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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒とする異世界転生貴族生活
58/73

詳細を詰めましょう


 コルナート辺境伯と一緒に別室に通されしばらく待っていると、ロイ国王とクシャナ殿下、それから、近衛兵が台車(ワゴン)を押してやってきた。

 ……台車があるのか、この世界。

 流石にタイヤは木製でガッタガタだけど。


「さて。では、話を詰めるとしよう」

「おや……あれで終わりではなかったので?」

「あんな耄碌ジジイ共の前でなど、ロクな話が出来ないのでな」


 ロイ国王はそう言って苦笑を浮かべた。

 この国王、段々仮面が剥がれてきたな……?

 いや……それとも、クシャナ殿下がいるから父親の面が出て来てるんかな?


「まずは領地の話といこう。今回、ローゼンクランツ男爵領となるのは、港街エルドラ、そしてその近隣の村だ」

「……どんな場所なんです?」

「かつてはそれなりに栄えていた。貿易に関しても、ティアの街の港から入ってくる物質などは随分と繁栄の支えになっていたものだ」

「栄えていた……という事は、今はそうではないわけですね? 妙な予想なら出来ますが……一体何があったんです?」

「うむ。簡単に言えば、以前そこの領主だった貴族が圧政を敷いていたのだ。度重なる重税、それが払えないならば、その代わりにとその家の女性を夜伽の相手として屋敷に抱え込んだ。望まぬ子を産ませられたのも多い」


 ああ……聞かなきゃよかった……。

 とんでもないクズだったんだな、そいつ。


「無論、家は既に取り潰し、その貴族家の人間は粛清した。……が、そういった事があった故に、今ではエルドラの繁栄など望むべくもなくなってしまったのだ」

「なるほど。……つかぬ事をお訊きしますが、今現在、アルトラで使われている塩は、岩塩で間違いないですか?」

「うむ? ……うむ、そうだ。むしろ、大抵の国で岩塩を使っているだろう」


 やっぱりか。

 いやしかし、これは良い情報だ。

 どうせどこにも海水塩がないなら、生産をオレの領地で担ってしまえば、一財産どころか国を1個買えそうだ。


「それがどうかしたか?」

「いえ。では、これまではどうしていたのですか?」

「直轄地としていた。目立った繁栄もなかったが、逆に衰退もなかったな」

「……ふむ。人材に関してはどうなっていますか?」

「うむ。コルナート辺境伯とも話してな。彼女の信頼出来る人材を一人、家宰として送ってある。それから、ローゼンクランツ男爵の私兵に関しては、私の近衛から出そう」

「……近衛、ですか」

「ははは。安心してくれ。誰の息もかかってはいない」

「それなら……まあ……」


 軍部や騎士団の件があるから警戒せざるを得ないんだが、ロイ国王自体は信用に値するからな。

 その人が安心していいと言うのなら、とりあえずは安心しておこう。


「他に何かあるか?」

「……上から数えた方が早い退役軍人を1人か2人ください。実力が強ければ強いほど良いです」

「それは……しかし、本当にいいのか?」

「もちろん。万が一には戦力の足しにしますが、普段はそうじゃなくていいので」

「ふむ……。将来の義息(むすこ)の頼みだからな。私としては断るなどという事はないが……一体何を企んでいるのだ?」

「企んでいるなどと人聞きの悪い……。せめて、計画している、とか言ってくださいよ」

「……では言い直そう。何を計画しているのだ?」

「教えません。思わぬところから情報が漏洩して、くだらん連中に妨害されても面白くありませんので、領地経営計画として秘匿させていただきます」

「むっ……では、そうだな……国営に繋がる事か?」

「上手くやれれば国が買えますね」

「!?」

「まあ、そういう事ですので。どうか内密にお願いしますね」


 まあ、どう足掻いてもこっちの世界の人間には、海水塩の精製方法なんぞ考え付くはずもないだろうが。

 それから、海水塩もそうだが、海の幸を輸出……というか、内陸に向けて売り出すために魔導具も欲しいところだな。

 確か……魔導具が作りたかったら魔導具ギルド、だったか? 登録しに行くか。


「領地に関してはそんなところか?」

「そうですね。あとは……まあ、コルナート辺境伯や殿下の知恵をお借りします」

「任せておけ」

「必要ならばいつでも連絡を寄越すといい」


 頼もしい言葉だね、まったく。

 惜しむらくは、頼りにしている人達が女性だという事くらいか。

 オレも男だから、女性を頼るよりは女性に頼られたいって思うんだよなぁ。


「くっくっく……なかなか大変そうだな、クロウ」

「……嬉しそうですね、国王陛下?」

「くくく……許せ。ともあれ、アラクネクイーン討伐の褒賞だな。耄碌ジジイ共の手前100枚なんてケチ臭い事は言ったが、本当は300枚用意してある。おい」

「はっ! 失礼いたします!」


 国王の合図で、近衛兵が台車の上にある山にかけられた布を取り去る。

 そこには、紅貨が10枚ずつの山になったものが60ほどあった。どうやら、オレとシオンで300ずつという事らしい。


「これは……いいんですか?」

「無論だ。《黄昏の双刃》が対処してくれなければ、この王都など一瞬で蹂躙されそうな軍勢だったと報告が上がっているからな。この程度は出して当然の範疇だ」

「……まあ、それならありがたく受け取りますが」


 そう言いながら、ちらり、とシオンの方を見る。さっきからなんにも喋らないから心配だったんだよ。

 ……ん? あれ? シオン?


「おい、シオン? おーい!」


 シオンの目の前で手をブンブン振ったり、猫騙しをしたりしてみるが、まったく反応がない。

 どうやら、褒賞の金額に驚き過ぎてフリーズしてしまっているらしい。


 仕方ない。

 まあ、紅貨300枚も持ってたらシオンみたいな田舎出身者はロクに動けないだろうし、一旦全部預からせてもらうか。


「……では、ありがたく」


 一応紅貨に触れながら、ホロスリングに全て収納する。


「なっ……!?」

「ろ、ローゼンクランツ男爵……それは……!?」

「え? ……あー、そっか。見せるの初めてか。アイテムボックスってヤツだよ。この右手の指輪がそれ」


 ソルダルじゃ散々見せてたけど、そういえば、このホロスリングみたいな容量無制限、時間経過無しのアイテムボックスって、失われし技術(ロストテクノロジー)なんだっけ。

 アーティファクトとかオーパーツと同列の扱いだって話だったよな。すっかり忘れてたわ。


「一応断っておくと、オレの身体から離れて30分も経つと自動的に手元に帰ってくるから、研究とかには貸し出せません」

「そ、そうか……ならば仕方ないな……」

「はい。……それで、別室での用件はこんなところですか?」

「うむ。いや、いつまでも拘束してしまってすまないな。あの耄碌ジジイ共の前では、なかなかしたい事も出来ん故な。赦してくれ」

「いえ。見るからに、という感じでしたし、あれでは陛下が動きにくいと言うのも納得ですよ」

「そうか、わかってくれるか……!」


 妙にしみじみとした、噛み締めるような口調で言うロイ国王。

 本当に苦労してるんだなぁ……。


「……ともあれ、私からはこれで終わりだ。ローゼンクランツ男爵。我がアルトラ王国の為にも、よろしく頼む」

「御意に。……とは言っても、まだしばらくは動けなさそうですが」

「うむ。1週間後までには人選を済ませておくから、それまで好きにしていてくれ」

「わかりました。殿下はどうなさるので?」

「私か? 私も、色々と準備が必要だからな。1週間は流石にかからないだろうが、そちらに取りかかる事にする」

「そうですか。……では、オレも相棒を連れて宿に帰るとします」

「そうか。あまり危険はないだろうが、道中気を付けてな」


 殿下の言葉に頷きで返し、『それでは』と一言言って部屋を後にする。

 もちろん、シオンを連れて。

 あー……早く再起動してくれないかなぁ……。

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