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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒とする異世界転生貴族生活
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信号弾はなぜ


「揃っているな」

「はッ!」


 伝令にメイドを走らせてから5分と経たずに、屋敷の前には騎士団がずらりと並んでいた。

 流石に行動が迅速だな。


「屋敷のメイドによって、メリオス村にて赤色の信号弾が確認された。これより、即時出立した後、当該の村にて討伐、防衛、救護にあたる」

「はッ!」

「では、行くぞ」


 言うが早いか、ぶわりと舞い上がる風がオレと騎士団を包み、高空へと移動させる。

 そうして、メリオス村の方角に進路を取り、負担がかからないが、しかし高速で移動を始める。


 ……さて。あまり被害が出ていなければ良いが。

 こういう時、転移魔法みたいなのがあればと思うんだがなぁ。



   ◆



 屋敷から飛び立ってから数分と経たずに、オレと騎士団の姿は、件のメリオス村にあった。

 しかし――。


「……これは……?」


 村には、パッと見で変わったところはない。

 地面が抉れているとか、凹んでいるとか、家が半壊しているだとか、血が飛び散っているとか。

 およそ魔物や賊に襲われたであろう被害は、まったく見られないのである。


「クロウ様、これは……」

「わからんな。ただ、こうまで変化がないとなると、あまり警戒は要らないかも知れないが……」

「しかし、しておくに越した事はない、と」

「ああ。徒労に終わればそれで良し。とりあえずは村長の家に向かう。お前達は一応村の警備に回れ」

「はッ!」


 騎士団の団長を務める男――ガンダル――は、短く返事をすると団員に素早く指示を飛ばし、己も警備に向かった。

 それを尻目に、以前訪問した際にも行った村長の家へと歩を進める。

 村の家々はどれも木造の住宅だが、村長の家は一目でそれとわかるように大きいので、仮に初見だとしても迷う事はないだろう。


「…………ふむ」


 相変わらず特に騒ぎがあったようには見えない村を眺めながら村長の家までやって来て、引き戸をノックする。

 すると、ノックから少しして、30代後半から40代前半ほどの年齢の女性が顔を見せた。

 以前にも顔を合わせたが、確か彼女は村長の娘だったはずだ。名前は……ソフィア、だったか。


「あらあら、クロウ様!」

「しばらくだな、ソフィアさん。村長はいるか?」

「お父さんですか? ええ、いますよ。……けど、どうされたんです?」

「うーん……オレにもいまいちわかってないんだが、ちょっとな。まあ、2度話すのもあれだし、上がらせて貰っても?」

「もちろんです! さあ、どうぞ。汚いところですが」

「お邪魔します」


 ソフィアの案内で中に入り、そのまま奥の部屋まで通される。


「お父さん、お客様。クロウ様よ」


 通された部屋には、60代後半ほどの老人が1人座していた。が、ソフィアの声にこちらを向き、顔を確認したのか腰を上げようとする。


「ああ、いいよ、そのままで。そろそろ座ったり立ったりが厳しくなる年齢だろう?」

「ほっほ。クロウ様にはかないませんな。では、失礼ながらお言葉に甘えさせていただきます」


 老人――村長のザング――は愉しそうに笑うと、元の体勢に戻る。

 オレはその対面に座して、ソフィアはザングの隣に腰を落ち着けた。


「して、この度はどういったご用件ですかな?」

「ああ。実は、屋敷のメイドが、このメリオス村で赤の信号弾が上がったと報告してきてな。被害が拡がっちゃまずいと思って、急いでやってきたんだ。…………が、村は特に変化がないみたいだな?」

「ええ。魔物や賊の被害もなく、平和に暮らしております。クロウ様よりいただいた魔導具にも助けられておりますよ」

「何もないなら良いんだが……。本当に何もないのか?」

「もちろんです。……しかし、赤色の信号弾は気になりますな。ソフィア。村の者を全員集めてくれ。大人も子供もじゃ」

「わかったわ。では、クロウ様。何のお構いも出来ずに申し訳ありません」

「いや。緊急の事でもある。気にしないでくれ」


 ソフィアはオレの言葉に一礼すると、急いだ様子で部屋を後にした。


「それにしても……まさか、悪ふざけなどでは……」

「どうだろうな。まあ、大人も子供も使えた方がいいだろうと何もしなかったオレの失策と言えばそうだが……」

「いやいや、そうではありますまい。有事の際にとクロウ様手ずから渡していただいたもの。悪戯になどと……」

「……それにしても。他の村民は気付かなかったのか? この時間なら、まだ畑に出てる奴もいるだろうに」

「そういえば……はて、おかしいですな。言われてみれば、何の報せもない」


 おかしいな。

 この村からはそこそこ遠方であるはずのオレの屋敷からは知覚出来て、この村では知覚出来なかったなんてバカな話はあるまい。

 今の時間ならば、畑仕事に出てる奴も多いだろうし、子供達も暢気に外で遊んでるはずだ。

 あるいは隠蔽系の闇属性魔法の線もある……が、それを使っていたのなら魔力の残滓を感じ取れるはずだ。

 隠蔽魔法の魔力残滓を隠蔽する魔法を……なんて、往年の狩りゲーみたいな話はないしな。



 やがてソフィアが『村民の集合が完了した』と帰って来たので、村長とソフィアとオレで、みんなの前に姿を現す。

 流石に、緊急事態という事でオレの事は伝わっていなかったらしく、みんなは驚いていたのだが。


「しばらくぶりだな、みんな。今日集まって貰ったのは――まあ、簡単に言えば、みんなを心配して来たんだ」

「それは……ありがとうございます、領主様。しかし、何故突然……?」

「……ま、気になるよな。落ち着いて聞いて欲しいんだが、先刻、この村の信号弾が上がってるのを屋敷のメイドが見たらしい。色は赤だったそうだ」


 言うや否や、集まった村人達が騒然となる。

 大人から子供まで、理解出来そうな奴には信号弾の事は全部説明したからなぁ。


「で、だ。今現在、魔物あるいは賊に襲われた。襲われて怪我をしたって人がいれば出て来て欲しい。手早く治療してしまうから」


 村人達はそれぞれ身体を確認しあったりするが、出てくる者は1人もいない。


 うーん……メイドの勘違いだったのか……?

 いや、有事の際に騎士団が動くのはメイド達も理解してる。間違ってもそんな勘違いはするまい。

 実は嘘だった、なんて事もないだろう。


「……そうか。まあ、確かにみんな元気そうだしな。じゃあ、誰か赤の信号弾を見たって人はいるか?」


 そう問い掛けてみるが、これにも村人達は反応しない。

 ……つまり、誰も見ていない。


「んー……そうかぁ。いや、時間を割かせて悪かった。一応それだけ確認しておきたくてな。もし仮に誰かの悪戯だったりしても、責めずにいてやってくれな」

「クロウ様は我々の誰かが悪戯をしたと……?」

「可能性の話だ。まあ、あるいはうちのメイドの見間違いかも知れないしな。どちらにせよ、あれこれと言うつもりはない」

「そう……なのですか?」

「まあな。魔導具云々より、お前達が何にも襲われずに平和に過ごしてくれてる方が大事だ。時間を取らせて悪かったな。それぞれ普段の生活に戻ってくれ」


 村人達は笑顔を見せると、それぞれ己の仕事を果たすために日常に戻っていく。


「村長、ソフィアさん。協力ありがとう。原因には当たらなかったが……まあ、みんなが無事だっただけで良かったよ」

「そう言っていただけると、私達も嬉しいです」

「また何かありましたら、頼らせて貰いますぞ」

「ははは。流石に喧嘩の仲裁とかはナシだぞ、村長?」


 冗談めかしてそう言うと、ザングとソフィアは笑い声をあげる。


「じゃ、騎士団を纏めたら屋敷に帰るよ」

「はい。お元気で、クロウ様」

「またいつでも遊びに来てくだされ。何もない村じゃが、何もないなりの持て成しをいたします」

「ああ、また来るよ」


 そう言って2人と別れ、ガンダルを見つけて騎士達を集めるように言う。


 ……さて。

 一体これはどういう事なんだ……?

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