34話 『アダム』視点(2)。
34話 『アダム』視点(2)。
魔王ユズと、1001号。
この二人は、本当に強かった。
どちらも『タイマン(一対一)』なら、普通に殺しきれる自信があるが、
連携されると、めちゃくちゃ厳しい。
どうにかして、突破口を……
と、色々考えながら戦闘している途中で、
あのバカ女……セイラが、途中介入してきた。
『特殊なマシンゴーレム』を召喚して身に纏うことが出来る『起動魔法』というのがあるのだが、
ソレに近い『何か』をまとって、
セイラは、私たちの闘いを邪魔してきた。
『マシンゴーレム』は、鈍重なことが多いのだが、
セイラが着ているソレは、おそろしく俊敏だった。
「クソ女ども、死ねぇえええええ!!」
怒りにまかせて、
私とユズの二人に猛攻をしかけてきた。
セイラの狙いは、私とユズ。
すぐに理解した私たちは、
いったん、この面倒事を処理すべく、
アイコンタクトだけで意思疎通をすると、
一時休戦、共闘の構えをとった。
1001号と、私と、ユズ。
この三人で、一時的なパーティを組み、
どうにか、セイラを殺そうとしたのだが、
「……ぐふっ!!」
セイラはとんでもない強さだった。
セイラというか……セイラがまとっている、あの謎のマシンゴーレムが、
とにかく、異常に強い……
あの異様なマシンゴーレム……まさか、『龍の女神』の『報酬』?
い、いや……セイラは、魔王を束ねているわけではない。
報酬を受け取れるはずがない。
……ただ、何かの間違いで、手に入れたという可能性も……
などと、ゴチャゴチャ考えていると、
セイラが、
「絶対に殺すからな、クソ女どもぉおお! 貴様らは、この私を、とことんコケにしてくれた! そのうらみ、にくしみ……私の怒りを……思い知れぇええええええ!!」
ヒステリックに叫びながら、
猛獣のように暴れまくる。
一撃、一撃が、おそろしく重たい。
「がはぁああっ!!」
私は、防御力に自信があるのだが、
セイラの一撃が直撃したことで、
内臓が破裂した。
「ぶほっ! うぇええ!」
おもいっきり吐血する。
回復魔法を使って、どうにか、損傷した部分を治しているが、
そんなことをしている間に、
セイラは、また攻撃をくりだしてきていた。
必死によける。
よけることしかできない。
あのマシンゴーレム、本当に、強すぎる……っ。
「だ、大丈夫ですか、アダムさん」
ユズが、心配そうな顔で私を見てくる。
私のことを気にしている場合か。
今は、セイラを殺すことだけ考えろ、バカが。
「ははははは!! 死ね死ね死ねぇ!! 『あんた』も、アダムも、1001号も、全部、死ねぇええええ! この私が最強で最高の女王だって理解して、死ねぇえええ!」
「死ねない! 私は、この国を守るって決めたの! もう、誰も苦しませない! 頑張っている人が幸せになれる国を目指すって決めたのぉおおお! 邪魔しないでぇええええ!」
「偽善者がぁああ! 死ぬほどムカつくんだよ、その思想ぉおおおお!!」
そう叫びながら、
セイラは、ユズをぶっ飛ばした。
壁に激突して血を吐いている。
……ユズはもうダメだな。
あとは、もう、1001号と私でやるしかない。
……と、思っていると、
「てめぇのことも、ほんと、ガチで、クッソムカついてんだよ、1001号ぉおおお!!」
セイラは、1001号に、
豪快な拳をたたきつけた。
1001号は、かなり強いナイトだが、
さすがに、あのマシンゴーレムの一撃には、たえられず吹っ飛ばされてしまう。
……ついに、私ひとりか。
ギリっと奥歯をかみしめる。
……別にいい。
ずっとそうだった。
生まれてからずっと、
私は一人で闘ってきた。
「セイラ……ナメるなよ……マシンゴーレム頼りのクソ女が……私を殺せると思うな」
負けてたまるか。
こんなところで……
私は、まだ見つけていない。
私は、必ず、探し当てる。
私が求めてやまない光。
私が『すべてをささげるに値する王』を見つけるまで……
私は死ねない……
「セイラァアアアア!!」
私は、腹の底から叫びながら、
セイラに向かって、
「――『雷禅/緋色』――」
最高位の『グリムアーツ(必殺技)』をたたきつけた。
雷神から奪い取った技。
ただのエルボーだが、
グリムアーツとして昇華されたこの技は、
凶悪な火力をほこる。
雷神との闘いで、何度も叩き込まれたので、
この技の強さは骨身にしみている。
全力の必殺技を叩き込んだ――が、
セイラは、
「さすがに強いわね、アダム!! あんたは、私がいなかったら、間違いなく地上最強! けど、残念!! 私がいるから、あんたは、永遠に2番手なんだよぉおおお!」
完璧なカウンターで、私の腹部に、
「ぐはぁあああああっ!!」
凶悪な一撃を叩き込んできた。
さすがに耐えきれず、
ヒザから崩れ落ちる。
あまりのダメージで体が動かない。
体内に、無詠唱で速攻の回復魔法をかけているが、間に合わない。
「死ねよ、アダム……あんたは、この私を奴隷にした……何度も、何度も、殴ってきた! この私を!! 天に選ばれた私を!! 貴様は、ゴミのようにあつかった!! 絶対に許さなぁあああああああいっ!!」
そう叫びながら、
両手を私に向けてきた。
膨大な魔力とオーラが、セイラの両手にあつまってくる。
「異次元砲ぉおおおおおおおお!!」
走馬灯が見えた。
世界が『ゆっくり』になる。
これまでの記憶で、頭がいっぱいになった。
……大変だったな、これまで……
強さを求めて、各地を駆けずり回って、
強大なモンスターと、何度も命がけの死闘を繰り返して、
ようやく、六大魔王を倒せるほどの力を手に入れたのに、
何も見つけられず、
こんなところで、あっさり死ぬのか……
出会いたかった……
私が、すべてをささげられる王に……
寄り添いたかった……
望まれたかった……
……愛してほしかった……
……愛したかった……
……愛され……たかったの……
……いやだな……
死にたくない……
「だれか……助け……」
そう、思わず、つぶやいてしまった、
その時だった。
私の前に、
……その人は、現れた。
「――『ヒーロー見参』――」
それは、
『とてつもなく尊い輝き』を背負った王。
私がずっと追い求めていた、
『すべてを包み込む光』だった。




