97話 そして、センは、原初の世界に帰る。
97話 そして、センは、原初の世界に帰る。
「捨てたければ、いつでも捨てろ。貴様が背負い続けるか、雑に捨てるか。これは、それだけの問題だ。今の私は、『貴様という親』のスネをかじるしか能のないヒキニート。家を追い出されたら死ぬ。それだけだ」
「……自分の命をタテにしたニート戦法……なんて卑劣な……」
深いため息をついてから、
センは、
「……大食漢の自宅警備員……そこだけ切り取ってみると、なんかサ〇ヤ人みたいだな……」
などと、ファントムトークで自分を慰めていると、
そこで、
ゴゴゴっと、音をたてながら、
でかい扉が、地面から生えてきた。
強い既視感をおぼえた。
それは、原初の禁域の扉に似ていた。
『似ていた』というか、そのものだった。
「……これは……原初の世界に帰れってことか?」
「それ以外に、何か可能性が思いついたのであれば発表してみてくれ。否定するから」
「そんな無駄なラリーに興じるほどヒマじゃねぇよ。つぅか、もっと、素直な言葉で返事してくれない? その鬱陶しさ、マジでダルいんだけど」
「なら、貴様も、ファントムトークをやめたらどうだ? アレは、相当に不快だ」
「……俺も出来れば、やめたいんだけどねぇ。『どうしても治らないクセ』みたいなもんで、気付けば、無意識にファントムってんだよ」
「私も同じだ。自身の重さを変えることはできない」
「……厄介な話だ。自分一人の鬱陶しさだけでも、サバき切れずに悪戦苦闘しているってのに。こんな『くっそダルい重さ』まで抱えて……」
ため息交じりに、
一度、ファントムトークで自分を翻弄してから、
スっと、まっすぐな目で世界を睨み、
「けど、全部背負うと決めてしまったしな……」
『諦めることを諦めた男』の覚悟を受け止めたヨグは、
センの中で、一度微笑んでから、
「では、そろそろ扉に向かって、私を掲げろ。そうすれば、原初の世界に帰れる」
「それも嘘だ、とか言わないだろうな」
「今回に関しては、嘘ではない。今後、嘘をつかないとは言わないがな」
「嘘つきで大食漢の自宅警備員……なんで、俺、こんなクソ不良債権を自ら抱えてんだ……我ながら意味がわからん」
などとボヤくセンに、ヨグは、
「嘆いているヒマはないぞ、センエース。『冒険の書(仮免)』では、本当の未来は開けない。正式に、冒険者試験をクリアして、本物の冒険の書を手に入れろ」
「本物の冒険の書を手に入れたら、何が起こるんだ?」
「それは、自分の目で確かめろ」
「ヒントだけでも教えてくれよ」
「不可能だ。なぜなら、私は、何も知らないからな」
「このsiri、本当にクソの役にもたたんな……」
溜息をつきつつ、センは、
扉に向かって大剣を掲げた。
すると、
――プライマルコスモゾーンレリックの獲得を確認。
『禁域へのゲート』を開きます――
声が響くと、
扉がカっと光った。
感覚器官のすべてにしみわたるような深み。
おそろしく強い『かがやき』だった。
その光は次第に大きくなっていって、
センエースの視界を覆いつくす。




