92話 ゾーヤの理想を押し付けられて困る一般人。
92話 ゾーヤの理想を押し付けられて困る一般人。
基本的にゾーヤは、他者に対して厳しい。
自分にも厳しいが、他人にはもっと厳しい。
そうやって、世界と向き合ってきた。
――そんな彼女が、今、もっとも厳しく当たっている相手。
それこそが、
「それはともかく、陛下。そのだらしない座り方は改めてください。あと、もっと背筋を伸ばして。顎を引いて。目線はまっすぐに、凛として。表情は、常に気高く。そうではありません。それでは、アホの子のようです。眼力だけで、宇宙の真理を体現してください。違います。もっと、大胆かつ繊細に」
「注文が多い上に、細かくて難しくて理不尽で不条理。量産型汎用一般人の俺に無茶な要求をしてくるんじゃねぇ。つぅか、眼力で宇宙の真理を体現とか、ちょっとイメージすら出来ない極限領域だから、軽く手本を見せてくれねぇ?」
「私ごときには不可能です。命の頂点である陛下にしか出来ないこと。そして、命の頂点である陛下ならば、出来なければいけないこと」
「勝手に、俺の義務を増やさないでくれる? これ以上、俺の人生難易度を上げないでくださいよ。ただでさえ、縛りが多すぎて大変なんだから」
ゾーヤの理想を押し付けられて辟易しているセン。
そんな二人のやりとりを見て、
それまでトコとじゃれていた茶柱が、
普通にムっとした表情で、
「ツミカさんの前で、他の女とイチャイチャするなんて、大したものにゃ。その度胸だけは認めてあげなくもないにゃ」
と、怒りを向けられたセンは、
眉間に、これでもかとシワを寄せて、
「どういう感性をしていたら、今の俺とゾーヤの会話に、イチャイチャという形容詞をたたきつけることができるのか、ガチンコで不思議だから、詳細を説明してくれや」
「他の女と会話しているだけで、浮気にゃ! ツミカさんは深く傷ついたにゃ! 許せないにゃ! 手首を切らせてもらうにゃ!」
「お前のファンキー属性に、メンヘラヤンデレまで追加されたら、さすがにもうお手上げだから、その領域に踏み込むのだけはとどまってくれや、頼むから」
ゾーヤが追加されたことで、
家の中の『姦しさ度数』が、
さらに跳ね上がってしまった。
心底辟易しているセンの周囲では、
鳴りやまない姦しさが、今も、
ごうごうと、鳴り響き続けている。
★
――家の中でのあれこれを、なんだかんだ処理してから。
学校にたどり着いた一行。
校門前で、リムジンから降りた瞬間、
センを見つけた学生たちが、
一斉に、ザワザワしだした。
この学校の生徒は、マイノグーラの一件があったため、
ニュースで『センエースが世界の王である』という事実を知る前から、
センエースのことを、『謎の化け物を撃退したヒーロー』として認知していた。
マイノグーラの一件は、
目撃者が、校内限定であったことと、
300人委員会が、『通例の後処理』に動いたため、
ハッキリと現場を目撃した者も、
『なんかよく分からんけど、漫画みたいなことが起きた』
程度の認識にしか落ち着かなかった。
マイノグーラの魔力壁に閉じ込められ、
センエースに命を救われた中学生たちも、
『結局、なんだか分からなかったけど、あのへんな高校生が、妙な女に勝って、気付けば、助かっていた』
程度の認知が関の山だった。
3周年記念で投稿する予定の新連載のタイトルとあらすじを発表します。
実際のタイトル『平熱マンを待ちながら』
なろうタイトル『史上最強のDQN格ゲー王が、強さそのままに、異世界へと転生したが、自分が最強であることを知らないため、寿司職人見習いとして、毎日、雑用に励んでいます』
『あらすじ』
『佐藤太郎(プレイヤーネーム:平熱マン)』は『虚無』という格闘ゲームに人生をささげている公務員。虚無は、弟子NPCを育てる育成ゲームとしても秀逸な変わった格ゲーで、佐藤は、最強格の実力者でありながら、8体もの強力な弟子を育てていることでも有名な変態ゲーマー。
ある日、虚無の世界大会がオンライン上で行われ、佐藤は、その大会で、見事に優勝を果たす。世界最強の名誉を得た直後、佐藤は異世界で寿司職人見習いとして目覚め、厨房の片隅で、必死に包丁を研いでいた。
同じころ、その異世界で最強の存在である『武王』の居城に、8人の男女が訪れ、最強であるはずの王とその優秀な配下たちを一瞬で制圧してみせた。
「俺たちは最強神の弟子。どこかに旅立たれた師匠が、お戻りになられるまでの間、暇つぶしに、この世界を支配することにした」
――すし職人としての修行の日々が激務すぎて、実は自身が『最強』であることに気づかず、辛い日々をすごす佐藤。
その裏で、弟子たちは、圧倒的な力で世界を蹂躙し、闘神として崇め奉られていく。
弟子たちは言う。
「我らの師は、爆笑しながら赤ん坊(始めたばかりの初心者)をミンチにするなど日常茶飯事。日夜、嬲り殺しの練度を磨き、どうすれば他者に『より多くの苦痛』を与えることができるかと夢想にふける。そんな毎日に幸せを感じる――そういう、究極の邪神だ」
佐藤太郎は「日常的に初心者狩りをしている、クソ煽り厨のスーパーDQNプレイヤー」だった。
あくまでも、ゲームの世界で、ヒールとしてはっちゃけていただけで、実際の佐藤は、ごくごく平凡な公務員。
けれど、「弟子たち」の話をうのみにした、異世界の重鎮たちは、
『究極邪神・平熱マン』を、心底から恐れ、どうにか邪神に対抗しようと、必死の『無駄な抵抗』を開始する。




