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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒とする異世界転生貴族生活
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脅威あらわる


 さて。勧誘していた面々が全て到着してから、十数時間が経過した。

 本来の予定とは少し違う事もあったが、それ以外に関しては大体が想定通りで、特に騒ぐ程の事もなかった。

 ……まあ、ローゼンクランツ領で生産、販売を独占している海水塩を口にして、カレン親子がかなり騒いでいたが。


 何はともあれ、昨日は宴会だったわけだ。

 それはそうだろう?

 勧誘したとは言っても、やはり彼女らは客人。

 今日からが本格的な『ローゼンクランツ領民』としての生活だ。


「あー……頭いたぁい……」

「なあ……私が揺れてるのか? 世界が揺れてるのか……?」

「誰も喋らないで、頭に――いだだだだっ」


 死屍累々であった。

 宴会だからと深酒をして、ソルダル組、ロクソール組両方の面々が総崩れだ。

 酒を飲めるからと言って酒に飲まれているようでは、まったく情けないと言うかなんと言うか。


「やれやれ……。どいつもこいつも揃って……バカ共め」

「うおぉぉぉ……クロウはなんで平気なんだ……? 結構飲んでただろ……いたたたた……」

「良い事を教えてやろう、シオン。オレは聖属性の魔法が使えるんだ。凄いだろう?」

「そう、だった……」


 愕然とした顔をしたかと思えば、再びその身を襲う頭痛に悶え始めるシオン。

 やっぱり、酒は飲んでも飲まれるな、だな。

 前世じゃ、あんな標語が何の役に立つんだと思っちゃいたが、こうしてみると……なるほど、為になる。


「ま、しばらくそうしてろ。メイド達にも世話はさせないよう言っておく。せいぜい、度を超えた飲酒の恐ろしさを記憶に刻みつけるんだな」


 そう言って、宴会に使った広間を後にする。

 ……常習化したら、オレも標語を貼り出してみようかな。効果あるかも。


 広間から出た足で、そのまま執務室に向かう。


「お早うございます、旦那様」

「ああ。おはよう、ライヤ」


 執務室には、既にライヤがスタンバイしていた。昨夜の宴会に、歓待の席だからと多少付き合わせたが顔色は良い。


「昨夜は無理を言ったようで悪かったな」

「いえ。たまの息抜きという事であるなら、私も楽しい時間を過ごせました。……シオン様達は?」

「飲み過ぎで漏れなくぶっ倒れてる。メイド達には、良い教訓になるだろうからって世話はしないように言っておいた」

「旦那様は手厳しいですね。……旦那様も随分と飲まれていたように思いましたが」

「オレは聖属性が使えるからな。自分で解毒したよ」

「左様で」

「――さて。じゃあ、仕事をしよう。まずは報告を頼む」

「はい」


 ライヤは短く返事をすると、オレが執務用の机に向かうのを待って口を開いた。


「――では。まず、現在進行中の各計画の進捗について。旦那様が発案なされたチェス、ならびに各種遊戯は、国内の貴族家には既に渡っています。また、王家においてもそれは変わりなく、興味を示している他国の王候貴族がいる、と話が来ております」

「……ふむ。存外に早かったな。個人的にはもう少しゆっくりと浸透させていく予定だったんだが」

「それだけ興味を惹かれたという事でしょう。私も……お恥ずかしながら」

「くっくっく……。まあ、そうしてライヤや殿下達が興味を示してくれる事は何よりだ。いずれは平民向けにも何か作らないとな。ルセアの店にはよく便宜を図ってやれ」

「はい。……それから、手動ポンプですが。鍛冶師ガランの手によって作られたものが、エルドラや周辺の村に設置完了したようです。早速使用の感想も届いています」

「おっ、どうだった?」

「好意的な感想ばかりですよ。特に主婦層から、仕事が楽になったと絶賛されています。また、屋敷のメイド達からも好評です」

「そうか。……作らせた甲斐があったなぁ」


 とりあえず、ゲームも手動ポンプも受け入れられてるようで何より、ってところだな。

 まあ、思っていたよりは早くに受け入れられているわけだが……まあ、それに関しては単純に嬉しい話だから、特に言う事はない。


 それにしても……随分と情報の伝播が早いな。

 ある領地からある領地まで、どれだけ急いでも馬車で5日はかかるだろう世界だってのに、まるでSNSやインターネットでもあるかのような伝播の仕方だ。

 ……うーん。まあ、多分、貴族の御用商人とかが情報を持っていったりしてるんだろうな。


「塩の方はどうだ?」

「塩……海水塩ですね。懇意にしている行商人に曰く、着々と他の領地でもその存在が知られ、料理人を中心に好評みたいですね」

「ふむ……。儲かってる、よな?」

「もちろんです――が、収入に対して支出があまりにも少ないので、貯まる一方ですね」

「まあ、特に使う予定もないからな。今のところ、どれくらいあるんだ?」

「向こう30年は好き放題に贅沢して暮らせますね」

「……税を納めてもか?」

「無論です」


 何を当たり前の事を、とでも言わんばかりの真顔のライヤ。


「国に納める税に換算すると?」

「70年分……でしょうか」

「ははは……」


 ま、まあ、金はあって困るわけでなし。

 特段贅沢をするわけでもないから、適当に領民に還元して、領地の更なる発展に役立てて貰えばいいか。

 貴族と違って、平民はいくら金があっても足りないだろうしな。


―――コンコン


 ライヤの計算に苦笑いを浮かべていると、ドアをノックする音が響いた。


「入れ」


 短くそう返してやると、メイドが1人入ってきて一礼した。


「どうした?」

「はい。メリオス村から緊急の信号弾が打ち上げられているのを確認いたしました」

「色は?」

「赤です」


 メイドの言葉に、ぞわりと全身が粟立つ。


 エルドラ周辺の村には普段はオレはいないために、有事の際には信号弾を打ち上げるようにと、専用の魔導具を渡してある。

 これは家1つにつき1個配布してあるもので、その緊急性に応じて色を分けられる。

 すなわち、緑、黄、赤、黒の4色。


 緑は、遠方に脅威を見つけ、なおかつそれが村に向かってきており、村の人員では撃退が難しい場合に打ち上げる。

 黄は、村のすぐ近くに脅威が迫っており、なおかつ村の人員での撃退が難しい場合。

 赤は、既に村の中に脅威が入り込んでおり、撃退が難しく、負傷者が出ている場合。

 そして黒は、村の中に脅威があり、撃退が難しく、既に死者が出ている場合に打ち上げるのである。


 今回は赤。

 つまり、村の中に脅威があり、撃退が難しく、負傷者が出ている場合である。


「騎士団に緊急召集をかけろ。準備が出来次第、屋敷の前に集まるよう言っておけ。ライヤは――これを広間でぶっ倒れてる奴らに1個ずつ飲ませて、状況を説明しておけ。ここの防衛戦力だ」

「畏まりました」

「承知しました。旦那様は如何されますか?」

「騎士団とメリオスに向かう。聖属性が使えるのはオレくらいだろうしな」

「……ご武運を」


 ライヤはそう言って目礼すると、メイドと共に執務室を出ていく。


 ……メリオス村か。

 地図では、エルドラの右下辺りに位置する村だ。男女比は……若干女性が多かったかな。

 村の近くには深そうな森があって、昔から時々魔物の被害には遭っていたと聞いている。

 しかし、どの時も撃退には成功していたらしい。


 ……となると、一体どんな魔物が出たんだ……?

 いや、あるいは賊の可能性もあるか。

 賊なら……信号弾を打ち上げた事で非道い目に遭ってなきゃいいんだが……。

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