』に触れて目覚めているのは蝉原だけではない。
超苺も、普通に目覚めていた。
だから、超苺の投げは、エタナルに届く。
「ぶっ……ふぉおおっ!」
口から、真っ黒な血の塊を吐き出すエタナル。
それは、呪いの具現。
吐き出された黒い血の塊は、
どうにか、エタナルの体に戻ろうと、
その場でピョンピョンはねているが、
「………………めざわり」
ボソっとそうつぶやいた超苺に、
ブシュっと踏みつぶされてしまった。
その直後のこと、
カミーレンが、
「コイチゴ様!! う、腕が!!」
腕を削り取られて、片腕になっている超苺を心配している彼女をシカトして、
超苺は、エタナルに近づき、
彼女の肩に、ソっと触れて、
「………………すまない」
そう声をかけた。
自我を取り戻していたエタナルは、
涙を流しながら、
「私を救うために……腕を失ったというのに……それなのに……」
エタナルは、超苺の謝罪を、次のように解釈した。
『お前を救うためとはいえ、強力な投げ技で、地面にたたきつけてしまって、すまない』
まあ、そう解釈することもできるだろうが、
実際のところ、超苺が、何を思って、
彼女に、その言葉を口にしたかというと、
その答えは、次の通り。
『難易度の高い技を使って、片腕をなくしてまで、呪いを解除したんだから、さすがに、肩の一つぐらい、触れてもいいよね? あ、いや、わかってるよ? 俺に触れられるのは、気持ち悪いよね……ごめんねー。けど、まあ、今回ばかりは、さすがに、ご褒美、ちょっとほしいわけよ。もちろん、お尻とか、おっぱいとかは、触らないよ。そこのラインは、さすがに超える気ないから。でも、肩にポンッ、ぐらいは、許してほしいなぁ……だめかなぁ? んー、いや……ほんと、気持ち悪くて、すまない』
超苺が、セクハラを謝罪しているだけ、
などとは夢にも思わないエタナルは、
「ああ……ああ……感謝します……」
ポロポロと溢れる大粒の涙。
それを見ながら、超苺は、
(あ、よかった。怒ってないっぽい。どうやら、エタナルは、『肩に触れるぐらい』は許してくれる系女子だったらしい。女神のような女の子だ。そういう子が存在してくれて、ほんと、ありがたい。もし、これが、酒神とかだったら、きっと、ゴキブリを見るような目を向けられていただろからなぁ)
などとそんなことを心の中でつぶやく。
どこまでも、一本筋の通った、本物の変態紳士。
それが、超苺・ギガロ・カノープス。
しかし、周囲の人間は、誰も、彼が、ただの変態であると気づかない。
それは、センエースも同じ。
一連の流れを全て見守っていたセンは、
超苺に対して、
「アッパレだ、超苺。お前の気高さ、しかと見せてもらったぞ」
本当に、感心した顔で、超苺に称賛をおくるセン。
そんなまっすぐな目を向けられてしまうと、
否定するわけにもいかず、
超苺は、片膝をついて、
「………………あなた様には敵いません」




