10話 桜華室。
10話 桜華室。
「ロコの相手をする必要がなくなって……ゲン・フォースも……もういないのと同じってことかなぁ? じゃあ、もう、本格的に、やることがなくなっちゃったなぁ……」
ぶつぶつと、
寂しく独り言を口にする。
「けっこう、楽しかったんだけどなぁ……」
ここ一年のことを思いながら、ボソっとそうつぶやくヤマト。
一度、深呼吸をしてから、
「ゴキに戻ろっかなぁ……んー……」
そこで、チラっと、ロコの方に視線を向けるヤマト。
数秒だけ考えてから、
「……んー……ま、もう少しだけ、ここにいようかな……まだ、ゲンが戻ってこないとも限らないしねぇ……」
★
――ここは、桜華堂。
『ゼノリカに所属する者の中でも上位17名』しか足を踏み入れる事が出来ない創玄神層。
通称『神聖域』の最奥。
その中殿に位置する『主の間』。
十七の柱に支えられた広間。
無数に並ぶ軍配形の窓から注がれる柔らかな朱色の太陽光。
夕暮れの輝きで満たされた幻想的な空間。
その荘厳な広間のど真ん中にある『十七人用の円卓』に、
『老人』と『オッサン(平熱マン)』が腰かけていた。
「……ダメですね。やはりつながりません」
通信の魔法を使い、センエースとコンタクトを取ろうとしている平熱マン。
しかし、現在、センとのつながりは断たれていた。
「超緊急事態です。ゾメガさん、今すぐに、『全員』を召集してください」
「その必要はないと考える。師が『この程度の世界』で後れを取るとは考え辛い」
ゾメガは、冷静に、
「もちろん、何が起こったのかを調べる必要はありそうじゃから、捜索隊を組むというのは賛成じゃ。すでに、天下の面々を何名か集めておる。『この世界の支配』と同時進行で、師の痕跡を――」
「あまりに、手ヌルい! 師を信頼するのは配下として大変結構ですが、しかし、万が一に備えて万全をしくのも、配下としての役目の一つであると考えます!」
「仮に、今、師に、『万が一』が起こっていたとして……余たちに何ができるという? 足手まといになるだけであろう。特異な次元ロックにより連絡網が断たれている可能性を危惧して、通信兵を走らせる――という程度に考えているのならまだしも、まさか、ぬしは、『師がてこずるほどの敵』が出た可能性を考慮しておるのか? ……バカか? もし、そんな敵がいたとしたら、ゼノリカの面々を出したところで『鼻息で皆殺しにされて終わり』じゃろう」
「皆殺しの憂き目にあおうとも、肉壁として、少しでも師の負担を減らす! それが配下としての役目! ゾメガ・オルゴレアム! まさか、貴様、師の肉壁になることに……自分の死ごときに、おそれをなしているのか?!」
空気がピリついた。
平熱マンは、基本的に、常時冷静な男。
滅多に『尖った感情』を表に出すことはない。
しかし、今の平は、バチバチの『ガン切れ顔』をさらしていた。
そんな平に対し、ゾメガは、
「……おそれおおくも、師は、ゼノリカを愛してくださっている――」
平の熱量に呼応するように、
顔面圧のギアを上げていく。
ビリビリと、空気が震える。




