32話 作家ハイ。
本日の2話目です。
32話 作家ハイ。
「今日の夜を乗り越えるためには、ソンキー・ウルギ・アースの情報がいる。なぜかは知らん。だから知りたい。お前が知っとる『ソンキー・ウルギ・アースに関する情報』を教えてくれ。そうやないと、今夜、人類は終わる」
『……』
「ここまでの情報をもっとるワシが、ただのイタ電をかけるわけがないやろ? 悩んどる暇はない。今夜までに、たどり着かなあかんのや」
トウシの言葉には焦燥感が見られた。
黒木は、数秒だけ悩んでから、
『……ソンキーに関する情報なんかあったところで、神話生物をどうにかできるとは思えないのですが……』
普通に、心の底から思ったことを口にした。
彼女からすれば、ソンキー・ウルギ・アースは、
自分が描いた小説の『キャラクター』でしかない。
そんなものの情報があったからといって、
いったい、なんの役に立つというのか。
「判断はこっちでする。とにかく、ソンキー・ウルギ・アースというのがなんなんか、できるだけ、具体的に教えてくれ。細かいところを省かずに、とにかく、詳細を」
『ぇえ……詳細……いや、でも……』
自分が描いた小説の詳細を、
実際に読んでもらうわけでもなく、
クラスメイトの異性に説明する……
それは、相当になかなかの行為だった。
売れっ子作家であっても、自分の作品について、
『知り合いレベルの人』に説明するのは、
かなりしんどいだろう。
事情を知っていれば、彼女の動揺は当然。
しかし、そんなことは知らないトウシにとって、
彼女の迷いは、極度のイライラポイントでしかない。
「――『世界の終わりがかかっとる』と最初に説明したよな? なにを、グズグズしとんねん。おどれ、世界が終わったら責任とれんのけ? さっさとこたえろ。ソンキーってなんやねん?!」
「で、ですから……そのぉ……」
詰め寄られた結果、黒木は仕方なく、
とつとつと、ソンキーについて説明を開始する。
普通に恥ずかしそうに、
しどろもどろに言葉を選びながらも、
しかし、部分、部分では、しっかりと、
ソンキーのキャラクター性、その魅力や強さについて、
結局のところは、普通に説明する。
『最初の恥ずかしさのヤマ』を越えると、
もはや、奇妙な恥ずかしさなどはなくなって、
作家ハイとでもいうのか、
もっと、もっと、キャラの魅力を伝えたい、
という感情に陥り、
黒木は、ソンキーというキャラクターの魅力について、
あますことなく説明しきることとなった。
最後まで、黙って話を聞いていたトウシは、
黒木の説明に区切りがついたところで、
「……ようするに……ソンキーという概念は、お前が描いた小説のキャラ……それ以上でも、それ以下でもないということやな?」
「ええ。ですから、神話生物との闘いで、何か役に立つとは思えません」
「……まあ、そうやな……確かに、ソンキーの存在が、マジでそれだけのもんやったら、確かに、クソの役にも立たんやろう」
そこで、トウシは、天を仰いで、
(……けど、そんなわけがない……ソンキーの名前は、間違いなく、ロギアネームとして登録されとるんやから)




