勧誘 ソルダル組の到着
領主着任から2週間もすると、声を掛けていた面々がエルドラにやって来た。
勧誘した時に、良ければ迎えに行くと打診してみていたのだが、『領主になるような人間がそんな事をするもんじゃない』と異口同音に言われてしまったので、大人しくエルドラでの出迎えである。
最初に来たのは、ヴァイスとレインのソルダル冒険者ギルド組。てっきり、2人だけで来たものだと思っていたのだが……。
「やっほー、クロウ! 久しぶりー♪」
「元気だったかよ、シオン?」
「しばらくぶりだね、2人共」
何故か、ソルダルにいたはずの高ランク冒険者パーティがいくつかくっついてきていた。
ええと……顔ぶれからして、《無垢なる暗刃》に《蒼穹の薫風》、《ラスティアール》に《メルティナイト》もいるのか。
……あ、そうか。レインはまあ当たり前として、ヴァイスも一応重要人物だもんな。護衛くらい付くよな。それにしちゃ多いけど。
「久しぶりだな。随分豪華なメンツの護衛じゃないか。ご苦労さんだったな」
「にゅふふ♪ それが違うんだなー。あたしたちは単なる護衛じゃないんだよーん」
《無垢なる暗刃》のシリルが言う。
単なる護衛じゃない……? じゃあ、なんだろう。観光か?
「あたしたちはー……」
「あたしたちは?」
「にゅふふふふ……♪」
「なんだよ、勿体ぶるなよ?」
「あたしたちはねぇ……みんながみんな、エルドラ移住希望者なのだーっ!」
シリルの言葉に護衛で来た冒険者連中が頷く。
…………はぁっ!?
「おま、いや、おい……聞いてないんだが?」
「うむ。言ってないからな」
「いや、言えよ。歓待の準備なんかしてないんだぞ、こっちは」
さも当たり前の事のように言うヴァイスに若干の苛立ちを覚える。
大体、こんなに高ランク冒険者を連れてきて、ソルダルの方は大丈夫なのか?
一応どいつもこいつも辺境で冒険者なんかやってる屈強な連中だとは言え、これだけのメンツが一気に抜けたら危ないんじゃないのか?
「お前の懸念もわかるよ、クロウ。けど、これはソルダルにいる冒険者仲間も納得しての事だから、あまり心配しないでくれ」
そう言って柔らかな笑みを浮かべるのは《ラスティアール》のシンクだ。
「……本当か?」
「本当さ。だから俺達が一気に抜けてきても平気なんだ。本来なら、ただの護衛にしたって過剰戦力だろ?」
確かに過剰戦力だ。
《無垢なる暗刃》はシリルをリーダーとする隠密主体の4人パーティ。
冒険者なのに『お前達は暗殺者か』とツッコみたくなるほどに入念な魔物暗殺計画を立てて、それを実行する。魔物討伐実績はピカイチだ。
シンクがリーダーの《ラスティアール》はバランスの良い5人のパーティ。
剣と盾を持って前線に立つシンクと、同じく前線に立つ槍使い、斥候役でもあり戦闘面のサポートも光るシーフ、魔法使いと弓使いを1人ずつ抱えて、しかも後衛のくせに体術も完璧。
このパーティだけでも過剰戦力だ。
《蒼穹の薫風》は身軽なシーフ2人、魔法使い2人、弓使い1人の、全員が幼馴染の軽装パーティ。
多数の魔物相手では他のパーティに一歩及ばないが、シーフ2人が敵を惹き付け、魔法使い2人がメイン火力となり、弓使いの的確な射撃が頼もしい、尖っているが何故か安定感のあるパーティだ。
メンバー全員が獣人というのも珍しいが。
そして最後に《メルティナイト》。
彼女達は、かつて女騎士を目指した貴族の子女達である。
メンバーは5人。全員が剣と盾を手に、ドレスアーマーを着て、5人それぞれが別の属性の魔法を扱うという、『もうこのパーティだけでいいんじゃないかな』的な優美なパーティだ。
商隊の護衛経験なども豊富で、『高ランクパーティで護衛に選ぶなら絶対このパーティ!』と、他の冒険者達をして言わしめた。
「よくもまあ……。いや、言っても仕方ないか。見知った顔だが、改めて自己紹介をしておこう。この辺りの領主をしている、クロウ・ローゼンクランツだ」
「《黄昏の双刃》、シオンだ」
「流れとしては私もだな。クシャナ・レイ・アルトラだ。今は第一王女をしている」
クシャナ殿下の自己紹介に、ヴァイスとレイン、以下冒険者達がぎょっと目を見開く。
……まあ、まさか第一王女が知り合いの冒険者の側にいるとは思うまい。
「じゃあ、次は私だな。知った顔もいるが……メリッサ・コルナートだ。ソルダルから来た諸君にとっては、コルナート辺境伯の方が通りが良いだろう」
コルナート辺境伯の自己紹介で、冒険者達が一歩退いた。
気持ちはわからないでもない。
何せ、知り合いの冒険者のところに気安い感じでやって来たら、王族と高位貴族に出会うような挙げ句になっているのだから。
そりゃあ、一歩退きたくもなるだろうさ。
「ローゼンクランツ家にて家宰を務めております。ライヤ・メイルダムと申します」
「ライヤって貴族だったのか」
「はい。貴族家の家宰は貴族でなければ務まりませんので」
ああ……まあ、そうか。
貴族家に明るいから採用されてんだよな。
「こちらも一応しておこう。元ソルダル冒険者ギルドマスター、ヴァイス・エルサーディアだ。よろしく」
「元ソルダル冒険者ギルド職員、レインです」
「にゅっ!? あ、え、えと、《無垢なる暗刃》リーダーのシリル、です!」
「《ラスティアール》リーダーのシンクです。以後お見知り置きください」
「……《蒼穹の薫風》……リーダー……ラスティナ」
「《メルティナイト》のリーダーをしております、シルヴィア・ノーランドと申します。クシャナ王女殿下、コルナート辺境伯との知己を得られ、この上ない喜びを感じております」
ヴァイスを皮切りにレイン、護衛&移住に来た冒険者達のそれぞれのパーティリーダーが代表で自己紹介をする。
《メルティナイト》リーダーのシルヴィアは、流石に貴族家の出身だけあって冒険者とは思えない気品だな。しかも丁寧だ。
ノーランド家は……確か、子爵家だったかな?
「自己紹介も終わったし、とりあえず今日はゆっくりしてくれ。ここまでの疲れもあるだろ。ライヤ、適当に宿屋を手配してやってくれ。料金はこちらで持つから、宿には十分な金額を支払ってやれ」
「畏まりました。冒険者の皆様には今しばらくお時間を頂きますが、何卒ご容赦を」
「いえいえ。クロウ達はどうするんだ?」
「まだオレの領地に誘ってる奴がいてな。彼女達の出迎えがある。だから、一旦お別れだな」
「そっか。じゃあ、俺達はこれでな」
「ああ。とりあえず……オレの領地へようこそ。近い内に、王族の生活すら霞むような環境を用意してやるから、期待しててくれ」
そう言ってニヤリと笑えば、冒険者達は苦笑を浮かべて『期待してるよ』とか返してくれる。
くっくっく……今に見て、果てに驚くが良いさ。
オレの言葉が嘘ではなかったと、すぐに思い知る事になるだろうからな。




