表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/5848

19話 ここではないどこかを望みながら、それでも

 19話



 神の発言を受けて、センは、



「はっ……」



 込み上げてくる興奮を、わずかも隠すことなく、派手に爆発させる。




「ははははははははははははははははは!!」




 大声で笑った。

 全力で笑った。


 魂が壊れそうなくらい、暴力的な喜悦が全身を包み込む。




「んーなの、こっちが支払う対価じゃねぇええ! 最高の御褒美だぁあああああああ!!」




 ――山ほど読んできたネット小説。


 ――そのまんまじゃねぇか。




(マジか! マジか! マジなのか! 本当に、いけるのか?! 異世界に?! 夢にまで見た、異世界転生……ぃや、この場合、転移か? なんでもいい! どうだっていい! このクソみたいな世界じゃない『どこか』――『俺が望む可能性』を持った世界に行けるのなら、目的も手段もどうでもいい!)




 センは歓喜に震えた。


 すでに、目の前にいる存在が、超常の存在だという事は理解できている。

 神かどうかは知らないが、確実に、『まともな存在』ではない。



 この超越した『何か』ならば、『他者を異世界に飛ばすくらい楽勝だ』と確信できる。

 それほどの圧倒的なオーラ。



「それで、セン。どうする?」


 神の問いかけに答えようとしたセンに、蝉原が慌てて、


「センくん! たのむ! かならず、君に報酬を払う! 望むものはすべて払う! 必ずだ! だからぁ!」


「なあ、蝉原。俺の望むものを払うとは言うが……お前、俺を異世界に連れていってくれんの?」


「……ぇ?」


「金も女もいらない……異世界に連れていってくれ。それが俺の望みだ。『新しい可能性』の前に立つ事。このくだらない世界から卒業して、『むき出しの未来』を掴みとるための一歩を踏み出す事……それだけが、今の俺の望みだ」


「……」


「俺はリアリストだ。意味のない夢はみない。しかし、叶うなら、俺は全力で望む。異世界モノの小説を山ほど読んでいる中で、俺はいつも想っていた」






 ――なんで、お前らばっかり。……俺だって、そっちへ――






「英語のテストで負けたとか、高校・大学がどうこうとか……そんなくだらねぇこと、ほんとうはどうだっていいんだ。……俺は、逃げたくなかっただけだ。このクソみたいな世界に生まれて……その中で……『楽しい』とか、『嬉しい』とか……んなもん……」


 そんなもの、好きな小説を読んでいる時以外で感じたことはない。



 たった一つの、リアルな時間。

 ここではない世界に没頭している時間だけが、センにとっての現実だった。



 ――現実逃避だぁ? ふざけんな。そんなんじゃねぇ。

 ――俺は逃げなかった。

 ――だから、『ただ望んでいただけだ』とハッキリ言えるんだ。

 ――確かに田中からは逃げた。だが、それは少し別だろう。

 ――俺はあいつから逃げただけで、人生に背を向けた訳じゃねぇ。

 ――その証拠に、今日だって、英単5000の復習を三回まわした!

 ――隙間時間は、ずっとレコーダーで、世界史の『流れ』を聞いていた。

 ――俺は、自分の人生を、キッチリ受け止めている!

 ――だから、言わせねぇ! 現実逃避だなんて言わせねぇ!




 ――俺は、本当に、ただ、『そっち』へ行きたかったんだ!




 想いが濁流になる。

 心が炸裂して、言葉になるよりも先に、悲鳴になった。



 面白い小説を読んでいる時だけがリアルだった。

 特に大好きだったのは異世界モノ。


 面白い異世界モノに触れている間だけが、センにとっての現実。


 それ以外の時間は、ひたすらガマンしてきただけだ。




 クソみたいな連中と、クソみたいな時間を重ねて、

 『それでも逃げなかった』という証だけを、必死に求めていた。




 『ここではないどこか』を本気で望みながら、

 嘆きながら、苦しみながら、絶望しながら、

 しかし、センは、それでも、







 ――『ここ』――で、必死に戦ってきたんだ。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作コミカライズ版35話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ