39話 アダム視点(2)。
39話 アダム視点(2)。
私はアダム。
夢をかなえた者。
昔から、私は、『何か』を追い求めてきた。
その『何か』に、私は、ついに出会えた。
この上なく尊き命の王センエース。
彼こそが、私の追い求めていた光。
概念の頂点。
つまりは神。
気づいた時、私は泣いていた。
この御方の前にいると、
心がふるえて止まらない。
幸福の究極。
光につつまれ、愛を知る。
私は、当然のように、
「この上なく尊き御方……どうか、このわたくしめを……」
礼をもって、神前に伏せる。
「あなた様のシモベの一人に……その『輝かしき末席』に加えていただきたく存じます」
心と魂が、完全に平伏した。
生まれて初めての感覚。
この上なく尊い輝きに触れて、魂魄の全部が、歓喜に包まれた。
生まれた意味を知った。
哲学の解答をえる。
私は『神のため』に存在し、『神』はここにいた。
私の涙が『とどまること』を忘れた。
おぼれるほどの涙が、私の答え。
これは、まぎれもなく『愛』。
この世で、最も尊い感情。
偉大なる神に尽くし、奉仕するために、私は生まれてきた。
神の下僕。
それが、私の全て。
私は、そいとげる。
永遠に、神の手足として、
尊き王センエース様の下僕として、
『この命を使い果たす』と決意する。
――そんな風に、私が、自身の覚悟を心に刻んでいると、
美しき神が、おごそかに口を開く。
「まず、最初に言っておくけど、俺は、一ミリも尊くない。お前を助けたのは、俺じゃない。俺は、ちょっと肉壁やっただけ。お前らを助けたのは、俺の中にいるセイバーリッチだ。あのバカ女をたおしたのも、お前らの魂をバカ女から回収したのも、お前らの魂を修復したのも、全部、セイバーリッチだ。……あれ、よくよく考えたら、俺、本当になんもしてねぇな……」
尊き王は、心根の方も美しかった。
決して、自身の功績をひけらかしたりしない。
おそらく、そうやって『自分の心を律している』のだろう。
『心』とは、『大きな力』を得てしまうと、簡単に歪んでしまうもの。
富、名誉、地位、権力、それらの大きな力を得た時、
人の心は簡単に醜く変貌してしまう。
尊き王は、自身が、決して、そうはなってしまわぬように、
過剰なほどの『謙虚さ』と『慎み深さ』でもって、
『絶対に増長してしまわぬよう』に、強く自分を律している。
「だから、俺に感謝とかはしなくていい。セイバーも『感謝はいらん』と言っている。というわけで、シモベとかどうか、そういうのは、いったん、なしの方向で」
なんという高潔な魂。
これほどまで『尊き命』が存在したとは。
……ああ……尊い……
その『果て無い尊さ』にふれているだけで、
まるで、魂が洗われていくかのよう……
私は、あらためて、目の前の神に忠義をしめす。
胸の前で両手を合わせ、
心の底から祈りをささげる。
この御方が私の神。
この御方だけが……私の全てを包み込む光……
私は、絶対に、この御方を手放さない。
「神よ……尊き王よ……私は、あなた様に尽くすために生まれてきたのです。どうか、このあわれな子羊に、どうか、どうか、御慈悲をっ。この身のすべてを、どうか、あなた様にささげさせてくださいませ」




