40話 どんな絶望を前にしても、決してあきらめず、人類の希望で在り続ける。
40話 どんな絶望を前にしても、決してあきらめず、人類の希望で在り続ける。
「こういう、ゴリゴリの鉄火場で、センエースがどう考えるか教えてやろう。私を殺すこと。ただ、それだけ。もちろん、頭の片隅では、色々な些事があれこれ渦を巻くこともなくはないだろうが、中心の中核では、完全没頭に届いている。すべてを賭して、どうすれば、私を殺せるかという、ただそれだけに没頭する修羅となる」
センエースの異常性を、丁寧に並べていくウムル。
「センエース以外の者は、なかなかそれができない。自分よりも『はるかに強い化け物』を前にした時、『ソレを殺すために没頭できる者』は少ない。恐怖や不安や疑念や劣等感、そういう思考の贅肉にからめとられて、動きが鈍くなる。それが命の持つ弱さ」
シッカリと『芯のある前提』を並べてから、
「ゾメガ・オルゴレアム。今の貴様は贅肉でダルンダルンだ。重たい体を引きずりながら私の前に立つ資格などない」
結論をのべると、
ウムルは、全身の気血を沸騰させて、
「――龍閃崩拳――」
すでにズタボロのゾメガに、
会心の一撃を叩き込もうとした。
……死を目前にしたゾメガの視界に、
カンツが飛び込んできた。
ゾメガをかばうようにして、
ウムルの龍閃崩拳を、背中で受け止めた。
「だっがぁああああああああっっ!!」
爆発するように血を噴射するカンツ。
――たまに誤解されることだが、
カンツは『痛みに強い』というわけではない。
ギャグ漫画補正のおかげで、
どんなダメージも、次のシーンでは治っている。
そして、どんな時でも豪快に笑っている。
この二つの前提があるので、カンツのことを、
『苦痛や苦悩から解き放たれた超越者』として認識している者がたまにいる。
だが、実際のところは、
「がはっ……うぐぅう……」
同じ人間である。
魔法をつかって表層の痛みをシャットアウトすることは難しくないが、
中心をぶっ壊されてしまえば、あとはどこにでもいる普通のオッサン。
極限の痛みを前にすれば、普通に涙の一つも流れる。
苦悩と苦痛とストレスでパンパンになった心から、無数の感情があふれ出る。
「うぅ……ぐぅ……」
けど、それでも、
「うぅう……っっ」
カンツは立ち上がる。
そして、ゾメガの盾を続行する。
その背中に、
ゾメガは、センエースを感じ取った。
「すまない……カンツ……助かった」
心からの言葉を贈ると、カンツは、
「盾しか……できませんゆえ……アレを殺すのは……任せます……」
ズタボロのまま、
けれど、バッチバチに血走った眼で、
ウムルをにらみつけている。
カンツは、センエースを信じていなかった。
『会ったことがない(当人の意識的には)』ので、
センエースという人間性を愛したことはなかった。
だが、センエースという概念だけは、
ずっと、ずっと、ずっと、
胸にかき抱いて生きてきた。
『どんな絶望を前にしても、決してあきらめず、人類の希望で在り続ける』という気概。
それが、カンツの器。
焦がれ続けてきた柱。
――だから、立てる。
だから、
「がはははははは! 今のは見事な一撃だったぞ、ウムルなんとか! あと、100発ほどくらったら、さすがのワシでも死にかけるかもしれんなぁ! がははははははは!」
笑える。
何一つ面白いことなどないが、
カンツは腹の底から大声で笑う。




