80話 過保護の大合唱。
80話 過保護の大合唱。
『センを愛している』というゼノリカの本能の前で、
センの『ワケわかんねぇ孤高主義』など、クソほどの価値もない。
そんな『ゼノリカの覚悟』を前にして、
さすがのセンも折れざるをえなかった。
この場にいる誰もが、
ギラギラとした目でセンを見ていた。
『絶対に離れてやるものか』という強い独占欲を感じた。
と、同時に、
『戦場で赤子を抱いて守っている母親』のような『異次元の慈愛』も感じた。
ゼノリカは、センに対して、
『大事な親』のように、『愛しい我が子』のように、
『見ているだけで脳がトロけるほどカワイイ初孫』のように、
そんな、無数の感情を、これでもかとぶつけてくる。
――それを見て、センは折れた。
諦観だけが人生さ、
と、頭の中で、誰かが言っていた。
(……なんで、こうなるなかぁ……ああ、うざぃ……重いぃ)
天を仰ぎ、心底からのダルさを嘆いてから、
一・二度の深呼吸を経て、
センは、
彼らと正面から向き合う。
これまでのようなトリッキーな向き合い方ではなく、
本当に、まっすぐに。
「……いろいろと、メンドくせぇなぁ……まあ、でも、自分で決めたことだしなぁ……もう、いいよ、それに関しては。……お前らの王として、最低限の義務を果たしていくよ……」
正直、『最初から無理』だと思っていた。
センは賢くないがバカじゃない。
自分の行動の結果ぐらい、ちゃんと把握できている。
だから、そこに関しては諦めた。
けど、譲れない部分もあって……
「それは、それとして……これから、ちょっと、『時空の門』とやらの奥にいるボスと殺し合ってくるから、留守番よろしく」
その言葉に対して、
ゼノリカの面々は、
全力で猛反対をしてきた。
ゼノリカの心境としては、
まるで『目にいれても痛くない大事な大事な我が子(推定:幼稚園児)』が、
『ヤクザの事務所に殴りこんでくる』と笑顔で言い出したみたいなもの。
だから、当然、止める。
『アホか、お前、いい加減にしろ』とブチギレる。
「まずは我々が斥侯としておもむきます」
「行くのは、安全が確認できてからにしてください」
「というか、行かないでください! そんな危ない場所に!」
「御身をカナリアにするなど冗談ではない」
「自分の価値を正しく理解していただきたい!」
「ほんと、いい加減にしてください」
「あなたより大事なものなんてないのですよ」
「マジで何考えてんだ」
「絶対に一人でなんて行かせないからぁあああああ!」
と、過保護の大合唱をくらうセン。
「いや、お前らをカナリアにする方がありえん。これは命令だ」
と、頑なセンに対し、
ゼノリカは、禁じられた一手を放つ。
「あなた様が死んだら私たちも死ぬのです。それを理解した上で行動していただきたい! 我々は死にたくないのです!」
別に、死ぬのは怖くない。
狂信者である彼・彼女たちは、
もはや、自分の死を一ミリも恐れない。
センのために死ねるのであれば、
それは、むしろ、何よりの喜びである。
――だから、これは、『自分達の命を使った脅し』に過ぎない。
センを守るためなら、ゼノリカは何でもする。
醜さも、恥も、外聞も、ぜんぶかなぐり捨てて、
センのためだけに舞う修羅となる。




