32話 『ユズ』視点(4)。
32話 『ユズ』視点(4)。
私はユズ。
天に愛されている女。
――やはり、結局のところ、私は、神に愛されていた。
アダムが天覧試合でバカみたいに目立ってくれたおかげで、
私は、なんなく、魔王城の地下にもぐりこむことができた。
途中で、見張りを数人殺すことになったけど、
そんなことはどうでもいい。
あんな、低存在値のカスどもは、いくらでも替えがきく消耗品でしかない。
……アダムのそばにいる間、
私は、ムリヤリ、レベリングをさせられた。
このクソ重たい剣を使って、中位モンスターと戦わされた。
何度も死ぬ思いはしたが、
おかげで、存在値が50にまでアップした。
おかげで、ザコの見張りぐらいは殺せる。
この『セイラの体』は、それなりに才能がある。
おそらく、『魔王の種』だ。
このまま順調に成長すれば、最終的に存在値300前後までいけるだろうと思う。
『元の体』を失うのは惜しいが、
この体でも、やり方しだいでは上にいける。
というわけで、元に戻る方法を探すのはあきらめ、
サクっと、セイラを殺すことに決めた。
絶対に殺す。
セイラ……てめぇだけは、絶対に許さない。
――と、自分自身の『ほとばしる殺気』に振り回されていると、
地下の『隠し金庫』に到着した。
よかった。
なんの手も入っていない。
セイラは、やはり、ただのバカだ。
『私の記憶をもっている』というのなら、
まず、何はともかく、この隠し金庫をおさえるべき。
ここを放置するなんて、愚の骨頂。
『見張り』も、元々のあたしが『ダミーで配置したカス』ばっかりだし……
……
……でも、あいつ、そんなにバカかな?
ありえる?
そんなこと……
もしかして、あいつ、この隠し金庫の記憶がない?
……
……んー、
まあ、どうでもいいか。
そんなことよりも……
この隠し金庫は、何重もロックをしてある。
『エグゾギア』だけは、絶対に、誰にも奪われるわけにはいかなかったから。
けど、私にはあけられる。
指紋認証とか、そういうロックはしていない。
『暗証番号』と『複雑な手順』さえわかっていれば、あけられる!
私以外には開けられないが……私には開けられる!
「……開いた……ははっ……」
そこにあったのは、狂気的なオーラを放っているパワードスーツ。
『エグゾギア』。
着るだけで存在値1000になる最強のアイテム。
私は、エグゾギアにふれて、
「……これが最後の出撃だ。だから、もっと、よこせ……エグゾギア」
『最後の鍵』である『起動用のキーワード』を口にしたことで、
エグゾギアの目の部分がギラっと光った。
そして、私にからみついてくる。
『――素体融合、開始』
エグゾギアの電子音が頭の中に響く。
『AEG最適化中……
SSPSE変換中……
アーティキルビット・プログラム、登録無し、オルタナエディタ起動。
武装登録無し。転送不可。
AEGスキル検索。登録なし。AEG基礎スキルのみ発動。
伏素カイゾロイド魔動アクチュエーター、融合完了……
ココロネット・オルタネーター統制、
アルモニーモンド・ピット、コンパクト化、完了。
ゼオ・コクーロイオン循環開始――』
何言ってんのか、サッパリわからない。
どうでもいいけど、さっさと動け。
私は、あいつを……あいつらを殺したくてウズウズしているんだ。
『――エグゾギア/ユズカスタム、出撃準備完了。ご武運を、マイマスター』
これで、もう、オッケー。
誰も、私を止められない。
たとえ、龍の女神が相手でも、今の私ならば間違いなく勝てる。
私こそが最強。
私こそが最高。
この世界でもっとも気高い女王。
それが私。
――さあ、行こう。
この私をコケにした連中を……
一人に残らず、グチャグチャにしてやる。
神に愛されているのは、結局、私だけだってことを、
思い知らせてやるよ、クソバカ女どもぉおおお!!
私の体を奪ったセイラ、
私を奴隷にしたアダム、
どちらも、絶対に許しはしない。
ありとあらゆる地獄を叩き込んでから殺す!!




