91話 17ミリ分の恩を返すぞ、ヨグ。
91話 17ミリ分の恩を返すぞ、ヨグ。
「……ぐ……ぅう……」
自分ではセンエースには勝てない。
そんなことは分かっている。
だから、
「――センエースエンジン……インストール……」
ヨグは、自分の中にセンエースエンジンを刻み込む。
この行為が『完全に無意味だ』ということは知っている。
だから、これは、勝つための手段ではない。
『折れることを許さない呪い』に穢れる。
――これは、最後の覚悟。
意地に限りなく近い覚悟。
最後に残ったプライドのカケラをよせあつめた。
それだけの話。
ヨグは、崩れ落ちた膝をたてなおす。
ゆっくりと立ち上がって、
センエースをにらみつける。
「……最後だ……せめて、私の全部を、正面から、受け止めてくれ」
「お前の願いを聞かなきゃいけない理由も義理もない……」
そう言いながらも、センは、丁寧に武を構えて、
「けど、まあ……『17ミリ』分の恩だけは返してやるよ」
そう、言ってから、
センは踏み込んだ。
深く、速く、重く。
完璧な一手だった。
見蕩れるほどの清廉な一撃。
すべてが調和したセンエースの拳。
あえて、閃拳でも、龍閃崩拳でもない、
ただの拳で、
センは、ヨグの中心を終わらせた。
驚くほどあっけない最後だった。
自分の中心に風穴をあけられたことに気づいたヨグは、
「……はは……」
いちど、かわいた声で自嘲してから、
「貴様は、強くなりすぎだ……いい加減にしろ」
一度、ファントムトークで文句を口にしてから、
スゥっと、世界に溶けていく。
『粒子状になって、パラパラと世界に溶けていく様』は、
身震いするほど美しく幻想的で、
センの心の中に、その風景は、静かに、だが力強く刻まれていく。
数秒の後、
そこには、おぼろげな影だけが残った。
ヨグのシャドー。
センが、セレナーデで、『永きを共にした影』の中枢。
そんなヨグシャドーの目を、
センは、じっと見つめて、
「嘘つきにはなれたか?」
そんなファントムトークを投げかける。
ヨグシャドーは、
一瞬だけ考えてから、
「……『私が世界を喰らう』という最悪だけは阻止してくれたが……それだけでは、まだ嘘つきにはなりえない」
「へぇ、そうなんだ」
「世界の終焉は止められない。センエース、お前でも、この絶望だけは超えられない」
その言葉を受けて、センは、周囲をみわたす。
ザっとみわたしてから、
「……うすうす、感じてはいたよ。あんたの破壊衝動とやらが絶死を積んだ時から……この世界の崩壊が始まっている……あんたが『この世界を支えていた』という言葉の意味がよく理解できた……あんたは、この世界の心臓。なくなれば、世界は、当然、死ぬ……まあ、あんた(心臓)がいたところで、もう、血が足りないっぽいから、どっちみち世界は死んでいただろうが」
「ああ、そうだ、センエース。お前の理解に修正点はない。私はずっと、この世界を支えるために、力を尽くしてきた……けど、もう無理だ……あまりにも、腹が空きすぎた……」
無からエネルギーは生まれない。
使えば枯渇する。




