113話 俺が聞きたいね、誰よりも。
ゲンに何かがおこるまで、
カウントダウン4
113話 俺が聞きたいね、誰よりも。
「正直、美形ってのを見るとイライラする。どうして、自分はそうじゃないだって感情にさいなまれるから。いや、一番イライラするのは、そういうくだらないことを考える自分自身のしょっぱさか。気分が悪い。気持ち悪い」
「にぃぃぃぃぃぃぃぃいい」
「正直、嫌いだよ。全宮ロコ。お前は、俺をイラつかせるだけ。お前を守る理由が、俺にはなさすぎる」
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃち」
「お前のために死んでやる理由が……俺にはなさすぎる」
「ぜぇーろぉお」
カウントダウンが終了した。
ヤマトは、
ゲンの目を見る。
「10秒、数え終わったんだけどぉ?」
「ああ、知っている。聞いていたからな。後半、こっちに配慮してメチャメチャゆっくりカウントしてくれていたのも、全部、ちゃんとわかっている」
「じゃあ、なぜ、まだそこにいるのかなぁ?」
「……俺がなぜ、ここにいるかって?」
そう言うと、ゲンは、
フンッと、鼻で笑って、
「俺が聞きたいね、誰よりも……」
そう言いながら、
剣を構えた。
その様子を見たヤマトは、
ぽりぽりと頭をかいて、
「私は、自分がイカれた人間だと自負しているんだよねぇ」
そう前を置いてから、
「私は、私より頭がおかしい人間を、これまでの人生で、ほとんど見たことがなぁい。というより、一人も見たことがなかった……けど」
そう続けて、
「探せば、いるもんだねぇ。私よりもイカれた人間。まあ、別に、探しちゃいなかったんだけどさぁ」
ニコっと微笑んでから、
「全宮ロコを守ろうとするなら殺すぅ。私はそう決めた。だから、逃げなければ本当に殺すよぉ。私は私の美学に対して忠実なんだぁ」
「わかっているよ。別に、情けを期待しているわけじゃない。俺は大してカッコいい男じゃないが、しかし、さすがに、そこまではダサくない」
「では、なぜ、私に立ち向かうのかなぁ? 絶対に勝てないのは、すでに、シッカリと分かっているはずなのにぃ」
「だから、その理由は俺が聞きたいと言っている。何度も同じことを言わせるなよ。言葉を理解する能力が死んでんのか?」
「……不思議な人間だねぇ」
ゲンを観察しながら、しみじみとそう言ってから、
「じゃあ、そうだなぁ……君の『その気持ち』が変わるかどうかを見てみようかぁ」
そう言うと、
ヤマトは、一気にゲンとの距離をつめて、
ゲンの腹部に拳をつきつけた。
「がっはぁ!」
「死ぬよぉ。ほんとにぃ」
言いながら、ヤマトは二度目の拳をたたきつける。
「ぐふぅ!」
「これは、根性比べのゲームじゃないからねぇ。このままなら、私は君を確実に殺すよぉ」
何度も、何度も、ヤマトは、ゲンを殴りつける。
「がはぁ! あぁあ!」
「命を捨てるのは感心できないねぇ。命を大事にしているからって感心するわけじゃないけどさぁ」
そう言いながら、さらに何度か殴りつけ、
ゲンがズタズタになったところで、
「正直な話をしようかぁ……私は『最初の美学』を曲げたくないんだよぉ。全宮ロコ以外は殺したくないんだぁ……けど、このままだと、君を殺さないといけなくなるよねぇ。私の気まぐれに、私の美学が犯される……イヤなんだよぇ、それは……」




