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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
冒険者を始めましょう
8/73

助け合いの精神が大切です


「――なんか、弱かったな」


 コボルトとレザードの討伐を終えてソルダルへの帰路を歩きながら、シオンが拍子抜けだといった様子で言った。

 多分これは、あのゴブリンキングの話だろうな。確かにあのゴブリンキングは言われてるほど脅威ではなかったし、それは同意しよう。


「確かにな。少なくとも、難易度Dランクって感じじゃなかった」

「……もしかしてさあ」

「やめろ。そういうのはフラグになるんだ」


 シオンは多分、『もしかしてあのゴブリンキング以上の存在がいたんじゃないか?』って言いたいんだと思う。

 オレだって考えなかったわけじゃない。

 だが、それはあのゴブリンキングがほぼ無抵抗のまま斃された事とは関係がないはずだ。

 じゃあ何故無抵抗だったのか、という話ではあるが、個人的には、あれはキングに成り立ての個体だったのではないかと思う。

 ひとくちに魔物と言っても、サイズのデカい奴、小さい奴、卑怯な奴、正々堂々としてる奴、武器の扱いが上手い奴、下手な奴、戦うのが好きな奴、嫌いな奴と様々だ。

 ゴブリンは知能が低いゆえに、冒険者を見るとまず襲ってくるのだが、そうして戦いを重ねる中で実力を伸ばした奴が上位種やキングになるのだと図鑑には書いてあった。

 まあ、鵜呑みにするわけじゃないが、そういう研究結果は確かにあるんだろう。

 さて、そうすればこうは考えられないだろうか。

 つまり、『件のゴブリンキングはキングに成り立てで、目の前で殲滅されていく仲間達を見て動けなかったのだ』と。

 希望的観測であるのは言うに及ばずだが、可能性の1つとしてあり得ないわけではないと思う。


「あー、なるほどなー」

「ま、飽くまで予想だけどな」

「でも、仮にそうだとしたら、あのゴブリンキングはある日急に身体がデカくなったんだな」

「そういやそうか。……ちょっと、なんか、可哀想だな」

「……なんで?」

「いや、ほら、仲間の中で自分だけ身体のサイズが変わるんだぞ? 仲間と違うからって虐められてたらどうよ」

「どんな風に?」

「えー……『うわ、キングになった奴だ。身体がデカいからって威張りやがって。無視しようぜ!』『そうだな!』『大体あいつ、普段から威張ってて嫌いだったんだよな』『そうそう。大した事ないくせにな』……とか?」

「なんでそんなに現実味があるんだよ」

「想像だけどな」


 まあ、日本じゃもっと非道いイジメばっかりだったしな。

 もし本当にあのゴブリンキングが虐められてたら……まあ、自殺しないだけ有情な環境だな。

 それを考えたら、命の安い国日本を離れられたのは、幸運だった。まあ、死んでるんだけど。それも神様のせいで。

 ……あれ? オレ、めちゃくちゃ不幸じゃない? 神様の私怨で殺されたって……つまり神様に見放されたって事じゃない? おやぁ?


「ど、どうした、クロウ? なんか、すごく愉快な顔してるぞ……?」

「――え? いや、なんでもないぞ。……うん、なんでもない。気にするな」

「そ、そうか? なんかツラい事があったら、相談しろよ。相棒なんだから」

「ああ。その時はよろしくな」


 何か勘違いされてる気がしないでもないが、まあ、いいか。問題ないだろ。


「帰ったら……どうする?」

「どうするって、まずはギルドに報告して――」

「じゃなくて。普通に帰っても《黄昏の水面亭》の晩御飯には早いだろ?」

「……まだ稼ぎたいのか?」

「まあ、うん……」

「お前なぁ……今日だけでどれだけ稼げたと思ってんだ。ゴブリンの集落を壊滅させて、コボルトとレザードも5匹以上斃した。採取依頼も、色は付かないだろうけど、文句は言われないはずだ。これ以上は欲張りってもんだろ?」

「いや、そうじゃなくてさ。こう、止むに止まれず? 成り行きで? 仕方なく?」

「……要するに、稼げるような状況に向こうから来て欲しいって事か?」

「そう、それ!」

「……ま、そういうのはオレも望むところだけどな。そんな簡単に――」


 と、そこまで口にしたところで、前方に立ち往生する馬車を見つけた。

 馬車の周囲には冒険者らしき影が、少なくとも3人は見える。もっとも、更にそれを取り囲むように何かの魔物の姿があるのだが。


「喜べ、相棒。稼ぎ時だ」

「いやでも、冒険者いるだろ」

「……シオン。お前もちょっとは魔物の情報を仕入れたりしろよな」


 馬車と冒険者を取り囲んでいるのは、よく見てみるとソードウルフと呼ばれる魔物だった。

 討伐難易度はDランク。しかし、ゴブリンキングよりも上位の存在だ。

 万力の如き顎の力と、よく研がれた剣のような斬れ味の爪、そして瞬発力と速力の高い身体能力。ともすれば討伐難易度Cランクに届くと言われている、青灰色の毛の狼……の魔物だ。


「稼ぎ時なのは確かだが、分が悪いな。最悪死ぬぞ」

「最悪じゃなかったら?」

「良くて全治1週間。最悪よりちょっと良くて四肢のどれかを欠損ってところだな」

「……あの護衛連中は大丈夫なのか?」

「……いやぁ」


 申し訳ないが、とても大丈夫には見えない。

 歩くのは止めなかったから状況がより見えてきたが、ソードウルフ6頭に対して護衛の冒険者は4人。

 馬車を見れば大体どれくらいのランクの護衛かがわかるらしいが、オレの眼からすると、とてもじゃないがDランクにも満たない連中だ。良くてEランク、悪くてオレ達と同じFランク。

 なんでさっさと逃げなかったんだ、なんて言いたくなるが、護衛付きの馬車の速度なんて知れたものだ。ソードウルフ達にしてみれば、どうぞ襲ってください、と餌が練り歩いているようなものだろう。


「どうする、クロウ?」

「……本当は避けて通りたいんだがな。この先にソルダルがあるから、どうしようもない。それに、あれが殺られるのを見てるだけってのも、寝覚めが悪い」

「じゃあ、決まりだな」

「仕方ないけどな」

「作戦は?」

「お前とオレを入れたら6人になる。1人1頭が妥当じゃないか? 手が空けば別のところに加勢する。どうだ?」

「よっし、それでいこう」

「よし。――お前達、加勢するぞ!」


 走りながら抜刀し、馬車護衛の冒険者に声をかける。


「助かる!」


 リーダーらしき男がこちらをちらりと見て、そう答えてくれた。

 護衛連中は、剣と盾のリーダー然とした男に、弓士のエルフの女、魔法使いっぽいローブと杖の男に、盗賊らしき短剣持ちの男の4人構成だった。

 うーん……これはキツいな。前衛が1人しかいないのが何よりキツい。後衛を2人抱えるなら、せめてそれプラス1人の数は前衛が欲しいところだ。

 盗賊は、まあ、期待出来ないってわけじゃない。だが、今回は相手が悪かった。ソードウルフ1頭に対して裏をかこうとすれば、別のソードウルフに間違いなくやられる。


「クソ……! シオン、やれそうか!?」

「前衛がもう1人欲しい!」


 だよなぁ……。

 ああクソッ、ちくしょうめ。こうなったら、やれるだけやるしかない。

 足りない戦力は頭を使って切り抜けるんだ。


「そこの弓士と魔法使い! 矢と魔力は残ってるのか!」

「問題ないわ!」

「こちらもだ!」

「盗賊のあんた、投擲出来るようなもんは持ってるか!」

「投げナイフがある!」

「……了解した! 後ろから攻撃出来る3人には援護を頼む! リーダーっぽいあんたはオレ達と前衛だ、やれるな!?」

「ああ、問題ない!」

「よし! いくぞシオン! 落とした数だけ稼ぎが増えるぞ!」

「よっしゃ! 首落とせ!」


 意気揚々とソードウルフの1頭に躍りかかるシオン。それを見てリーダーらしき男も攻勢に転じ、後衛3人は矢、魔法、投げナイフで牽制をかける。

 オレもオレで斬りかかってみるが、流石に動きが速い。捉えられないほどに速いわけじゃないけど、攻撃を当てるとなると一苦労だ。


「ああもう、なんでオレはこんなとこでこんな苦労してんだよ……!」

「クロウ、だからだろ!」

「ブッ飛ばすぞシオン! 元はと言えば、お前がもっと稼ぎたいとか欲を出したせいだろ!」

「お前だって乗ってきただろ!」

「うるさい! オレは何事もなければそれで満足だったんだ!」

「出会っちまった稼ぎ時は仕方ないだろ!」


 それはまあ、確かにそうだ。

 でも、オレはまだ異世界2日目で、新しい人生も2日目なんだ。こんなところで、狼……の魔物風情に喰い殺されました、なんて笑い話にもなりゃしない。


「ああ……なんかイライラしてきた。クソ狼共め、絶対に赦さんぞ。じわじわと嬲り殺しなんて生温い。一切の理解が及ばないうちに首を狩り殺してくれるわ!」


 疲労は、多分ピークに達している。

 肉体のではなくて、精神の疲労が。

 そうだ、ソードウルフの肉って喰えるのかな? 図鑑にはどう書いてあったっけ? 喰えなかったら……仕方ないし、ギルドに色付けて買い取ってもらおう。

 だから。……そう、だから。


「その首を寄越せ、狼共」


 1頭のソードウルフに狙いを定めて地面を蹴って肉薄する。そのまま上段に構えると、そのソードウルフは横っ飛びに逃げるつもりらしく、身体の右側に重心を移動させたのがわかった。


「――逃がすか!」


 上段から振り下ろすフリをしてソードウルフの回避を誘い、横っ飛びに逃げたそいつの首を目掛けて、今度こそ《鴉》を振り下ろした。

 念のために伸ばした刀身はソードウルフの首に、スッと、まるでプリンに包丁を入れるかのように滑らかに入っていき、それを両断した。

 こういう時、確かに斬ったって感覚が欲しいんだけど、《鴉》の斬れ味が良すぎるせいで、ゴブリンキングを斬った時ほどの感覚がないのが悩みどころだな。


「――グルルルルラァ!」

「――ガルルルルァァ!」


 そして、自分達のうちの1頭が殺られたからか、他のソードウルフが2頭、オレに向かって飛び掛かってきた。

 片方は首を狩れる……が、もう片方は対処が間に合わない。万事休すか……!


「――クロウッ!」

「シオン!」


 あわや大怪我といったところで、横からやってきたシオンが、オレの対処出来なかったソードウルフの首を落とす。


「悪い、助かった」

「イライラするのはわかるけど、突っ込むなよな」

「いやほんと仰る通りで……」


 これは流石に性急過ぎたと反省。

 狼はそもそも群れでの狩りを得意とする生き物だ。おまけに、速さを落とせば持久力を得て、7時間とかそれくらいの時間、獲物を追い立てる。

 それを考えるなら短期決戦こそ望ましいのだが、しかし今回に限ってはもっと慎重になるべきだった。

 いくら『黒天洞』があるとは言っても、咬まれたり爪で斬られたりした衝撃までは軽減出来ないはずだ。まあ、ある程度までなら衝撃を衝撃とも感じないんだろうが、そうなると周りの奴らに別の意味で衝撃を与える事になってしまう。

 よくよく反省しなければ。


「大丈夫か?」

「ああ。心配かけた」

「よし。……見ろ、あの狼共」


 シオンに言われて見てみると、残り3頭となったソードウルフ達は、矢や魔法、投げナイフをそれぞれ避けながら、しかし特に襲い掛かってくる様子もなく、言ってしまえば、襲うべきか襲わざるべきか考えているようだった。


「どう思う?」

「狼ってのは仲間想いな生き物だ。やられた仲間の事を考えて仇を討つべきか、あるいは敵わないと見て逃げるべきか、それを考えてるんじゃないか?」

「……逃がすか?」

「まさか。お前だって逃がすつもりなんかないだろ? ゴブリンキング以上に稼げる相手だし」

「まあな!」

「じゃ、そういうわけで」

「そうだな。稼げるだけ稼ぐ!」


 腹は決まった。

 シオンと並んでソードウルフ達に攻撃を仕掛ける。


「その首、置いていけ!」

「斬り落とす!」


 それぞれ武器を上段に構えて突っ込む。

 ソードウルフ達は迎撃するべきか逃げるべきか一瞬考え、しかしその一瞬が明暗を分けた。

 刃を下に向けてソードウルフの頭を目掛けて突き下ろした《鴉》は、動きの止まったソードウルフを確実に貫き、地面に縫い止めた。

 隣ではシオンも同様に、ショートソードでソードウルフの1頭を縫い止めている。

 さて、最後の1頭は? と思ったが、こちらは一瞬の隙を弓士エルフが見逃さなかったようで、矢によって足を奪われ、剣と投げナイフに身体を刺され、魔法によって風前の灯火と化した命を刈り取られていた。


「よう、お疲れ。なんとかなったみたいだな」


 ソードウルフを斃して一息吐いているリーダーらしき男にそう声をかけると、精神的な疲労の色が濃い顔で、彼はニッと笑って言った。


「お前達のおかげだ。俺達だけじゃ厳しかった」


 厳しかった、か……。


「まあ、そりゃそうだろう。別にケチ付けたいわけじゃないんだが、なんで前衛があんただけなんだ?」

「本当は俺の他にもう1人いるんだ。でも、別のパーティの応援に行っててな。今回の依頼は俺達でも出来そうだったから受けたんだが……まさかソードウルフと鉢合わせになるとは」

「なるほどな」


 まあ、パーティバランスを考えれば、もう1人くらい前衛がいてもおかしくはないか。


「自己紹介する暇もなかったから、今しておこう。俺達はEランクパーティの《灼熱の(あぎと)》。俺は、一応パーティリーダーをしてるグランツだ。そっちのエルフはシェルカ、魔法使いはメルド、盗賊はレクスだ。ここにいないもう1人はラステ」


 グランツの紹介に合わせて、シェルカは手を振って、メルドとレクスは軽く手を挙げて挨拶をしてくれる。


「オレ達はFランクパーティの《黄昏の双刃》。オレはクロウで、そっちの金髪はシオンだ。昨日冒険者登録をしたばっかりの、新米冒険者だ。よろしくな、先輩方」

「おいおい。登録したばかりだと? なんの冗談だよ」

「冗談じゃないさ。ソルダルに帰ったら受付嬢のレインに訊いてみな。《黄昏の双刃》の2人は、いつ冒険者になったんだ……ってな」

「……まさか、本当に?」

「嘘は吐かない。吐いても仕方ないしな」

「ま、まあ、とりあえず信じるとして。外に出てるのは依頼か?」

「ああ、そうだ。ゴブリン、コボルト、レザードの討伐依頼と、メルト草、シェードの花、コルトの実の採取依頼を受けた」

「はぁ!?」

「駆け出しも駆け出しの時に受ける依頼じゃない!」


 流石に驚いたのか、黙っていたシェルカが口を開いた。


「……あら? でも、それにしては何も持ってないわね?」

「まあ、ちょっとな。依頼は達成してるから、あとは帰るだけだったんだが……」

「そこで俺達に出くわしたわけか」

「その通り。まあ、シオンがもっと稼ぎたいって言ってたから、渡りに舟だったよ」

「おー、いい心掛けだな」

「それで? グランツ達は何の依頼なんだ? 商人の護衛とかか?」

「まあ、そんなとこだ。……そうだ。良かったらクロウ達も手伝ってくれないか? 前衛が俺だけだと厳しくてな」

「うーん……」


 正直、引き受けてしまっても良い。

 そもそも、どうせ後はソルダルに帰るだけなんだし、断る理由なんかないんだ。

 ここで《灼熱の顎》に恩を売りながら顔を繋げておくのも、まあ悪くない選択だろう。


「シオン、どうする? 引き受けるか?」

「んー……ソードウルフが結構稼ぎになりそうだし、別に良いぞ」

「そうか……。なあ、グランツ。それを手伝ったら――」

「もちろん、報酬は別に用意する。ソードウルフも持っていってくれていい」

「いや、ソードウルフは半分に分けよう。実のところ、今日はちょっとしたゴタゴタがあって予想以上に稼げてるから、傷のないソードウルフ3頭をそっちに渡そう。で、グランツ達が斃したのを含めて3頭をオレ達が貰う」

「ま、待て待て。それは違うだろ。魔物の所有権は斃した奴にあるんだから」

「だから、オレはオレ達が斃したうちの3頭分の所有権を破棄して、それをグランツ達に移譲した。その代わりに、グランツ達が斃したソードウルフの所有権を寄越せって言ってるんだが。何か間違った事言ってるか?」

「間違ってるだろ! なんで自分が損するような提案をするんだよ!?」


 損? ……ああ、なるほど。そういう事か。

 しまった、言葉が足りなかったな。失敗した。


「まあ落ち着けよ、グランツ。何もそれだけで済ませようってわけじゃない」

「じゃあ、どうするんだ……?」

「その前に質問だ。あの馬車には、今回グランツ達が受けた依頼の依頼主が乗ってる。……間違いないか?」

「あ、ああ、間違いないが……」

「うん、なら良い。オレ達はグランツ達の斃したソードウルフを含めた3頭と、グランツ達から受けた護衛の手伝いの謝礼、そして本来護衛を依頼した依頼主から別途報酬を戴く。手伝いとは言っても仕事は仕事だからな。きっちり貰うさ」

「お前……それは……」

「というわけで依頼主と話がしたいんだが、構わないか?」

「…………ああ、わかった。じゃあ、話を通すから、ちょっと待ってくれ」


 そう言うとグランツは馬車に近付いていき、ドアをノックした。


「なあ、クロウ」


 クソ……空気読めよ、シオン!

 依頼主の顔を拝んでやろうと思ってたのに!

 まあ、後で拝めるだろうから良いけどさ。


「なんだよ、シオン。どうかしたか?」

「あの傷だらけのソードウルフ、貰うのか?」

「そのつもりだけど……気に入らないか?」

「まあ、な……。けど、クロウが決めたんなら良いよ」

「意見があるなら言ってくれよ、シオン」

「や、意見とかじゃなくてさ。さっきグランツが言ってたように、無傷のソードウルフを全部貰うのが普通じゃんか。でも、クロウはその利益を6割くらい捨てようとしてる。それは何でなのかなって」

「……ああ、悪い。そうだな。お前にもちゃんと説明してから決めるべきだった。ごめんな、シオン」

「良いから、納得のいく説明をしてくれ」

「わかった。まず、オレ達は冒険者になったばっかりの、右も左もわからないような駆け出しだ。これは良いな?」

「うん。それは間違いないからな」

「で、グランツ達はEランクパーティで、オレ達よりも先輩だ。そうなると、当然持ってる情報やコネも多い」

「……うん、そうだな」

「だが、オレ達はレイン以外にはジュリーくらいしか知り合いがいない。つまり、冒険者としての知り合いがいないんだ。これはマズイ」

「マズイのか?」

「勝手がわからないまま仕事をするのと、勝手を説明してもらって仕事をするの、どっちが実入りが良いと思う?」

「説明してもらう……ああ!」


 何かに思い至ったようにシオンが声をあげる。

 まだ説明は終わってないぞ。


「それに、護衛の手伝いを引き受けたのもそうだが、傷付きのソードウルフをこっちで引き取るのも狙いがあっての事だ」

「狙い?」

「打算的な話だからあんまりしたくないんだが、簡単に言えば、恩を売っておくんだよ。本来ならグランツ達は傷付きのソードウルフ1頭分の稼ぎしかないところを、傷なし3頭分の稼ぎをオレ達がくれてやったわけだ」

「ああ……なるほど」

「わかるか? こうなるとグランツ達はオレ達に、ソードウルフ2頭とちょっと分の恩……いや、借りが出来る。しかも、護衛の手伝いとは別口だ。おまけに、グランツ達やその周りの冒険者にオレ達の顔が売れる。……な、良い事尽くしだろ?」

「確かに……」

「これを『損して得取れ』と言う。商売をする時の基本だな。今は損をする……が、大局的に見れば得をしている。目先の利益に釣られるなって事だ」

「なるほどなぁ。やっぱ凄いな、クロウ! ほんと、お前が相棒で良かったよ!」

「まあでも、相談しなかったのはオレのミスだ。悪かったな、シオン」

「良いって良いって。それより、ソードウルフを回収しようぜ」

「おっと、そうだな。あんまり放っておくと質が落ちるからな」


 未だ地面の上に放置されたままのソードウルフの身体と首をホロスリングへと回収していく。

 シェルカ達が驚いた顔をしてこちらを見ていたが、まあ、後で説明すればいいだろ。

 本当なら隠していたいけど、ギルドに行けば嫌でも見せる事になるし、早いか遅いかの違いだけしかないからな。


 さて、後はグランツと依頼主の話し合いがどうなったか、だな……。

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