後日談(7) アダムを追いかけてきた『雷神魔王の元副官』「3」。
後日談(7) アダムを追いかけてきた『雷神魔王の元副官』「3」。
「……俺が壊れたモンスターになったその時は……セイバー、お前が俺を殺してくれ」
その言葉に、セイバーは、
まるで、最初から分かっていたかのように、
ゆっくりと頷くと、
デスサイズをふりかぶり、
ズバァっと、ダクラの体を切り裂いた。
間違いなく切り裂いたはずなのに、
ダクラの体には傷一つない。
そして、デスサイズの刃の先には、
『黒い輝きを放つ玉』があった。
セイバーは、それを手に取ると、
「じゃ、あとはよろしく」
そう言って、肉体の主導権をセンと交換した。
「ああ……」
センは、そう返事をすると、
そのまま、黒い玉を、口の中へと押し込んだ。
ゴクリと飲み込むと、
「ぐぁああああああああっ! ぎゃああああああああっっ!」
センの頭の中がグッチャグチャにかきみだされる。
『これまで』も、『死ぬほどのダメージ』を受けた時は、
とんでもない地獄を見てきたが、
今回は、確かに、これまでの10倍以上の辛さを感じた。
「ぶぇ……おぇ……はぁ……はぁ……」
当然のように、ゲロを吐き散らす。
とにかく、しんどくて仕方がない。
クラクラする頭を、精神力だけで、どうにかおさえつけ、
「今後……死にかけるたびに、これを味わうのか……サクっと死んだ方が絶対にマシだな……」
と、素直な感想を口にする。
そこで、アダムが、
「主上様……お体は、大丈夫でしょうか」
そう言いながら、
アイテムボックスから、ハンカチを取り出して、
センの口まわりをぬぐう。
「あの、アダム、気持ちはありがたいんだけど……俺、子供じゃないから、過保護やめて」
そう言いながら、センは、アダムをかるく押しのけて、
倒れているダクラに近づき、
「起きてるか? てか、死んでねぇよな?」
そう声をかけると、
ダクラは、
フラつきながら、
どうにか、仰向けになり、
センに視線を向けて、
「……な、なぜ……私を……助けて……くださったのですか……?」
「……『絶対的な王』の力だけで持っていた国が、その絶対的な王をなくしたら……そりゃ、国は大混乱になるよな」
雷神を失ったあと、
ダクラは、一人で、国をどうにかしようともがいていた。
けど、彼女は王の器じゃなかった。
『小さな国の統治』ぐらいなら出来ただろうが、
『六大魔王が築き上げた巨大国家』を支えるだけの力はない。
民が安心して暮らしていく国を保つためには、
アダムという『強大な力を持つ魔王』が絶対に必要だった。
ダクラは、最初からアダムに押し付けようとしていたのではない。
自力で必死に頑張ってみた上で、
自分では役者が不足していると悟り、だから、
危険なアイテムである『願い玉』を使ってまで、アダムに救いを求めた。
「政治なんてダルいこと、俺には出来るがしねぇ。とほうもなくしんどい学級委員長の頂点。お前は、その鬼ダルい仕事を、国民のために頑張ろうとしていた。雷神の副官だった時代から、ずっと、国の支えとして、その身を削って、民に奉仕していた。そんなお前が、壊れたモンスターとして処理されるなんて……そんなエンディングを、俺は絶対に認めない」
「……」
「お前の国には、蝉原を送ってやる。俺みたいな『性格が悪いだけの無能なカス』とは違って、あいつは、めちゃくちゃ優秀なカリスマだ。雷神の代わりぐらいは、余裕でこなせるだろう。ていうか、雷神の国だけではなく、この世に存在する『すべての国』の統治を、あいつにやらせるつもりでいる。あいつなら、誰もが安心して幸せに暮らせる世界を実現できるはずだ。というか、実現させなかったら殺す。ボコボコにして殺す。理想の世界を実現できないなら、あいつの存在を許容する理由がねぇ」
そう言ってから、
「だから安心しろ。お前の努力は報われる。頑張ってきたヤツの努力が報われない世界を、俺は認めない」
センの言葉を受けて、
ダクラは、ツーっと、涙を流した。
彼女は、自分の身に何が起こったか知っている。
実は、セイバーが、彼女の記憶を盗み見る時、
同時に、『センの感情』も、彼女に流し込んだ。
だから、実のところ、彼女は、知っていた。
センが答える前から、
センが、どういう想いで自分を助けてくれたのか知っていた。
けど、聞きたかった。
『この上なく尊き王』の口から、
助けてもらえた理由を、
どうしてもききたかったのだ。
「センエース様……この上なく尊き命の王よ……感謝します……そして……これまでの無礼を、心から謝罪します……何も知らなかったからとはいえ、私は、あなた様に対して『無意味な暴力を振るう』という大罪をおかしてしまいました……断罪されてもおかしくない私を……あなた様は、あたたかく包み込んでくださった……このご恩を……私は、永遠に忘れません……」
「忘れていいよ。あと、俺は尊くない。『嫌いなヤンキー』を陰湿にイジメて喜んでいる『性格のユガみ方』がハンパない、どうしようもないクソ陰キャだ。罵られることはあっても、褒められる筋合いはどこにもない」
最後の最後まで『ファントムトーク(中身のないおしゃべり)』をかましてから、
センは、地上へと旅立った。
その途中で、センは、
「……いったん、超苺のところに視察にいくから」
そう言った。
「なぜでちゅか?」
酒神の質問に、センは、
「……俺は王じゃない。けど、お前らが俺を王だと認識しているのは事実……お前らが勝手に誤解しているだけとはいえ、それが事実であるのなら……最低限の義務ぐらいは果たそうと思った……そんだけ」
そう言うと、
アダムが、
「さすがは、主上様……その尊きお考え、感服いたします」
そう言って平伏するアダムに、
センは、
「……ああ、もう、はいはい」
ついに、面倒くさくなって、否定することをやめた。




