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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
冒険者を始めましょう
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依頼の為に、いざ行かん


 定宿を《黄昏の水面亭》に決めた翌日、オレとシオンは早速ギルドに、手頃な依頼はないかとやってきていた。

 とは言ってもオレ達はFランクの冒険者。個人でFランクならパーティでもFランクなので、必然的に受けられる依頼はFランクの簡単なものになる。

 まあ、最初から難しい事に手を出すより、基礎から地道にやっていく方が良いから、それは別に問題ではないのだけれど。


「どうだ、なんか良いのあったか?」

「シオン。オレに任せてないで、お前も依頼書とにらめっこしろよ。早いうちから依頼の内容を見極める眼を育ててないと、いつか面倒な依頼を知らずに受ける事になるぞ」

「……ちぇ、わかったよ」


 まったく、仕方のない奴だ。

 本人は面倒がってるけど、いざシオンが単独で依頼を受けるなんてタイミングになったら、今のままだと困るだろうしな。

 せっかくこれから相棒としてやっていくんだし、出来るだけ不幸な目には遭わせたくない。

 その為にも、今のうちからしっかり眼を育てといてもらわないと。


「んー……お、これなんかどうだ?」

「あ、これアリだな」


 互いにそんな事を言って手にしたのは、シオンはゴブリンの討伐依頼、オレはメルト草という回復薬(ポーション)の材料になる薬草の採取依頼だった。

 ゴブリンとは、子供くらいの大きさの、緑色をした人型の魔物だ。ゴブリンソルジャーやゴブリンメイジなどの派生もいるようだが、この依頼のはボロ布に棍棒を装備した通常のゴブリンだ。

 多少武術に心得のある人間なら子供にも斃せる、そんな魔物。


 基本的に魔物は、その身に魔力を宿しているとして、魔力量の多い強い魔物の肉は美味いとされている。だが、ゴブリンやコボルトといった、言ってみれば低級の魔物は保有魔力量が極めて少なく、大して美味い肉じゃないらしい。

 しかし、美味くはないにしても不味いというほどではなく、大量に、しかも安価で手に入る事から、貧乏な駆け出し冒険者なんかを中心に、買う人間はそれなりにいるらしい。

 ただ、この討伐依頼やメルト草採取依頼はいわゆる常設依頼という奴で、誰かが依頼主というわけではなく、ギルドの方で管理して、依頼の品を街に流通させるのが目的の依頼だ。

 それに、ゴブリンはどこにでも湧くし、メルト草も冬以外は確実に採れる事から、駆け出し冒険者が初めてやる依頼として貼り出されている、とレインが言っていた。

 ゴブリン討伐もメルト草採取も、ソルダルからあまり離れていない場所で討伐や採取が可能だから、それも初心者用という理由付けの後押しをしているんだろう。


「ゴブリンの討伐依頼か。いいんじゃないか?」

「メルト草の採取依頼か……。ゴブリンがいる場所とも近いし、いっぺんにやっちゃうか!」

「それなら、近くでやれそうなのは全部受けるか? いちいち受けて達成してってやるのは面倒だろ」

「……でも、補給とかどうする? 1日中、街の外にいるわけにいかないだろ」

「バカシオン、昨日の今日でもう忘れたのか? アイテムボックスがあるって見せてやったろ」

「あ、そっか」


 昨日の夜、晩メシを喰ったあとでシオンに『その指輪、なんだ?』って訊かれたから、どういうものか説明してやったのに、忘れていたらしい。


「外に出る前に、そこの屋台で適当に買って行こう。それなら大丈夫だろ?」

「そうだな! じゃあ、これとこれと……」

「これも良いんじゃないか? あとこれも……」


 二人して適当な依頼書を片っ端から取って、受付のレインのところに持っていった。


「ちょっ……こんなに受けるの!?」

「まあな。それで、討伐依頼なんだけどさ。討伐した魔物ってどうしたらいいんだ?」

「……ま、いっか。魔物にはそれぞれ、ギルドが決めた討伐を証明する部位ってのが決まってるのね」

「討伐証明部位、か」

「そーそ。それで、その討伐証明部位を依頼書に書いてある魔物の数分持ってきたら、それで依頼はクリア。もし、魔物の本体も一緒に持ってきたら、別途ギルドで買い取るわ。だから、余裕があるなら持って帰ってきてね」


 右目を閉じてウインクしながら、お姉さんらしさを前面に出しつつレインが言う。

 可愛い。可愛い……んだけど、顔が完全に狼のそれなんだよな……。それでも口が出っ張ってるわけじゃないし、眼は人間の眼と同じなんだけどな。

 オレは割と冷静に見てられたが、シオンはすっかり骨抜きだ。デレデレしただらしない顔が気持ち悪いぞ、シオン。


「それと、この駆け出し冒険者用の依頼は、全部東門から出た先でクリア出来るから、そうしなさいな」

「東門って言うと……ラッソーとネルトのいる門か」

「そうね。あら、クロウくんは知り合いなの?」

「まあ、ソルダルに入る時にな。でも、なんで東門から出た方がいいんだ?」

「他の3つの門から行く街道には、オークとか盗賊団が出たりするらしいから。だから、初心者は必ず東門からって事になってるの」


 なるほど。せっかく冒険者になった奴が、なってすぐに死なないようにっていう配慮か。

 にくいねぇ、冒険者ギルド。


「く・れ・ぐ・れ・も! 東門から出るのよ」

「そんなに念を押さなくても、聞き分けのないガキじゃないんだし大丈夫だよ」

「たまにいるのよ、その『聞き分けのないガキ』ってヤツが」

「そうなのか……。まあでも、今日中に帰ってくるし、大丈夫だよ」

「あんまり無理しないのよ?」

「わかってる。引き際は弁えてるよ。……おい、シオン。いつまでもレインに見とれてないで、早く行くぞ」

「…………え? あ、ああ、うん、そうだな!」

「ふふふ。頑張ってね」


 ひらひらと手を振って見送ってくれるレインに手を挙げて返事をして、シオンと冒険者ギルドを後にする。

 そして、適当な屋台で食糧を買ってアイテムボックスに収納する。


「……なあ」

「んー?」


 買い出しも終えて東門に向かって歩いていると、それまで無言だったシオンが口を開いた。


「レインちゃんって、恋人いんのかな?」

「……そりゃ、いるんじゃないか? なんだよ、好きなのか?」

「嫌いじゃないかなぁ」

「んなフワフワした気持ちならやめとけ。お前は今、レインの年上としての色気に騙されてるだけだ。ちょっと歩いて冷静になれば、それも自覚出来るさ」

「そうか……。外側からそう見えるって事は、そうなんだろうな」


 シオンは、年上の色気に騙されるくらいには単細ぼ……ではなく単純だが、一方で、客観的な意見を素直に受け入れる冷静さも持っている。

 人間としては、かなり優秀な部類だ。

 まあ、オレも前世では年上趣味だったが。ていうか、男は大抵、年上趣味になると思う。

 結局のところ、男は女の母性に、女は男の父性に惹かれるって事なんだろう。


「ま、いいや。とりあえず依頼の確認をしておこう、クロウ。討伐依頼は3つ。ゴブリン、コボルト、レザードを各5体ずつだ」


 緑色の小人ゴブリン、2足の犬コボルト、そして黒鱗の蜥蜴レザード。

 レザードは、日本の生物で例えるならアカハライモリ。その腹が白くなって、体長を2メートルにして、黒い鱗を全身に生やしたような魔物だ。

 ゴブリンやコボルトに比べて討伐難易度は高いのだが、それと言っても比較対象は所詮ゴブリンやコボルトであって、駆け出し冒険者が狩るには十分な強さだ。

 結局はFランクの討伐依頼として貼り出される程度の強さしか持っていないから、斃すのは簡単な方だと言える。


「採取依頼はメルト草、シェードの花、コルトの実の3つだな。シオン、特徴覚えてるか?」

「えーっと、メルト草は葉が炎の形みたいになってて、シェードの花は花びらが水色、コルトの実は赤紫の実が20個くらい鈴生りになってるんだっけか」

「覚えてたか。お前も適当な時に本読んで勉強しとけよ?」

「そういうのはクロウに任せるよ」

「ソロで活動しなきゃならない時が来たらどうするよ?」

「……まあ、なんとかなる!」


 やれやれ……このテキトーささえなくなれば、シオンも大成出来そうなんだけどな。

 備えあればって言うし、知識は得ておいて損はないと思うんだが……まあ、その意志がないなら仕方ないか。


「――お、クロウじゃねえか」

「本当だ。昨日の今日でどうしたんだ?」

「ラッソー、ネルト。今日は依頼だよ。東門から出るのが良いって言われたんだ」

「ああ、なるほど」

「いつもの初心者用依頼か。そっちの金髪は誰だい?」

「俺はシオン。クロウとはパーティを組んでるんだ」

「へえ。クロウにも知り合いがいたんだね」

「ネルト。山奥にいたオレに、こんな知り合いがいるわけないだろ。昨日ギルドで会ったんだ。しかも、同時に登録した」

「くっくく……運命的な出会いってやつだな、クロウ?」

「そうかもな」


 からかうように言ったラッソーが、オレの返答で固まる。どうやら本当にからかおうとして言っていたらしい。

 残念だったな、ラッソー。

 こう言っちゃなんだが、シオンとの出会いにはちょっと運命じみたものを感じてるのは確かだ。なんというか、オレの、この異世界での人生に深く関わってきそうというか……。

 まあ、確証なんて無いけど。でも無意味な出会いじゃなさそうなんだよなぁ……。


「……っと、そうだ。外に出るんならギルドカード見せな」

「……なんで?」

「まあ、出ていくのが本人なのかって確認と、記録を取って、帰ってきてるかきてないかの確認をする。帰ってきてないなら捜索隊を出す必要があるからな」

「なるほど……」


 そう言われると確かに必要な事だな。

 科学技術が発達してるわけじゃないし、地球とは違う文明体系だから、そういうのが必要とされてるってわけか。


「ほら、わかったらギルドカードを出せ」

「今出すよ」


 2人同時にラッソーとネルトにギルドカードを見せる。

 門番の2人はギルドカードを確認すると、すぐにこちらに返してくれた。本人のものだって確認出来れば問題ないって事なのか?


「よし。じゃあ、気を付けて行ってこい」

「一応夜中でも門番は立ってるけど、出来るだけ日中に帰るようにしてね」

「ああ、わかった。じゃあ、行くか。シオン」

「おう」


 足並み揃えて、というわけではないけど、2人並んで門の外に出て、そこから伸びる街道を歩く。

 うーん……理想は日中……それも昼までには帰りたいところだな。ただ、依頼書に記載してある以上の数を用意すると、通常の報酬にプラスアルファで貰えるらしいから、それを狙うのもアリかも知れない。

 規定数をクリアしたらシオンに相談してみるか。

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