49話 100万のアルテマウムル・シャドー。
49話 100万のアルテマウムル・シャドー。
天下の誰かが、
「いったい……どれだけ……」
と、言葉をもらすと、
『アルテマウムル・シャドー890000号』が言う。
「私たちは、全部で『100万』体以上いる」
「ちなみに私は、アルテマウムル・シャドー890000号。よろしく。ちなみに、私は、1号よりも強い化け物だから、気を抜かないように」
「いや、1号と貴様に差はないだろう」
「くく。『71000号』が言ったように、本当のところ、私と1号に差はない。さっきの言葉はただのハッタリ。ハッタリというか、お茶目なジョークさ。――私は1号と同じ強さを持つ。ここにいる100万体、全員……先ほど、貴様らが、総力をあげて必死になって、ようやく殺してみせた1号と同じ実力を持つ」
そんな、『890000号』の言葉に、
ゼノリカの面々は絶句した。
言葉にならない。
えげつないほど『深みの強い絶望』で一杯になり、
天下の面々の内、比較的メンタルの弱い者数名が、泡を吹いて倒れた。
倒れてしまった彼・彼女らも、
一般人の視点で見れば『神のように達観したメンタル』を持つ超人だが、
さすがに、この濃厚すぎる絶望には耐えられなかった模様。
そこで、『2号』が、
「安心しろ、ゼノリカ。私たちは、全員で闘うつもりはない。先ほどの1号と同じように、貴様らと、一人ずつ闘ってやる。それが私たちに刻まれた、運命のアリア・ギアスだからな」
その言葉を聞いて、
さすがに青い顔をしていたゾメガが、
グっと奥歯をかみしめて、
「……一体ずつしか戦えない……それは事実かのう?」
「事実だが、確認する意味あるか? 私が『嘘をつかない』という保証などないだろう?」
「……その通りじゃ……しかし、聞かずにはいられんかった。余の弱さが露呈した。それだけの話」
そう言いながら、
ゾメガは、今一度、魔力を全身に込める。
「この失神必至の絶望を前にして、さすがに何人か気絶してしまったようじゃが……まだ、闘える者は大勢いる」
そこで、ゾメガは、配下の者たちに視線を向けて、
「……ゼノリカに属する者ども、聞け」
まっすぐな視線を送り、
「これが絶望。本物の絶望。どうじゃ、死にたいじゃろう? いっそ、気絶してしまいたいじゃろう? すべてを投げ出して、楽になりたいじゃろう? 下手に『強い心』をもって生まれてきてしまったことを、今、後悔しておるじゃろう?」
ゾメガの言葉を、
配下の者たちは、真剣な顔で聞いている。
「コレに匹敵する絶望は、これまでにも何度かあった。少なくとも三回。聖典を読んだことがあるものなら、分かるじゃろう?」
ゼノリカに所属している者の中で、聖典を読んでいない者は存在しない。
というか、第二~第九アルファに生きる者の中に、聖典を読んだことがない者は本当に少ない。
――けれど、聖典に書かれている地獄を正しく理解できている者は少ない。
「コレを全部、おひとりで背負ってくれたのが、センエース神帝陛下じゃ」
今なら伝えられると思った。
伝えるなら今しかないと思った。




