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57話 終焉

 57話



 桜をいいなと思い始めたのは、実年齢が80を超えてからだった。


 ガキの頃は、桜なんて気にした事もなかった。


 何に惹かれたのか、実は、今でもよくわかっていない。


 もしかしたら、単なる懐郷病かもしれない。


 もしかしたら、純粋に、その儚さに憧れたのかもしれない。


 もしかしたら……


 うん。理由は分からない。


 ただ――






 ★







 1000人のセンに、サイケルは囲まれていた。

 ※ (神の数え方は、『人』でも『柱』でもいいって事にしていただきたく)



 サイケルを囲んでいる1000人のセンは、全員、サイケルに冷たい視線を送っている。




(影分身? オーラドール? ……違う……これは、なんだ?)




 サイケルは、目線を何度も往復させて、1000人のセン、その一人一人を睨みつける。




 困惑しているサイケルに、センは言う。




「……裏閃流、秘奥義『閃舞千本桜』。80秒しか同調できない、俺の異次元同一体。ようするに、ぜんぶ俺だ。人形でも分身でもない。まぎれもない俺自身」




「ま、まさか……」


 虚偽だとは言えなかった。

 感じてしまったから。


 一人一人が、確かな威圧感を放っている。


 彼らは、一人一人が、まぎれもなく、舞い散る閃光。




「……く、狂っている……」




「そうでもないさ。同調するだけなら、さほど難しくない。お前も使えると思うぜ。つぅか、究極超神で、この程度の技が使えないヤツは一人もいない」


 時空系と次元系の魔法を組み合わせる応用技。

 簡単ではないが、神であれば出来ない技ではない。


「ただ、混線する無意識を統一するのに、俺は250年かかった。知り合いの一人は、万年単位で修行していながら、いまだに700体の制御しか出来ていない。……さて、お前は『お前』を何体制御できるかな」



「……」



「やらないのか? もしかして、やり方がわからないか? はっ、だろうな。なんだってそうさ。『可能性がある』と『出来る』は概念レベルで全く違う。……もちろん、やり方を教えてやったりはしねぇぞ? 当たり前だろ? 俺は神の号を名乗った。つまり、『ここから先の俺』は明確な『お前の敵』だ。塩の一粒たりとも、おくりはしない」



「……てき……きさまが……私の……てき?」



 改めて認識すると、脳味噌に穴が開いたような気分になった。

 スゥウっと背筋が凍る。



 センは、サイケルの覚悟が固まるのを待ったりしない。

 問答無用で、



「さあ、行くぞ。全力で……心をこめて……」



 全てのセンが、一斉に、両手で印を組む。




「「「「「「「「――【センの創世日記】――」」」」」」」」」




 ――次の瞬間、サイケルは、違う世界にいた――




 荒野と草原と海が混ざっている砂漠。

 上を見れば、青空とオーロラ。

 そのさらに上には、敷き詰められた満天の星。


 朝で、昼で、夜だった。


 乱反射している鏡の虹と、クルクル踊っている流星。


「ぁ??!!!」


 狂った世界だった。


 ただ広大で、何もないのに、全てが詰め込まれていると、暴力的に理解させてくる、イカれた時空。


(世界を創ったのか……神ならばおかしくはない。おそらく、私だって、その気になれば可能……それはいい、それはいいのだ……が……これはどういう世界だ?)


 いくつもの世界が無秩序にばらまかれているようで、しかし、どこか不思議に調和している。

 存在しているだけで、脳がバグりそうな世界。






「ここは、牢獄。無数の世界で出来た檻」






「……センエース! 私の前に立つ神よ! どこだ? どこにいる?!」






「86000のアルファ。――大きさと密度だけならば、現存する『世界全て』をも上回る多元領域」


 センが創造した『虚無界』の広大さは異常。

 規模だけならば、『現実世界』を超えている。

 あくまでも、規模だけに限定した話ではあるが、しかし、間違いなく、この『サイケルを閉じ込めるためだけに創られた世界』の方が、実在する全宇宙よりも大きいのだ。






「その全てを超速圧縮させて、お前を潰す」






 その発言を聞いて、サイケルは、クラっとした。

 センが口にした内容の『途方も無さ』に、ただただ言葉を失った。


 センは、続けて言う。


「終わらない恐怖を教えてやるよ。俺が散々味わってきた絶望を知るがいい」


 声が終わると、

 1000人のセンが合唱。



「「「「「「「――【弧虚炉こころ 天螺あまら 終焉加速】――」」」」」」」



 次元震が起きた。

 強制的なビッグクランチ(超大収縮)。

 その連鎖。




「ぁ――」




 サイケルを包んでいた86000の断層世界が、一瞬で、一対の素粒子にまで圧縮された。

 最初の0と1。


 そこからさらに小さくなっていく。

 破れて、重なって、崩れて、もっと、もっと奥へ。

 終わりなく無に近づいていく。


 生じたのは、サイケルが望んでいた、全てが一になる瞬間を包む、極小の泡。


 悲鳴をあげるまでもなく崩壊してしまったサイケルの肉体。


 圧縮されたコスモスの深部で、数え切れないほどの再生を繰り返すサイケルの魂魄。


 オメガ無矛盾を殺す、有機的なカオス。

 何も書かれていないラクガキという秩序。

 注視すれば前衛芸術、俯瞰図ではただの二次関数グラフ。


 ――やがて、肉体の再生が追いつかなくなり、






 // ……あれは……コスモゾーンか…… //






 サイケルの『一時的に得た、本物の多角性を有する無意識』が、終着点を垣間見た。


 神の視点。

 形而上の観測。


 死が収束する無次元の特異点。

 タイプ8の価値観。


 『ここではないどこか』しかない世界で、永遠に踊り続ける。


 無限の死を感じた。

 とてつもない恐怖が込みあがってくる。


 輪郭が円よりも丸くなっていく。


 直線が実現する。


 一秒が膨張していく。















 億倍速で見る興奮時の脳波みたいに、死と再生が超短期の間で幾度となく繰り返される、そんな無間地獄の途中で、





 サイケルは、『神域に至った無意識』を狩られたのを感じた。



 //まだ――殺す気か――もう――やめて――//



 センは、止まらない。


 まだ、神の一手は終わっていない。


 サイケルの精神体を抽象化させて、

 また、全員で合唱。




「「「「「「――『余威よいからすと虚数殺し』――」」」」」」




 グリムアーツを放った。


 一見、ただの、くうを握るアイアンクロー。


 千人のセンが、それぞれ、何もない場所を掴んだだけ。


 だが、



 //……今、どれだけの私が死んだ……というより……私の何が死んだ……//



 果てない暗闇。

 宵の銃牙がうたう弾奏。

 『凍える朝焼け』だけが繰り返されては霧散する。



 ゼロの奥底に閉じ込められて、終わらない死をつきつけられる。



 限りなく永遠に近い一瞬が、


 幾度となく、何度となく、ただただ、延々に、


 ――繰り返される。




 //オオオオオオオオオオオオ//




 続く、続く、つづく、地獄。


 廻って、廻って、廻って、


 だけれど、まだ、それなのに、どうして、続く、




  無限を彷彿させる地獄の中で、



 // ……アイサレ…… //


 // ……タカッタノ…… //



 深部の底で、ほんのわずかに、すくいあげられた心。

 全部とっぱらった奥に残った、一番純粋な気持ち。


 すべてを一つにすれば、もしかして……なんて、そんなクダラナ――




 ――ふいに、






 サァアアアアア……






 っと、暗闇が晴れた。


 風景を取り戻す。

 滅んだ無人都市。



 ――風が吹いていたんだ。






「ぁ……ぁあ……」






 気付いた時には、ほとんどが灰と化した真っ白なサイケルが、無人都市の道路で横たわっていた。






 蘇生が追いつかず、末端から崩れていく。


 再生と破壊が、サイケルの中を何度も何度もループする。






「――ころし……て……」






 全ては、たった8秒の出来ごとだった。

 が、センによって、強制的に心的時間を引き延ばされていたため、サイケルが体感した地獄の尺度は20億年を超えていた(カウントされた数字ではないため、正式に断言する事はできないが、サイケルに聞いた時、『このくらいだった』と答える数字の範囲が20億年オーバー)。



「……私に……死を……どうか……」



 潰れた声で、そう懇願するサイケルの耳元で、

 サイケルの事などガン無視して、センは、




「アダム」




 その奥にいるアダムに声をかける。


「お前は今まで頑張ってきた。今も頑張っているのは知っている。全て理解した上で、これから俺は、お前に命じる」



 どこまでも厳しい命令。


 センは言う。


「もともと買ってはいたが、今回の件で、俺はお前を完全に認めた。俺はお前が、お前で在り続ける事を望む。だから、俺のために」







 ――まだ、頑張れ――







 ビシィ……


 と、何かがヒビ割れる音がした。


 サイケルの外殻が割れた音。


 ヒビはビシビシと広がっていって、ついには、そのカラを砕く。



 奥から――






「……おおせの……ままに」






 全身ズクズクで、原形をとどめていない、デカいアメーバが這い出してきた。


 センは、その不定形の塊を、






「よく頑張った。偉いぞ」






 やさしく抱きしめて、そう言った。


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自作コミカライズ版35話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
[一言] まあこの結果は当然ではありますね 赤ん坊にプロの格闘家の肉体を与えたとしてもプロの格闘家に赤ん坊が勝てるはずがないんですから
[気になる点] 最初は「お前なんかいらん」 「まあそこまで言うなら置いてやってもいい」と渋々だったのに、 一体ここに来るまでに何があったんだ? 自分の印象としては、 そこまでアダムに対する好感度を爆上…
[一言] この世界を作る能力が進化して生命を管理することができるようになったのが管理者か。世界の管理はカンストまで行っていたセンでも無理だったしよっぽど大変なんでしょうね。 圧縮され0と1になること…
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