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15話 初デレ


 第15話。


 アダムは、かつての世界で、63000年という永き時を闘い抜き、頂点に立った。



 当たり前の話だが、決して楽な道のりではなかった。



 吸収は確かにチートスキルだが、無敵の能力ではない。

 自分より強い者に出会った時点でアウト。


 アダムはもがいた。

 必死にもがいた。


 魔王が山ほどいるアルファという、弱者にとっては地獄のような世界で、最下級の魔物として生まれ、それでも、アダムは、頂きに登ったのだ。


 運もあった。

 幸運に助けられた場面は何度もある。

 それは事実。



 だが、それは、自分の力で引き寄せた幸運だ。



 アダムは、一度も神に祈ったことはない。

 助けてくれと祈ったことなど一度もない。


 常に、どうすれば、目の前の困難を討ち砕けるか。

 それのみに腐心し、今日という『己の運命が決まる日』まで、自分の足で歩いてきた。


 ずっと、ずっと、ずっと、自分の力だけで闘ってきた。

 そして、頂点にたったのだ。


 何度も死を乗り越えた。

 積み重ねてきた。






 ――だから、その武は、センに届いたのだ――






 決して一蹴はされない。

 闘える。

 通用する。

 それだけの強さがアダムにはあった。


 無数のグリムアーツを組み合わせた音速のコンボを叩きこむ。

 決して反撃を受けない距離の奪い合い。


 ――AGI(敏捷性)は同じはずなのに、どうして、

      どうして、そうまでも、私を置き去りにした動きができるのですか――




 一度、『本当にコピーなのか?』と疑った。

 自分のステータスに、自分の能力を上乗せしたのではないか?




 疑いはすぐに晴れた。




 ――闘いの中で、見てしまったのだ。


 己が、もっと果てしない研鑽を積んだ果てに、

 目の前で魅せられている領域へと辿りつく姿。



 まだ、闘える。

 腕は一本も折れていない。


 心臓は動いている。


 眼球に異常は見当たらない。

 何も問題はない。


 闘える。

 ここから、三日三晩だって、やろうと思えばできなくはない。



 ――しかし――



(勝てない……何千年闘い続けても……私が、勝つことはありえない。……これは、そんな、つまらない次元じゃない)


 15分経った。



 六万年よりも遥かに濃密な15分を経て、アダムは両膝をついた。



「はぁ……はぁ……」




 ただ、力なくうなだれて、顎から垂れていく汗だけを見つめていた。




「素晴らしいぞ、アダム。お前ほどの戦闘力を持つ者を、俺は、他に5柱しかしらない」


 柱。

 それは、神の数え方。


 アダムはつい、微笑んでしまった。


「私より……『強い』者は……どのくらいいるのですか?」


「さぁ、分からん。数えたことがないからなぁ」


「なるほど……数え切れないほど……ですか……はは……」


「あ、ちなみに、俺より強い神はいないから、安心しろ。戦闘力だけなら同等のヤツが二柱いるが、あれは、色々と例外だ。勘定に入れる必要はない」


「色々と例外な神すら、あなたは超越しているのですか……つまり、まぎれもない全世界の頂点が……ここにいるということ……はは……なんという僥倖……」


 アダムは顔をあげて、センを見つめる。


 その表情は、神であるセンですら、欲情するほど美しかった。

 

 凛とした、大きな瞳。

 頬を伝う汗。

 より輝きを増した髪が肌に張り付いて眼福。

 溺れてしまいそうなほどに薫る、極上のフェロモン。


 キュっと引き締まったパツンパツンのパーフェクトボディが畏怖に震えた。




 ――アダムは、覚悟を決める。




 腹をくくる。


 彼女は思う。

 もしかしたら、自分は壊れてしまうかもしれない。


 しかし、

 それでも!


「もし、よろしければ……わたくしめに、あなた様の高みを、見せていただけませんか?」


 闘いの中で、アダムは理解した。


 戦闘中にいくつか交わした会話、僅かな機微、諸々の所作、一手一手の匙加減、全てが、『コピーの魔法はハンデ』だと物語っていた。


 ただのハンデじゃない。




 『小さな虫を、潰してしまわぬように』

 それと同じくらい、丁寧に慎重に繊細に、神の手は、アダムを包み込んでいた。






 センはアダムのまっすぐな視線を受け止めて、ゆっくりと目を閉じた。




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自作コミカライズ版35話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
6万年の濃密な15分この短い時間の描写から、 アダムの絶望と希望がひしひしと伝わってきました。
気になる点、 「素晴らしいぞ、アダム。お前ほどの戦闘力を持つ者を、俺は、他に5柱しかしらない」 この言い方アース姉弟と仲の良い3人の超神だと思いますが、 他の神界の深層に住む神々は この時のアダムの…
[気になる点] >お前ほどの戦闘力を持つ者を、俺は、他に5柱しかしらない ここは日本語がおかしくないかな 普通はこの言い方だと、 アダムと同等以上に強い存在は5柱しか知らないという意味になると思う …
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