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51話 天下の渇望

 51話




 ここにいる誰もが、『天上』に焦がれている。



(チャンスさえあれば……)

(私が上に上がるにふさわしいかどうか、そこは問題ではない)

(今のままではダメなのだ……今のままでは満たされない)


 ここにいる誰もが、

 『現世に生きる大半の者』が欲している『ほとんど』を手に入れている。



 不死(完全ではないし、不老でもないが)や富を筆頭として、それ以外でもほとんど全て、むしろ『何を持っていないか』を数える方が億劫なくらい。


(金では買えぬものがあるのだ。それが真理)

(この心を満たすものは、金では買えぬ)

(本物の地位と名誉……)

(看板ではない。私が望んでいるのは、薄っぺらなブランドなどではない)

(心の隅々まで流れゆく光……)

(真っ白な自由……真の尊さ……)

(欲しい……)

(私も……私も神に……)


 しかし、

 だからこそ、焦がれるのだ。


 多くを手に入れた者ゆえに理解できる価値、

 膨れ上がった尊厳の器を満たしてくれる『本物の耀き』が、

 『天上には在る』と知っているから。


 最後の最後で、満たされ切っていない、この『燻り』。

 それが、『上』に行けば解消される。

 その事実を知らぬ者など、ここには一人もいない。



 ――神族となる――



 垂涎の栄誉。

 神族の末席に名を連ねる――すなわち、神になる。

 それ以上の名誉はない。


 全てを手に入れてきた者達だからこそ願う、至高の報酬。

 おざなりの形式的なソレなどではない、本物の神格化。



 狂おしいほどに、

 身がはちきれんばかりに、

 彼・彼女らは上にいく事を望んでいる。




 ――そのためだったら何でも出来ると全員が思っている。




 しかし、だからといって、他者の足を引っ張ろうとは考えていない。


 それは、彼・彼女らが生まれながらにして高尚だから?

 違う。


 ゼノリカでは、『高尚であり続ける事』が許されるから。

 それこそが事実。


 誰だって、別に、『汚れたい』わけではないのだ。

 本当に、誰だって、そう。

 ――もちろん、異端はいる。

    悪である事にしか美学を感じない異常者は実在する。

     破壊と混沌のみを望むサイコパスの存在を否定する気はない――

 

 美しくいられるのなら、そうありたい。

 だが、『整っていない現世』では、実際、なかなか、そうもいかないのが実情。

 様々な感情や思惑が交差して、人は次第に汚れていく。


 最初は確固たる意志を持って活動家になった者が、

 いつしか、現実に穢されて、最後には錆びた歯車に成り下がる。

 歪んだシステムの一部として、ただただ腐っていく。

 どこにでもある人の弱さ。

 欲に目がくらむだけが腐っていく理由じゃない。

 『単純な現実』という重みにたゆむことでも、心は歪んで穢れていく。


 だが、ゼノリカではそれがない。


 ――ゼノリカは、絶対に、穢れを許さない――


 いつだって、誰かが自分を見ている。

 そして、自分も誰かを睨みつけている。


 不条理や不合理に対する病的な嫌悪。

 『生命は善そのものではない』という現実を受け入れて、

 それでも『善』でありたいと願い続けたゆえに美しく磨かれた結晶。


 ゆえに、思う。

 確信を持って、

 力が足りないのは承知だが、

 ――それでも、




((((((((((私だ。私を選んでくれ。私は美しい))))))))))




 ――十人蒼天は決して仲良し集団ではない。

 むしろ、バチバチの関係である。


 それぞれが世界の頂点。

 表と、武と、闇の、頂にある組織。

 自分の想いやメンツだけの問題ではない。

 背負っているモノのためにも、ナメられる訳にはいかないという責務もある。


 しかし、無意味に罵倒しあう事などはない。

 陰湿な嫌がらせ(軽口は叩くが)や、ガチの足の引っ張り合いなどありえない。

 もし実行しようものなら、即座に上の怒りを買い、百済に粛清命令が下されるだろう。



 ちなみに、百済くだらの中でよこしまな感情を抱こうものなら、『より上に行きたい』と願っている下の者に、嬉々として狩られる。

 百済内での上下関係は、『上からの命令を円滑に通すため』に存在するだけで、誰も、『百済内でのランクで上位にいる者』に忠誠心など抱いていない。

 命令違反は死刑だから、上から命令を受ければ従うが、

 決して『従いたくて従っている訳』ではない。




 ゼノリカは、常に美しい。

 それは、美しくあろうと、全員が、常に努力を積み重ねているから。

 そして、そうであり続ける事が許されるから。

 ゆえに、ゼノリカでは、




「――ライラ。ぬしの世界で、なにやら面白いもめごとが起きたと聞いたんじゃが、詳しく教えてくれんか?」

「なに、半笑いで聞いてきておるんじゃ。別に、大きな失態を犯したというわけではない。ちょいと厄介なモンスターが『壊れ堕ち』て暴れたというだけじゃよ」

「ほうほう、どのくらい『壊れ堕ちた』んじゃ?」

「楽連の武士が数人、撃退された」

「ほっほぉ!」

「存在値だけなら、九華の御方々に匹敵する脅威じゃった。まあ、とはいえ、すぐさま出動なされたバロール猊下の御手によって瞬殺されたんじゃがのう」

「猊下が直接出るほどのモンスターとはなかなかじゃのう」

「管理がずさんなのではないか?」

「魔物が壊れ堕ちるのはただの災害じゃろう! ずさんもクソもあるか! なに、これさいわいと、私にレッテルを張ろうとしておる!」




 ガチの足のひっぱりあいなんて……


 ない……


 ……はず……




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