19話 ヒーローは、ここにもいる。
19話 ヒーローは、ここにもいる。
「ふはははははっ! 理解できたか?! 止められないんだよ、私という絶望は!」
高笑いを決め込んでいくウムル。
絶望が蔓延していく。
『あの不死身超人カンツ猊下ですら、相手にならないのか……』と、
百済の面々も、楽連の面々も、みな、真っ青な顔になっている。
カンツの無敵超人ぶりは、ゼノリカの中でも特に有名。
超長強として現場に出ることも少なくないカンツは、
『圧倒的に強いこと』が、広く、正確に認知されている。
とにかく無敵で、とにかく最強。
負けるところなど想像もできない。
次元の違う圧倒的強者っぷり。
おそらく、ガチンコで殺し合えば、ジャミや五聖の方々だって勝てないだろう。
……というか、下手したら、三至の方々にも勝ってしまうかもしれない。
そう思わせるだけのカリスマがカンツにはあった。
ほかの九華は、なかなか『表にでる機会』がないので、
その強さを『正しく理解する機会』がないが、
現場至上主義者のカンツの活躍は、
天下の面々も目にする機会が少なくはない(もちろん、めちゃくちゃ多いというわけではないが)。
――だからこそ、
目の前の現実が信じられなかった。
というより『信じたくなかった』と言った方が正確。
『ゼノリカが誇る最高峰の剣』が折れるところなど、誰も見たくない。
だから、目を伏せる者も多くいた。
カンツの敗北だけは受け入れがたい。
……と、そんな風に、暗澹とした空気で濁った世界に、
「がはははははははっ!」
豪快な笑い声が響き渡った。
この世の全ての憂鬱をねじ伏せるような、
『腹の芯の奥』にまで響く笑い声。
「認めよう、ウムル! 今まで、相対してきた敵の中で、貴様は最強だ!」
ゴキゴキと首の関節を鳴らしながら、
「まあ、しかし、だからと言って、ワシが負ける理由にはならんがな!」
不敵な笑みを浮かべ、
堂々と前を向き、
「――ヒーロー見参!」
覚悟を叫ぶ。
『王者の風格』を魅せつけていくカンツ。
その背中に、天下の面々は沸き上がった。
あまりにも頼もしいその背中に奮い立つ。
体の奥から力が湧いてきた。
同胞の死体が積まれて山になっているこの地獄で、
敵を攻略するヒントのカケラも見つかっていない現状で、
それでも、彼・彼女らは、
まっすぐに前を向くことができた。
カンツの叫びには、それだけの力があった。
――そこで、ウムルは、カンツの目を見て、
「センエースを信じていないくせに、センエースのモノマネをするとは、これいかに」
と、嫌味な疑問を投げつけてきた。
ウムルの問いに、カンツは、一貫して堂々と、
「センエースは必要だからさ!」
「……センエースなど、概念の擬人化にすぎないのでは?」
「だから、その概念が必要だと言っている! 『センエースという架空のキャラクターを盲目に崇拝するだけの行為』は単なる現実逃避。栄えあるゼノリカに属する者がとるべき行動として不適切! が、しかし、センエースという概念の中核――『絶望の底で勇気を叫び続ける覚悟』は、栄えあるゼノリカに属する者として、絶対に備えておかなければいけない根本の基盤!」




