パーティ解消……?
ランバート達を見送ってからホロスリングから果汁ジュースを1つ取り出して口をつける。
まったく……朝っぱらからグランドマスターや騎士団長みたいな立場ある人間なんぞと話をさせるなよな。
オレだって人の子なんだ。緊張もすれば喉だって渇く。勘弁してくれ。
「しかしまあ……そんなに落ち込んでたとは思わなかったな」
「何がだ?」
「……起きたか、シオン」
視界の端。ベッドの上で、シオンが上体を起こしている。
普通の声量で話してたから、もしかして起こしてしまったか?
「んな事はないけどさ。……それで?」
「いや、軍部や騎士団の威光はそうまで落ち込んだのかと思ってな」
「んー……仕方ないんじゃねえか? 第3隊の事も公になったんだろ?」
「フレイやレンカ達からはそう聞いたな。お蔭で、女だてらに男の騎士相手にも負けないって事で、むしろ第3隊こそ大人気らしいな」
「まあ、だよな。ていうか、誰か来てたのか?」
「ランバートと新しい騎士団長が来てたよ。アラクネクイーンの遺骸を渡せ、ってな」
そう言うや否や、シオンの顔がみるみるうちに不機嫌な色を帯びる。
シオンには、昨日気絶から目覚めた時に経緯を丸々話してあるから、それを思い出したんだろう。
アラクネクイーンが人語を操った事も、もちろん話した。まあ、アラクネクイーンに関してはそれがキモでもあるんだが。
「……そんな事言ってきたのか?」
「ああ。厚顔無恥ってのは、ああいうのを言うんだな」
「コウガンムチ? 睾丸を鞭で叩く事か?」
「想像するだけで痛いわ。お前、自分がもうそういうのとは無関係だからって、わざと言ってるだろ」
「や、別にそんなつもりじゃ……」
「……とにかく。厚顔無恥ってのは、厚かましくて恥を知らないって事だよ」
「……なるほど」
左手で作った皿に右手で作った拳を、ぽん、と落として納得の表情のシオン。
「渡したのか?」
「渡すわけないだろ。彼女の遺骸は永遠にホロスリングの中だ」
「……惚れたか?」
「ま、惚れたって言っても間違いはないかな。ああ……そうだ。シオン」
「なんだよ?」
「ソルダルに帰ったら、大事な話があるんだ」
「――っ!?」
ニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべていたシオンの顔が、一気に絶望色に染まる。
「……そっか。大事な話か……」
「ああ、大事な話だ」
「……ここじゃ、言えないのか?」
「言えなくはないが……ソルダルがいいな。あの街は、オレ達が初めて会った場所だし」
「そっか……」
「今日中に帰って、早めにヴァイスに報告しておこうと思うんだが、それでいいか?」
「ああ……うん……好きにしてくれ……」
「わかった。もし買いたいものとか、見ておきたいものがあったら言ってくれよ。帰る道中で言われちゃかなわないからな」
「うん……そうだな……」
「……? 何を落ち込んでるのか知らないけど、起きたんならメシ喰いに行こうぜ。先に行ってるからな」
「……うん……」
漫画なら、ずもももも、と書き文字が付きそうなシオンにホロスリングから新しく出した果汁ジュースを渡してから、下階の食堂に向かう。
食堂に降りるなり、オレの姿を認めたらしい宿屋の看板娘……とは言っても、恰幅のいいオバサン――女将さんだが――が食事を摂るかどうかを問うてくる。
もちろん朝食はいただくので、どうせすぐにやってくるだろうシオンの分も一緒に頼んでおいて、適当な席に着いた。
「にしても……シオンは何を落ち込んでたんだろうな……?」
思い返してみるに、『大事な話がある』とオレが言った段階で落ち込んだように見えた。
その前には……ああ、アラクネクイーンの時雨に惚れたか惚れてないかって話だったな。
……もしかして、それか?
いや……無いな。いくらなんでも、オレが時雨に惚れたって言ったから、大事な話=パーティ解散の話、とは思わないだろ。
流石にそれは飛躍し過ぎだ。ないない。
んー……じゃあ、なんだろうな?
あいつが落ち込むような、オレ達の間の大事な話って、ぶっちゃけパーティの解散くらいしかないんだよなぁ。
別に恋人同士じゃないし、ましてや夫婦でもない。単に冒険者登録の日が被って、そこからパーティを組んで、今まで相棒としてやってきているだけだ。
だとしたら……本当になんなんだ?
「ん……降りてきたか。ちょうど良いし、確認してみるか」
ふと視線を向ければ、シオンが相変わらず辛気臭い落ち込んだ空気を纏いながら、階段を降りてこちらにやってきていた。
朝っぱらからなんて空気を纏ってやがる、と思わないではないが、原因がわからない拳にはどうする事も出来ない。
そうして、足取り重くとぼとぼと歩いてきたシオンが席に着くと同時に、見計らったように女将さんが朝食を運んできた。
サービスの範疇ではあるがお礼を言って、いくらかチップも渡しておく。
「さて、喰うか」
「……ああ」
「……あのなぁ、シオン。なんでそんなに暗いんだよ?」
流石に、これから食事という楽しい時間を過ごそうという時に、目の前で陰気なオーラを放ち続ける物体をスルー出来るほど、オレは大雑把じゃない。
それに、これは経験則だが、こういった手合は放っておくと更に面倒な事になるので、出来るだけ早期に解決するに越した事はない。
「だって……お前、もう俺とは組まないんだろ……?」
「…………は?」
「女になったから……。今までは我慢してたけど、出来なくなったんだろ……?」
「……んんん?? な、なんだ? どうしてそうなった……!?」
混乱が混乱を呼んでいる。……気がする。
シオンはなんでその思考に至ったんだ?
「だって、大事な話があるって……」
「うん、言ったな」
「だからパーティ解消の事だ、って思って……」
「それは飛躍だろ。オレは内容に関しては何も言ってないぞ」
「でも……俺は女になったから……」
「…………んん?」
はて。シオンが女になった事とパーティを解消する事の、どこに繋がりがあるんだ?
……もしかして、アレかな?
男女混成のパーティは、パーティ内に恋愛感情が持ち込まれて人間関係に軋轢が生じたりするから、よっぽど信頼してるか、発生しても問題ないパーティじゃないと解消不可避だよな。
って話したのを覚えてて、それでなのか?
それで、自分がオレに対してそういった感情を持ってるから、大事な話=パーティ解消話って解釈したのかな……?
仮にそうだとしたら……なんというか、想像力逞しいな。それを魔法習得に向けられればいいんだがなぁ……。
「お前、多分勘違いしてるぞ。オレはパーティを解消するつもりはないからな」
「じゃあ、大事な話ってなんだよ……」
「だから、ソルダルに帰ったら話すって言っただろ? それに、出来れば2人きりで話したいんだ」
「……ほらぁ、やっぱりパーティ解消話だぁ……」
「なんでだよ! その思考の飛躍をやめろ! そのつもりは無いって言ったばっかだろ!」
「じゃあ、なんだよ……」
「人の話はちゃんと聞けよ。大事な話がある。だが2人きりで、ソルダルに帰ってから話したい。今はそれだけだ」
「……パーティ解消の話じゃないんだな……?」
「くどい。大体、なんでオレがお前を手放さなきゃならないんだ」
「…………は?」
しまった、つい本音が。
「なんでもない。それより早く喰え、冷めるぞ」
「いや、うん。それより、今、なんて……?」
「なんでもねぇよ、なんでも」
「今、俺を手放したくないって言ったか?」
「そうは言ってない」
「同じ事だろ」
「知らん。とにかく喰え」
「おう!」
さっきまで陰鬱なオーラを放っていたシオンが、機嫌良さそうに満面の笑みで頷き、朝食に手を伸ばした。
まったく……現金な奴だな。




