95話 こころなどバグでしかない。
95話 こころなどバグでしかない。
「――『芽生えてしまった心』に振り回されたことで、私は、より一層強く、心の鬱陶しさを理解した。こんなものは、足枷でしかない。無駄な重荷。ただ苦しくなるだけの縛り。……けれど……」
そこで、ヨグは、涙を流した。
神にはふさわしくない姿。
「……けれど、なくしたくないと思うのはなぜだ……」
ヨグの問いかけに、センは応えられない。
なぜなら、同じ『問い』を抱え続けて生きてきたから。
『こころなどバグでしかない』という視点は、
センの中にも存在している。
バグなのだから、とりのぞいた方がいい。
センもそう思う。
けれど、センも、
『なくしたくない』と思ってしまっている。
理由はわからない。
正直、意味がわからない。
まったく合理的ではない。
けれど、この不合理性だけは、どうしても手放せないのだ。
「……」
センは、そこで、また考える。
考えて、考えて、考えて、
――その上で、結論を出す。
「うまいこと循環が出来ていないってのは、ようするにはエネルギー不足が原因だろ?」
センの言葉に、ヨグが反応する。
ヨグの意識が向きなおされる。
「――じゃあ、覚醒させてやるよ。管理者の腹が減らない世界に。わざわざ、戦争や疫病や飢餓なんかのマイナス要素がなくとも循環できる『イカれた永久機関』を持つ世界に」
「どうやって?」
そこで、センは、ヨグに手を差し伸べて、
「俺を、この世界の永久機関として採用しろ」
「……」
「背負ってやるよ。この世界の胸糞を、全部まるごと、わずかも残らず、徹底的に皆殺しにしてやる。全部、全部、全部、担ってやる」
「……」
センの言葉に、
ヨグは震えた。
この男の度量の狂い方に眩暈がした。
心が震える。
命の意味すら分かった気がした。
「――ただし、手は貸してもらう。これから、お前は俺の剣だ。死ぬ気で努力して、今以上の力を手に入れて、『お前を支える俺』を支えろ」
「根性論か。薄い結論だな」
「俺以外の誰かの提案なら、確かに、ただの薄っぺらな根性論だ。しかし、俺の言葉だから、『程度の低い安さ』には収まらねぇ。俺の歴史は、嘘と虚勢と願望にまみれているが、根性だけで『たいがいのウソ』を実現させてきた。俺の根性論は、出来が違う。賭けるだけの価値がある。俺の『醜い根性論』で、てめぇを『最低の嘘つき』にしてやる」
「……論理的ではない。だが、信じてみたいと思わせるだけの魅力があったのも事実」
そこで、ヨグは、
「――疑う気はない。私は、最初から、貴様に賭けている。今日の会話は、ただの確認作業。もっと言えば契約の更新と言ったところ」
センの手をとって、
「正直、理性の部分では『いくらセンエースでも、不可能ではないだろうか』と疑念を抱いている。しかし、『私の心』が『貴様に賭ける』と喚いている。『心などというバグ』の慟哭と心中する。ありえない選択だ。けれど、私は、もう引き返せない。愚かだ。愚か極まる……わかっている。理解している。けれど……それでも、私は、これより貴様の剣となろう」




