１７話 『文月真理（ふみつきまり）』視点（１）。
１７話 『文月真理』視点（１）。
私は文月真里。
『蝉原勇吾』を師に持ち、
偉大な王『センエース』様に『絶対の忠誠』を誓っているクノイチ。
正直、『師匠』とはソリがあわないが、
セン様のことは『この上なく尊い御方』だと思っている。
セン様は、『輝き』がケタ違いだ。
セン様は、ご自身のことを『才能のない陰キャ』などと、過剰に謙遜なされているが、あの御方の潜在能力は尋常ではない。
『絶死のアリア・ギアス』の効果が切れてしまった今、
セン様の『存在値』は『２』に戻ってしまったが、
そんな数字はどうでもいい。
セン様ならば、おそらく、数値の方でも、すぐに高みに上られるだろう。
あの御方の『可能性』は、もはや異次元レベル。
生まれながらの王。
この上なき英雄。
あの御方の配下になれて、本当に良かった。
――ちなみに、今、私は、女性陣だけで、セン様の護衛についての会議をしている。
『師匠』から、『護衛は華やかな美少女でかためたほうが、センくん的にも嬉しいだろう』と言われたので、女性陣だけで話し合いの場をもつことになった。
どうやら、『セン様の尊さに心打たれた者』は私だけではないようで、
みなも、『セン様の護衛の座』を狙っているようだ。
「とりあえず、オイちゃんがメインでちゅけど、オイちゃんだけだと、『不測の事態』が起きた時に不安でちゅから、あと２人ほど、お兄の供回りになってくだちゃい」
「なんで、てめぇが仕切ってんだ！ つぅか、３人って数字は、セン様が提示したもんだろうが！ なんで、てめぇ発進の提案みたいな感じでしゃべってんの？！ あと、そもそもにして、『てめぇがメイン』って考え方が、死ぬほどウゼぇんだが！」
気性のあらいデビナが、酒神に対して文句を口にした。
すると、酒神が、挑発的な笑みを浮かべて、
「オイちゃんが中心である理由は、『この世で最も尊い王』である『お兄』に愛されているから。あと、この中で一番強いから。あと、この中でもっとも美しいから。他にもいくつか理由がありまちゅけど、全部言ったほうがいいでちゅか？」
「ハラ立つな、てめぇ！ あんま、調子にのんなよ！ ド正面からの殴り合いなら、あたしにもワンチャンあるってこと忘れんな！ あと、どうやったら、セン様に愛されるか教えろ！ てめぇが『セン様に気に入られている』という現実がある以上、『正妃』のポジションは、泣く泣くゆずるが、あたしも、できるだけセン様に愛されてぇ！ あれほどの偉大な男は、他にいないからなぁ！」
デビナに続いて、
アルブムが、
「わたくしも、セン様に愛される方法を、ぜひ、ご教授いただきたいですわね。あの御方の尊さは異次元レベル。もし、抱きしめてもらえたならば、天にも昇る気持ちになるでしょう」
完全乙女の表情でそう言った。
正直、その気持ちは痛いほど理解できた。
……『私』は、
自分の『セン様に対する想い』が、相当強いと自覚している。
しかし、どうやら、デビナとアルブムも、私と同じぐらい、セン様に惹かれているらしい。
『ただの配下』ではなく、もっと近い存在になりたいと、心が騒いでいる。
だから、正直、酒神に先手を取られたのが悔しい。
彼女は、私よりも強いから『護衛としては適任』だと思っている。
それはいいのだが『セン様との距離が近いこと』に関しては、正直、イラっとしている。
彼女は、性格で得をしている。
『奥ゆかしさ』や『礼節』を重視する私よりも、
酒神のような『気ままで奔放な性格』の方が、人生では得をする。
……なんと不条理な話だろうか。
心底、腹が立つ。
もし、『師匠』が『最初に召喚した弟子』が酒神ではなく、私だったら……などと、そんなことも考えてしまう。
そういう意味でも、私は『師匠』のことがキラい……あ、いや、ソリがあわない。
――もしかしたら『順番の問題』ではないのかもしれないけれど、
『そんなこと』まで考えてしまうほど、
私は、セン様に心酔している。
あの御方は、本当に尊く美しい。
あれほどの男は他にいない。
正妃のポジションは、酒神にかっさらわれてしまったが、
しかし、第二婦人のポジションはゆずれない。
私は、酒神を強くにらみつけて、
「……最初に言っておくけれど、まさか、セン様を独占しようなんて考えていないだろうな？ もし、そんな、『道理に反すること』を考えているようなら、ここにいる全員と戦争になるから、そのつもりで」
「あんたらと戦争になっても普通に勝てると思いまちゅから、殺し合うのは別にいいんでちゅけど……お兄は、それを望んでいまちぇんから、やめておきまちゅ。オイちゃんにとっては、なによりも『お兄の幸せ』が最優先。でちゅから、重婚には反対しまちぇんよ。あれほどの男が妻を一人しか持たない方が不自然でちゅちねぇ。むしろ、みんなのことを応援していまちゅよ。せいぜい、『自分磨き』に励んで、『お兄』のことを『より強く輝かせるアクセサリー』としての役割をはたしてくだちゃい」
……本当に腹が立つ。
ただ、酒神が、この中で一番強いは事実だし、
『美貌』という点においても、彼女の方がワンランク上なのが現実。
――と、そこで、メイド姉妹の姉『ソプラノドール』が、
「それで？ 結局、誰が、セン様の護衛につくのかにゃ♪ 最強メイドである『ソプ』は当然決まっているとして、あと一人は誰かにゃ？」
そのイカれた発言を受けて、
彼女の『妹』である『１２３４５（じゅーご・くいーん）』が、
「姉貴、あんたはこの中で最弱だ。セン様の護衛は武力重視で選ぶべき。というわけで、選ばれるべきは、この『オレ』だ」
性格も口調も正反対な双子のメイド姉妹。
二人ともメイド服を着ているから、双子メイドと呼ばれているが、
中身の方は、どちらも、メイドらしくはない。
ソプラノドールの方は、メイドというより『世間知らずのバカお嬢様』と言った感じで、
『１２３４５（じゅーご）』の方は、メイドというより『男前なボディガード』といった感じ。
そういう事実を踏まえると、
『ソプラノ』よりも『じゅーご』の方が護衛としてはふさわしい。
だが、護衛というのは、直接戦闘だけではなく、
影に潜み、暗躍することも強く求められる。
そういう意味において、護衛にふさわしいのは、やはり私だろう。
