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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒とする異世界転生貴族生活
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チェス売り出し計画


 とりあえず直近で済ませられるチェスと手動ポンプの製造依頼を出したので屋敷に戻る事に。

 すると、執務室に入るなり――。


「すまない、クロウ」

「すまなかった」

「申し訳ございません、旦那様」


 と、クシャナ殿下、コルナート辺境伯、ライヤの3人に頭を下げられた。

 やめて欲しい。本当にやめて欲しい。

 もし今ここに第三者がやってきたら、絶対に、何が何でも、否応なしに誤解される。

 王族と寄親に頭を下げさせる不敬な奴だって誤解される。マジでやめて。


「や、あの。頭は上げてくれるとありがたい……かな」

「……ああ、そうだな」

「メイドに言伝てを頼んでおいたはずなんですが、聞いていませんか?」


 ……いや、依頼の他にも色々と見て回ってたから、流石にそれはないか。


「いや、聞いている。聞いている……が、流石にな」

「うん……。今回は私達が悪いからな。普通なら出来ない事だが、今は私達しかいないわけだから頭も下げるさ」

「その……この度は本当に――」

「あー、もういいから。気にしてもない事をわざわざ謝られても困る。それで、結局のところ感想は?」


 頭を上げたのに再び下げようとするライヤを制して、聞きたかった事を訊いてみる。


「感想というと……売れるかどうかか?」

「いや、それは殿下達を反応を見れば想像に易いので。単純に楽しかったかどうかを聞きたいですね。どうでした?」

「楽しかった!」


 即答である。

 腰に手をあてて、胸を張りながらの即答である。

 そんなに楽しかったのか、クシャナ殿下……。


「コルナート辺境伯は――」

「言うまでもない」

「あ、はい、そっすか。ライヤ……は、まあ、言わなくてもいいか。見ればわかるわ」


 クシャナ殿下と同じく堂々とした格好で言い放つコルナート辺境伯と、何故か瞳をキラキラと輝かせているライヤ。

 ……ライヤってこういうタイプの女性なのか。

 外面はクールに見せてるけど、実はファンシーなものとか好きそうなタイプって言うか……。


「しかし、我が愛しの息子クロウよ。これをどう売り出すつもりだ?」


 ……んん? 辺境伯、妙に点数稼ぎに来てない?

 そんな事しても点数は上がらないんだが。


「まあ、とりあえず国王に献上ですかね。それから、辺境伯にも渡しますので、親しい貴族に宣伝していただければ」

「……ふむ。わかった」

「父に、か。政務が手につかなくなりそうだな」

「そこは自制いただくしかありませんが……まずは国内の貴族に売ります。金額は……どうしましょうかね? 辺境伯なら、いくらなら買いますか?」

「白貨1500枚」

「もっと現実的な数字でお願いします」

「いや、しかし(あなが)ち理想とも言い切れんぞ、クロウ。少なくとも、公爵位や侯爵位にある者はそれくらい出して買うだろう」

「……アルトラの貴族は阿呆か何かで?」


 たかだかボードゲームに白貨を1500枚も出すなんて、バカか、そうでなければアホだ。

 大体、これ以外にも出す予定なんだから、いきなり1500枚も出されたら、以降の値段設定はどうしたらいいんだって話になる。


「国内のどの貴族も買えるような値段にしたいんですよね。国外にも波及させるつもりなので」

「……なるほど、国外か。どの貴族もとなると、白貨150枚が適正だろうか」

「もう少し吊り上げても構わないのではないか? 余程の事がなければ、その倍を出しても懐は寒くならんだろう、メリッサ」

「ふーむ……。それなら、目新しさもあるし、白貨500枚までなら出すのではないかな? それでどうかな、クロウ?」


 コルナート辺境伯が水を向けてくるが、正直なところ疑わしい。

 王族と伯爵位の人間の話だから、そう思ってしまうんだろうなぁ。


「ライヤ、どう思う?」

「そうですね。色々と加味しまして、白貨450枚あたりが妥当なところかと」

「じゃあ、それで売るか。でも、後から他にも出す予定だけど大丈夫か?」

「時期をみて、という事であればそう問題はないかと。アルトラの貴族は、どなた様も優秀な貴族であられるので」


 事も無げにそう告げるライヤの瞳に、黒い光が宿っているのが見えた。

 お前もか……お前もなのか……。


「わかった……。それから、諸々の利権はこちらで握っておきたいんだが……特許なんかの仕組みはあるのか?」

「あります。早速書類を用意しましょう」

「よろしく頼む」

「はい」


 短く返事をして、ライヤは早速自分の仕事に取り掛かった。


 それにしても……特許システム、あったんだなぁ。

 まあ、天照サマの作った世界だから、その辺りのシステムは組み込んであると見てもいい……のかな。


「殿下や辺境伯にもいくらか利権を渡す予定なので、そのつもりでお願いしますね」

「それは……いいのか? 私達は、特に何もしていないが」

「ええ。大きいところは全てこちらが握りますので」

「ははは。ちゃっかりしているな」

「親としても、今後が楽しみだな」

「まあ、新興であるローゼンクランツがあれもこれもと手にしていると、面倒な奴も出てきそうですからね。敵意は分散して、おいそれと文句を言えない場所に向けて貰えばと」


 そう言うと、殿下と辺境伯は顔を見合せて苦笑した。

 とりあえず、早いうちに海水塩の精製業に手をつけたいところだな。完成すれば最大の利権になるし、特許を取って精製方法を外に出さなければいいわけだし。


「……それにしても。チェス1つに白貨450枚、ですか。オレのような男爵位の貴族でも、それは問題ないのですか?」

「うむ。さっきも言ったが、余程の事がない限りはそれくらい出しても問題ない。それはどの爵位でもそうだ」

「それに、息子のこれは今までにないもの、なかったものだ。聡い貴族ならばまず、これの隠された機能に気付く」

「隠された機能、ですか。まあ、ある意味面白い機能ではありますけど、別に隠されているわけではないでしょう? キングにクイーン、それを囲むナイト、ビショップ、ルーク……そして、前線を張るポーン。きっとどの貴族も、駒の名前と配置を見れば確実に気付きますよ」


 聡い貴族でなくても、チェスを使って擬似的な用兵の訓練が出来る事には気付けるだろう。

 もちろん、単に娯楽、遊戯として遊んでもらうのもいいのだが、国を支えるという貴族的な視点の強い貴族なら、遊びながらに色々と考えるかも知れない。

 もしかしたら、それはクーデターなんかにも繋がるかも知れないが……まあ、その辺りは自己責任だ。責任の所在をこちらに求められても困る。

 こちらは『遊戯』として売ってるんだしな。


「懸念される事としては、チェスをすると用兵の訓練が出来ると気付いた人間が、クーデターなんかを(そそのか)すものだとして難癖をつけてくる事ですかね。まあ、だからこそ国王に献上するというのもあるのですが」

「ふふ。クロウはそこまで考えて父に献上しようとしていたのか」

「モノがモノですから。しかし、国王公認で遊んでいるとなれば、そうした意見は封殺出来るでしょう。わざわざ国王から楽しみを奪う愚か者は、アルトラにはいないでしょうから」

「違いない。くっくっく……諸侯のじい様達の苦しそうな顔が目に浮かぶ……!」


 そう言って、コルナート辺境伯は楽しげに笑う。

 この人も大概だな……。だからこそ、貴族としてやっていけてるんだろうが。


「それで、今日やれる事はもう済んだのか?」

「そう……ですね。直近でやれる事は今日済ませたでしょうか。あとは関係者と話し合いをしたりしてからでないと、手をつけられない事ばかりですね。チェスの他にも遊戯は用意がありますけど、今から全部出すわけにもいきませんから」

「なるほどな。……では、一局どうだ?」

「む、ズルいぞメリッサ。クロウ、私ともしてくれ」

「ええ。お相手いたしましょう」


 チェスや将棋なんかは、前世じゃ散々やったからなぁ。適当に手加減しながら、チェスを楽しむとしますか。

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