７７話 倍プッシュだ。
７７話 倍プッシュだ。
今のセンの目でもとらえきれなかった速度。
気づいた時には、オメガの拳が、
「うらぁあああああっっ！！」
センの顔面を捉えていた。
重たい一撃を受けて、センの顔面がへしゃげる。
豪快に吹っ飛ばされて、
その先でも、追撃をいただく。
オメガの動きは極限までキレッキレで、
センエースの全てを超越している。
そのムーブに対し、センは、
「……本当に……凄いよ……お前は」
そう言いながら、
オメガの追撃に対して、武を合わせていく。
極限まで磨きこまれた武が交差する。
センエースの怜悧な武を、
オメガは、力技で強引にねじふせていく。
絶死を積んだオメガは、センの一歩先をいっている。
全てが一回り大きい。
だが、何もできないわけではなかった。
圧殺されるのが道理のはずなのに、
センエースは、高次の対応でかわしつづける。
センエースが積み重ねてきたものの重さを実感するオメガ。
「くそ！ くそ！ くそ！ 倒れろよ、センエース！」
何度も、何度も、殴りつけるが、
センエースの目は強い光を放ったまま。
圧倒的な力でボロボロにされていて、
見るも無残な姿になっているのにも関わらず、
しかし、殺気の精度に微塵も変化が見られない。
「なんでだぁああああああああああああ！ お前は……っ……なんでぇええええええええええええええええええええええ！！」
深い絶望を感じたオメガ。
圧倒的に優勢のはずなのに、
『どっちが勝っているのか分からなくなる』という意味不明な現状。
「今の俺は、お前を超えているぞ！ お前を殺せる質量を持っている！ なのに、なんで死なない！ これまでもずっと！ どうして、お前は死なないんだ！」
『疑問に対する答え』を、
センエースも、ずっと探していた。
けど、明確なコレと言える答えは見つからない。
センエースはあまりにも意味不明な存在。
それはセンエースにとっても同じで、
センエースは、常時、あまりにも荒唐無稽がすぎる。
オメガが喉を枯らす勢いで叫ぶ。
「俺ほどの化け物が絶死を積んでいるんだ！ それなのに、なんで、こんなにも！ こんなにも、こっちが絶望を感じないといけない！ おかしいだろぉおおお！」
「そうだな。俺も、そっち側に立っていたら、同じことを想うと思う。俺の気色悪さには、いつだって、俺自身も引いている」
それは、ファントムトークだった。
けれど『場をうやむやにしようとしている』のではない。
本気のファントムトークという、
ちょっと何言っているか分からない特別な概念。
「俺の全部を教えてやるよ」
そう言ってから、
センは、自分の頬に触れてみた。
そこに刻まれているのは混沌のタトゥー。
ニャルのアリア・ギアスが刻まれている証。
「倍プッシュだ。もっと重たく俺を呪え。こいつを殺すには、最低でも、そのぐらいは積む必要がある」
そうつぶやくと、
さすがに我慢できなくなったようで、
センエースの中に刻まれている彼女たちの器が応える。
（――さすがに、それ以上はダメ。そこから先は私たちが背負う――）
